元上司への復讐のために生まれ変わった私が見た現実
足音も聞こえないほど、降りしきる雨。
痛みに耐える獣のように、低いうめき声と血を吐く音。
ボロボロになった体で地面を這い、そばにあった木に拳を何度も殴りつける。
「くそっ!! なんでっ、なんで、私だけが……。上司も同僚も後輩も、全員……全員」
嘲笑うような周囲の視線、声を上げても無視され、助けを求め伸ばした手は払い除けられる。
ガハッ……ゴホッゴホッ
「なんで、どうして、私だけ……どうして。どうしてですか、風間さん……」
自分の心に暗いモヤが侵食していくのが分かる。目の前から光は消え、今までにない感情が立ち込めてくる。
目の前に憔悴しきった女性がひとり。体は痩せ細り、復讐心に支配されて暗いオーラをまとっている。口からは血を吐き、地面をえぐる様に強く拳を握りしめ、何度も体を木にぶつけたのか、至る所に傷がある。
「死期が近い人間がいると思って来てみれば、なかなか酷い状態ね」
彼女を見ていると何故か、どうしようもなく可愛そうに感じる。
パンっと両手で顔を叩き、仕事モードに切り替える。
「さて、指令書はいつも通り《導き》かしらね」
パラパラと天界から預かった指令書に目を通すが、見慣れない文字に目を見開く。
「《再起》?!」
再起ってあの再起?! 数百年に一度あるかないかの?!
なんで私が……。これは、もう天界の嫌がらせとしか思えないわね。
ぐしゃっと指令書を握り潰し、苛立つ気持ちを整えて彼女の側に降り立つ。
「こんばんは」
「ッ!」
ゴンッ
「いったぁーい! なんで石投げるのッ」
「何なんだお前っ。お前も……私のことを見下しに来たのか!」
「違う違うちがーう! 私はあなたにチャンスを与えに来た天使なのよ」
「天使だと? 私も幻覚を見るほどになったのか」
彼女は顔をしかめる。
「ちょっと! 本当だからね! 簡単に言うと、今から別の人間として生まれ変わることができるの」
「……そんなうまい話が本当にあるのか。何か裏があるんじゃないのか」
「そうね。実はかなり珍しいことなので詳しくは私もよくわからないのよ。でも、確実にもう一度やり直すチャンス《再起》が与えられるわ。引き受けるのも拒否するのもあなた次第よ」
彼女は黙り込み、下を向く。
「このまま何もしなければ、私があいつに負けたという証明になる気がして気に食わない」
数秒の間を置いて、私を見上げる。
「私には殺したいほど憎い、復讐したい相手がいる」
ギリギリと下唇を噛みしめ、血が滲んでいく。鋭い目は私をまっすぐ見て、再起を選択すると訴えてくる。
歪んだ理由ではあるけど、最初に彼女から感じたものは殺意だけではなかったはず。
……もっと彼女を知る必要があるわね。
「では、管理番号198703210001。三葉司さん。あなたに再起のチャンスを与えます」
彼女の額に手をあてる。
瞬く間に光に包まれ、彼女は意識を失った。
「さて、私も頑張らないとね。これからよろしくね」




