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23-1 審問と謁見 (前編)

 帝都に着いた時、混乱はもう気配もなかった。

 あるのは焦げ臭い匂いと、燃えた痕跡だけだ。

 街のそこここに兵士の姿があり、その制服には第六軍の紋章がある。城壁の外には第四軍の兵士がいてぐるっと囲んでいたのも見た。

 レントと僕は中央軍の中央指揮所へ呼ばれていた。帝宮に近い場所にあり、中央軍の中枢だ。

 指揮所は一部が焼けて、崩れている。入り口で武器を手放し、丸腰で中に入った。すぐに係員がやってきて、僕とレントを別の部屋に導いた。咄嗟にレントを見ると、不安がるな、という表情だった。

 入った部屋には、壁際に椅子が並び、十人以上の様々な年齢、制服の人が並んでいる。背広を着ているのは政治家か官僚、中央軍の制服の男が数人、禁軍の制服の男が数人、禁軍師範学校の幹部もいる。背広だがどこか似合わないのは、学者だろうか。

 裁判というよりは審判と呼べる形で、僕には様々な質問が飛んできた。

 僕がリーアにたどり着いた理由が重要なようだけど、あれは運だった。この場の誰もが、どうして僕が皇帝陛下の素顔を知っていたのかは、質問しない。そのあたりはすでに調べが付いているんだろう。

 軍人たちがしきりに、命令無視、独断専行を批難し始め、それを他の背広組が落ち着けようとしている光景が展開された。

 僕としてはただ黙っているか、質問に答えるしかできない。

 レントを退けたことを聞かれた時は、

「最善と判断しました」

 と、応じた。軍人の一人が顔を真っ赤にして叫ぶ。

「上官に切りつけることが、最善か! 恥を知れ!」

「最善は、最善です」

 小さな声でそう言い返すと、その軍人が机を乗り越えようとして、二人の軍人に押し止められた。

 そんなこともありつつ、審問はその日では終わらず、翌朝から再び始まり、夕方で終わり、三日目になった。

 三日目の昼間に、議論は終わり、通達があるまで待機となった。

 議論の結論がどうなるのか、僕にはわからなかった。議論が終わったのも、僕を否定するか、容認するか、その両派に分かれてぶつかり合い、もうお互いに妥協できないと理解したために、議論を打ち切った、という感じなのだ。

 指揮所の中の客室の一つが当てられていて、そこに入ると、中に意外な客人がいた。

「それほど疲れているようではないね」

 マリアンナが椅子に座って、こちらを見ている。

 僕は驚きを即座に消して、ゆっくりと部屋に入り、小さな寝台に座って、マリアンナと向き合った。

「どうやってここに来たんですか?」

「私は師範学校を出て、禁軍の兵士になったの。その権限なら、ここに入れる」

「早期採用ですか?」

「緊急事態もあってね。もっとも、今の禁軍はほとんど飾りで、この街も陛下も、第六軍が押さえている」

 頷いた僕に、マリアンナが顔をしかめる。

「無事で良かったけど、あまり無茶をすると、リーアの負担になるわ」

「それは悪いと思うけど、僕としては、彼女にあっさりいなくなったり、全てを放り出してもらうわけにはいかないよ」

「それは皇帝だから?」

 首を振っていた。

「友達だからだよ」

 苦笑したマリアンナが、視線を窓の外に向けた。僕はその横顔を見た。

「それだけで、命を賭けるの?」

「これでも、師範学校の生徒だし」

「健気ね」

 すっくと立ち上がったマリアンナが出て行こうとするので、僕は慌てた。

「ちょっと、何のために来たのか、知りたいんですけど?」

「あなたの顔を見に来たの。もう会えないかもしれないしね」

 ドアの前で、マリアンナが振り返った。

 悲しげな顔に、胸を打たれた。

「ありがとう、先輩」

「いつか会いましょう」

 マリアンナは、名残惜しさだろう色をすぐに隠して、微かな笑みを見せて、ドアの向こうに消えた。

 部屋に一人になり、僕はじっと動きを止めた。

 マリアンナとは、また会えるだろう。彼女は禁軍にいる。

 でももうリーアとは会えないのかもしれない。

 リーアと会いたいと思っている自分が、不思議に思えた。

 彼女は皇帝陛下、僕のような立場ではおいそれとは会うことはできない。

 首から下がっている紐を引っ張って巾着から宝石を出した。

 それを手のひらの上で転がした。

 翌日の昼間、再び呼び出され、もう見慣れた面々の前に僕は立った。

「リン・リー候補生への処分を告げる」

 軍人の一人が立ち上がり、手にした書類を読み始めた。

 最後の一言は、その長い説明に対して、完結だ。

「よって、無期限の停学とする」

 停学か。

 てっきり退学か、あるいは牢に入れられるかと思ったけど、そこまでではないのだ。

 幸運だけじゃない。誰か、もしかしたらリーアが助けてくれたのかもしれない。

 会議室を出て、待ち構えていた文官が僕を事務室に連れて行き、詳細を通達をした。

 禁軍師範学校への立ち入りは禁止。どこにいても自由だが、所在地を禁軍に教えておく必要がある。

 資金援助は何もない。自活することになる。

 仕方ない。どこかで働くか、故郷に帰るしかない。

 荷物を取りに割り当てられた個室に戻る。そのドアが見えた時、そこでまた人が待っているのが見えた。うんざりするけど、仕方ない。どうやら軍人だ。

 いや、あれは……。

「主任?」

 そこにいたのは、レントだった。




(続く)

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