末 旅立ちの季節
帝都の中は、第六軍の兵士が我が物顔で歩いていて、その制服が最初こそ馴染めなかったけど、この三日で、少しも違和感がなくなった。
僕は荷物を担いで、歩いていた。服装は旅を想定している。
禁軍師範学校の制服は、売り払ってしまった。あまりにお金がなくて、どうにかしてお金を作らないといけなかった。
剣だけは、売る気はない。烈風剣は、僕の体の一部になっている。
通りを進んでいくと、前方に城門が見える。数え切れないほどの人が、待ち合わせで周囲を眺めつつ、立っている。
目的の相手はすぐに見つかった。
「主任、お待たせしました」
「来ると思っていたよ」
レントが一頭の馬の横に立っていた。馬には荷物が載せられていて、僕の分くらいは余裕で乗りそうだ。
「荷物はそれだけか?」
「持ち物が少ないんですよ。元手もないですし」
「いいだろう」
僕は馬の上に荷物を載せた。
◆
私は必死に走っていた。ミラがいないので、抜け出すのに手間取ってしまった。
帝都を駆け抜けて、正門に向かった。通行人を避けて、転びそうになりながらも、足は止めない。
見えた!
目的の人の背中に、私は叫んだ。
「リン!」
彼が、振り向く。
◆
振り向くと、人波の中から転がり出てきた少女が手を振って走ってくる。
レントが少し身を強張らせるけど、それは相手が皇帝だと気付いたからだろう。
僕は自然に前に出て、リーアを迎えた。
「リーア、どうやって、ここへ?」
彼女は僕の前で肩を上下させて、息を整えている。すぐには喋れないほど、息が乱れていた。
「あの、お礼を、言いたくて」
「お礼?」
「助けてくれた、お礼よ。あなたこそ、命の恩人なんだから」
当たり前じゃないか。そう言いたかったけど、僕は瞬間、言い淀んだ。
当たり前なのは、皇帝を救うことではなく、友人を守ることだ。
それを伝える言葉は、短くてもいいだろう。
「友達だからね」
「うん」
リーアがすっと背筋を伸ばした、と思ったら、僕の唇に唇の感触があった。
突然のこと、考えてもいなかったことに、僕は呆然とした。
「また会いましょう、リン」
一歩、下がったリーアが頭を下げる。
「ありがとう!」
顔を上げて微笑んだ表情が、記憶に焼きついた。
彼女は身を翻し、また人の波の向こうに消えてしまった。
「やれやれ」すぐ横にレントが来た。「君はどういう立場なんだ? 一体」
「知りませんよ……」
僕は少しずつ冷静さが戻る、落ち着きが戻るのを感じつつ、まだ人波を見ていた。
またリーアに会えるだろうか。
いや。違うな。
宝石を二つ、受け取っている。それはまた会えるという約束であり、同時に、もう一つの使命を示している。
もう一人、リーアを守るのにふさわしい人間を探し出す。
きっとリーアはそれを願っているんだろう。
もう一人の誰かは僕の友であり、リーアの友にもなる。
「行きましょう、主任」
僕は振り返り、城門に向かって歩き出す。レントが無言で馬を引いて、横に並んだ。
「それで」
城門をくぐる時、狙ったようにレントが言った。
「あの子のことを、どう思っている? 一人の女の子として、だが」
「そうですね」
城門を抜け、視界が開けた。
「大事な子です。僕にとって、最も大事な人です」
レントは何も言わなかった。
旅は今から、始まるのだ。
(了)




