第6話 今日も今日とて、黒瀬さん
今日も黒瀬は、同人誌を描くため部室に訪れていた。
「今どんな感じだ?進んでるか?黒瀬。」
俺はいつも通り漫画を読みながら尋ねた。
「うん。なんとかいい感じだよ。半分くらいかな?」
「おお!よしこのままのペースなら7月のイベントまでには間に合いそうだな。」
今は5月半ば、あと約2ヶ月もあればなんとか間に合うだろう。初めてにしては良いペースだ。
題材はもちろん魔法少女ミラクル☆ハート。主人公ルミナとそのライバルであるシオンのゆるゆる日常を描いている。
黒瀬は初めての参加ということもあり、7月に行われる小規模の同人誌販売イベントに決めた。
「どのくらいの人が手に取ってくれるのかな??」
「んーそうだな、たくさんの人が見てくれたら嬉しいな!頑張ろうな。」
黒瀬は珍しく、子どものようにわくわくしている様子だった。
もちろん初めてなので少し絵が粗いところや、おかしいところも見える。
しかしそれ以上にその作品への思いを込めて絵を描いている様子に俺は感動していた。
「黒瀬、絵描くの楽しいか?」
「うん!楽しい。家ではこんなことできないから......」
黒瀬は少し寂しそうな表情でそう言う。
「和泉も知ってるだろうけど、私の家ではこんなことできないからさ、ほんとにありがとね。」
黒瀬家は昔から、親の教育が厳しかった。
アニメや漫画は子どもに悪影響を与えるものだと考える家庭だった。
そのため集めたグッズなどは捨てられ、黒瀬はそういったものから遠ざけられて育ってきた。
それに対抗するため、高校生になった黒瀬はピアスを開け、髪を染めたりしている。
それもすごく怒られていて、いつものように揉めているらしい。
「黒瀬の家は昔から大変だもんな。」
「まあね。でも和泉のおかげだよ。こんな楽しい趣味に出会えたのは。」
俺は小学生の頃、アニメや漫画にハマった。
それからというもの、黒瀬にも自分が好きな作品を教えるようになった。
最初は興味なさそうだった黒瀬も、いつの間にか一緒に楽しむようになっていった。
「黒瀬、いつでも部室来ていいからな。」
「ええ、和泉?来て欲しいなぁ。の間違いじゃなくて?笑」
「あーうるさい!それは忘れろぉぉ!」
せっかく励ましてやったのに。バカバカしい。ほんとに黒瀬の野郎はまったくだ。
「そういえば和泉。来月は体育祭だよ。」
体育祭。運動自慢の陽キャたちが自分を見せるためだけに頑張るくそみたいなお祭りだ。
「はぁ。ほんと憂鬱だ。何のためにあるんだ体育祭なんて。」
「そういえば和泉。去年はかましてたもんね笑」
俺は去年リレーに出場した。一位でバトンを受け取り、ゴール直前で見事なヘッドスライディングをかましてやった。
「やめてくれ......あのせいで赤組が負けたってみんな言うんだ。陰口、すごいんだから。」
「私は大爆笑だったけどなー。でも何にも出ないわけには行かないでしょ。なににしたの?」
球技が苦手な俺は選択肢が少ない。みんなに迷惑をかけないような個人競技を選ぶことが重要だ。
また今年もリレーに出ることになったら、クラスから批判の嵐だろう。てかもう嫌だ。出たくない。
そこで俺が選んだ競技とは。
「借り人競争だ!」
「......え、うそ正気?」
確かにそう思う気持ちは分かる。俺に友達はいないし、誰も俺と手を繋いで走りたくなんかないだろうからな。
「黒瀬、俺を舐めすぎだ。適当に先生を借りていけばいいだろう!!」
「今年も面白いの期待してたのに。なんかつまらないね笑」
黒瀬は呆れた表情で俺にそう言った。
「別にいいだろ、何を期待してるんだよ。」
「実はカッコいい和泉の姿も期待してたのに。」
「......ひぇは!?」
思わぬ一言に、気持ちが悪い声が漏れてしまった。
「なに、ひぇは?!って笑 ほんとだよ?だから見せてね?カッコいい和泉くん。」
「まじでやめろぉぉ!!馬鹿野郎ぉぉ!!」
とまあ、すっかりいつもの光景となったギャルの入り浸る放課後は、今日も続いていく。
_____次回、体育祭編。




