23-2 審問と謁見 (後編)
彼は穏やかに笑っている。
「元気そうだね」
「主任はいつ、解放されたんです?」
「一昨日。君の結果を知りたくて、待ってたのさ。帝都を見物できて、面白かったよ」
「そうですか。入ります?」
そうだな、とレントが頷くので、中に入った。
椅子を勧めて、僕は寝台に座った。
「無期停学らしいね。どうするつもり?」
「まだ決めていませんけど、どこかで働くか、故郷に帰ります。復学の目もあるわけですし」
「なんだ、平凡だな」
平凡って、他に何ができるんだろう?
「私は今回の件で、勲章を受けてね」
よくわからない話題転換だった。
「階級は二階級特進で、報奨金は莫大だ」
「二階級特進? じゃあ、中佐ですか? かしこまった方がいいでしょうか?」
「今まで通りでいいさ。それに、もう中佐じゃない」
中佐じゃない? どうして?
「予備役に入った」
反射的に僕は彼の制服の襟章を見た。
中佐の階級章だけど、少し違う。予備役であることを示すものが、そこにある。
「どうして、予備役へ?」
「軍はそれほど好きじゃないし、私も陛下をお守りする方法を考えたくてね」
私も、というところが引っかかった。僕の様子でそれを感じたんだろう。レントが微笑む。
「君のようにね、リン」
「僕は、とても、そこまででは……」
「気にしないでいいよ。私だけの考えさ。それで、さっき言った通り、莫大な報奨金があってね。ちょっと使い道に迷ったけど、決めたんだ」
「何に使うのですか?」
彼が微笑んだまま、じっとこちらを見た。
「一緒に旅をしないか」
「旅……? どこへですか?」
「行きたところへ、行きたいように。どうかな、悪くないだろ?」
「いえ、それは、その……、僕は無一文ですけど」
立ち上がったレントが僕の両肩を掴んで揺すった。
「気にするな。楽しいはずさ。考える時間は十分にある。と言っても、三日程度が限度だ。城壁の正門のところで、三日後、待っている。またな、リン」
レントはあっさりと部屋を出て行ってしまった。
ちょっと呆然としつつ、どうにか気を取り直して荷物をまとめて、外へ出た。数日ぶりに剣が戻ってきた。
帝都の空気は穏やかに感じられた。
それはたぶん、僕の状況の慌ただしさ、ひっ迫さによるんだろう。
踏み出そうとすると、目の前に馬車が停まった。避けようとすると、扉が開き、声がかけられた。
「へい、リン。久しぶりやな」
降りてきたのはキクスだった。ニヤニヤと笑って、手招きしている。服装は、禁軍師範学校の制服だ。
「乗ってくれや、リン。俺は道案内や」
「どこへ?」
「黙って乗りいや。早よせい」
仕方なく、僕は馬車に乗った。すぐに走り出す。
「師範学校を停学になって、晴れて自由やな。予定もありそうやが」
さすがに僕も、身を硬くした。処分はさっき、聞いたばかりだ。レントが知ることはできても、一学生のキクスが知っているのは、どう考えても変だ。
「警戒すんな。俺は味方やで」
「一体、何者なのか気になるよ」
「それはまだ秘密や」
馬車がゆっくりと停車する。キクスは自分でドアを開けて、出て行く。僕は外に出て、はっとした。
そこは、帝宮にある通用口だった。
「はよ行くで」
素早く、キクスは中に入ってしまった。僕はもう迷うのをやめて、彼の後を走って追った。
◆
謁見の間に入ると、もうリンはそこにいた。膝をついて、頭を垂れている、すぐ横にも同じ制服の少年がいた。
「面をあげよ」
椅子に座っても私の姿は幕に隠されている。ぼんやりと、リンと、情報局の局員の少年が直立するのが見えた。
「リン・リー、大儀であった」
短い返事の後、彼が頭を下げる。
「キクス・グロウの働きも、大儀である」
彼も頭を下げる。
「リン・リーに使わすものがある」
顔を上げたリンが不思議そうにこちらを見ているけど、幕のせいで視線が合うようなことはない。
控えていた侍女の一人が、進み出てリンに何かを手渡した。
「励め」
私は席を立って、そのまま幕とともに部屋を出た。
◆
僕はキクスとともに外に向かいつつ、受け取った箱を開いた。
「ふむ。それが何か、知っているか?」
「いや、知らない」
皇帝陛下から下賜されるといえば、禁軍師範学校の卒業時に、成績上位十名に与えられる、短剣くらいしかわからなかった。
「皇帝守護騎士を知っているか?」
「それは知っている」
皇帝守護騎士は、禁軍兵士とも違う、特別な護衛だ。
個人で高い技量と知識を持ち、皇帝を警護するのと同意に、その政治に関しても補助する役目だった。
しかし、リーアは誰も任命していない。
「その宝石は、皇帝守護騎士の証や」
思わず箱を取り落としそうだった。
溢れた宝石を掴み止め、手のひらで眺める。
真っ赤な宝石だ。しかし、どこかで似たものを見た。
あれは……。
胸元に手を当てる。服の下の巾着に、宝石が入っている。
「その皇帝守護騎士っていうのは、何人だったかな」
「二人やな。もう一つ、枠があるなぁ」
信じられなかった。リーアが僕に渡したのも、キクスがまるで僕が皇帝守護騎士になったような言い方も、現実じゃないみたいだ。
「それで、お前はどうするんや?」
僕は答えることもできず、宝石を箱に戻し、立ち止まっていた。
「止まっている間はないで、リン。どうするか、答えや」
僕は平常心を意識しながら、一歩、踏み出した。
(続く)




