04:兄姉の結婚そして
ムトは15で嫁いだ。ネフェルトの幼少時に起きた事件以降、父親は中央官僚への不信感を隠そうとすらしなくなっていた。しかしもちろんそれは家内に限ってのことだ。父は州の長官だ。長官としての務めは極めて真っ当にこなしている、のだと思う。
そんな事情もあってか、ムトが嫁いだのは同州の高位軍人の息子だった。軍人としてはなんとも心許ない若者に見えたが、その父親は我が父に勝るとも劣らぬ立派な体躯をしていた。当時10歳だったネフェルトの目から見ても我が父と新郎の父は、長年背中を預け合って戦い抜いてきた戦友のように見えたものだ。ムトの夫もいずれはそれらしくなるだろうと期待をしている。
ムトの婚礼から2年が過ぎた頃、今度はパセルが嫁を迎えた。パセルの嫁は隣州長官の娘だ。ちょうどムトと歳が同じで、ネフェルトにとっては新しい姉のような存在だ。今で3年を少し過ぎたところで、私たちは毎日の長い時間を共に過ごしている。
そして昨夜、父と母から重大な話を聞かされた。ネフェルトの嫁ぎ先が決まったらしい。明日の美しき谷の祭の最中に、その相手と顔を合わせると聞かされた。今世の伴侶は祭司の息子だ。今年ネフェルトは15になった。ムトが嫁いだのと同じ歳だ。そろそろだとは覚悟していたことだ。
早朝、身支度を整え行列が出発した。ネフェルトも大人と同じように質の良い亜麻で身を包み、長い髪のカツラをつけ、香油を首筋に少しだけ纏わせた。装飾は気に入っている細い腕輪を数本のみ、それと首には控えめな花輪だけを飾った。母からはもう少し華やかにしてもかまわないのにと言われたが、気が進まなかったのさ。今年は墓参だけではないようだからね。
ビールや葡萄酒を積んだロバを先頭に、パンやら肉やら果物などがそれに続く。幼い頃は単純にこの日を楽しんでいた。これが祖先の弔いの行事だと知ったのは少し成長してからだった。かつての人生では縁のなかったことだ。これは今世初めて得た知識なのだから仕方ない。
川を渡り、祖先の墓へと向かい父や母、パセルたちと共に場を清めて供物を備えた。花を添える役目は今年もネフェルトとパセルの妻だ。
アメンが川を渡る直前、祭司の息子と対面した。ありふれた瞳の男だった。今世も私の探し続けている男ではなかったものの、こざっぱりとして真面目そうなところに好感を持った。この日は互いの両親から紹介される程度の軽い顔合わせのみ、数分で終了だった。アメンがこちら岸へ到着すれば、祭司たちは大忙しだからね。時間がわずかしかなかったことはむしろ有難かった。次に会うのはきっと婚礼当日だろう。
アメンに花と供物を供え祈りを捧げると、再び祖先の墓へ戻った。その後は墓前の庭で親族らと親睦の時間だ。今朝運んできた肉や果物が次々と並べられていく。父と母を中心に大きな輪になって座った。
「ネフェルト、葡萄酒はほどほどにな」
毎度おなじみのネタで父親から声をかけられた。何度擦れば満足するんだい。ネフェルトの名誉のためにも、ここは声を大にして言っておきたい。ネフェルトは酒癖が悪いわけでも、深酒をするわけでもない。
それは10年以上も前、赤子の頃まで遡る話だ。私がネフェルトに転生した翌日のことさ。他国への貢ぎ物用にと誘拐された時、閉じ込められた箱の中は酒が塗られていた。酒に漬け込んだ布まで敷いてあって、保護された時には大変酒臭かったらしい。あんまりじゃないか、あれはネフェルトのせいではない。
けれどこうして父が笑いの種にできるほど、あの事件を消化できているのだと思えば、まあ許してあげてもいいよ。周りの者も皆、笑顔だ。さて、ほどほどに飲むとしようかな。目の前にはズラリとご馳走が並んでいる。さて、何から手を付けようか。




