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途中で閑話入れたせいで話数がおかしく・・・15話目がないですが気にしないでください。
初めてのお茶会は、表面上は問題なく和やかに過ぎていった。
女性が集まった時の話題といえば、どこの世界も関係ない。
恋愛だ。
どこそこの子息は誰と恋仲にあるだとか。
誰それが叶わぬ恋をしているだとか。
密かに通じ合っている男女がいるだとか。
社交界でいつも女性に囲まれている方は誰だとか。
知らない世界の話を聞くのはとても楽しかった。
だが、マーガレット様の、時おり私を見る視線が痛いが・・・。
何だろう。この短時間でマーガレット様の気に触るような言動はした覚えはないのだが。
それに爵位でいけば、公爵家のマーガレット様は私の上。
必然的に私は彼女を優先すべき立場になるのに。
女性は謎だ。
と同時に、マーガレット様とは別の視線を感じる方がいる。私と同い年の子爵令嬢のソレイユ様だ。
ジン兄様曰く、
「どちらかと言えば控えめな性格の方で、大それたことをするような大胆さはない。
まぁ害にはならないだろう。友人になるにはちょうどいいかもしれないが、・・・・まぁその程度だ。」
と、最後の方は濁した感じで言われた。
他人が聞いたら失礼な言い方だっが。
垂れ下がった眉毛は、常に困った感じの印象を与えてくるし、全体的にふっくらした体つきの方だ。
ほんわりしたイメージ。
ちらちらと私を見ては、目が合えばどこか恥かしそうに目を伏せたり、ニッコリと微笑まれたり。
初対面のはずなのに、その意図が見えない。
一目惚れでもされたのかしら?
なんて、女性同士なのにそんなことを思う。
何度目かに目が合った時、意を決したように彼女が話しかけてきた。
「あの、私も『サラ様』とお呼びしても構わないでしょうか」
と。
「えぇ、是非そう呼んでください。ソレイユ様」
私が答えると、彼女はぱぁっと喜びを表した。相変わらず八の字眉毛は困った感じだが。
「あの、サラ様。ジルンアス様はご実家ではどういった方なのでしょうか?」
「え?」
唐突に兄様の話をされて戸惑った。だって、今まで家族の話は出ていなかったから。
「あら。ソレイユさん。貴女本当にジルンアス様がお好きなのね。いつも遠目から見ているって、もう有名よ」
「マーガレット様・・・」
爆弾発言をしたマーガレット様に、一気にソレイユ様の顔が赤く染まる。
うっすらと汗もかかれて、見ていて不憫になってくる。
「さっきからチラチラと見ていたでしょう。聞きたくてウズウズしていたのね」
尚もマーガレット様が追い詰めるかのように言う。
あぁ、でもこれで合点がいった。ソレイユ様はジン兄様がお好きなのか。
ジン兄様ももしかしたらこれを知っていて、濁したようにソレイユ様のことを教えてくれたのだろうか。
「そうですね・・・。兄はいつもお優しくしてくださいますよ」
マーガレット様からの攻撃に小さくなっているソレイユ様を助けようと、差し障りのないようにジン兄様のことを言う。
うっかりしたことを言うわけにはいかない。あくまでも表面的に、だ。
「私、執務中のジルンアス様しか拝見していないのですが、いつも、こう、冷静な顔をしておいでですわ」
ソレイユ様は私の言葉に勇気を得たのか、勢い込んで乗り出してきた。
なんか、隠れて兄様のことを見ていそうだな、と思う。
「え、えぇ・・・。ですが私はどちらかと言えば微笑んでいる方が多く見ます」
「やはりサラ様にはお優しいんですね?」
「はい。兄は優しいですよ。ソレイユ様がお見かけしたのはきっと執務中の兄だからですわ。普段はそんなことないですよ」
「まぁぁ!羨ましいですわ、サラ様!」
両手を胸の前で握り締めて、憧れいっぱいの目で見つめてくるソレイユ様に、私は少したじたじした。
「ソレイユ。その辺になさいな。サラが困ってるじゃないの」
見かねたのだろう、エリザベス様が嗜める。
「それに・・・・」
と視線をある一方向に向ける。
「お兄様。そこにいらっしゃるのでしょう。隠れてないでおいでになったら?」
エリザベス様の言葉の意味を理解する前に
その場の空気が変わった、と思った。
ピンと張り詰めたような、そう、いつの間にか肉食獣に背中を狙われた時の小動物のような、緊張をはらんだようなもの。
「バレてたか。さすがベスだな~」
カサっという茂みの音と共に現れた男性。
先ほどまでの威圧感を感じる空気とは違って、軽い口調。
一斉に席を立ち上がり、淑女としての最敬礼をするご令嬢方。もちろん私もその中の一人だ。
その姿を目にする余裕もなく、頭を下げる。
「あぁいいよ。畏まらなくて。僕はただの邪魔者だからね」
そうは言うものの・・・・
王女殿下であるエリザベス様が「お兄様」と仰る方。
それは、王太子殿下ただ一人に違いない。
誰一人として頭をあげる者はいない。
「全く、お兄様のせいで空気が台無しだわ」
さすがは兄妹。エリザベス様がため息交じりにづけづけと言う。
「あぁごめんごめん。ほら、皆。ベスが怒ると怖いから、顔を上げてくれないか?」
その言葉にようやくそろそろと顔を上げる。
それでもそのお顔を直視することは躊躇われる。この国の未来の王に。
ジン兄様とカイ兄様が仕えているお方。兄様たちはあまりお仕事のことを仰ってはくれないから、王太子殿下の人となりは侍女たちの噂でしか知らない。
ここで粗相なんぞしようものなら、兄様たちにもきっと迷惑がかかる。
ドキドキしていたら、なぜか私の前に王太子殿下がやって来た。
(ななな、何で!?)
混乱しつつも、何かひっかかりを感じる。
その雰囲気。差す影の位置。声音。そして鼻をくすぐる―――
「初めまして、隠れ姫。やっと会えましたね。アルブレイ・ヴィルヘルム・フォン・ラインハルです」
気付いた時には、そっと左手が持ち上げられ、その甲にキスを落とされていた。
一瞬のことに何が起きたか分からず、だがその後キスをしてきた相手―――王太子殿下がそのままの姿勢で私を見上げてきた時には
カーッと頬に熱が上がるのが感じられた。
ジン兄様と同じ、輝くような金色の髪。吸い込まれそうなほど深みを湛えたブルーの瞳。
エリザベス様と同じく、王妃譲りの端整な顔立ち。
だが笑みを浮かべた口元とは違って、その瞳はどこか私を伺うような、何かを見つけ出そうとしているもののようで
私はすぐさま自分を取り戻した。
「王太子殿下。『初めまして』。サラミリア・チル・オイレンブルクと申します」
ずっと出したかった王子登場。
ついでにサラちゃんの本名も登場。名前考えるのって難しいですね・・。