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15-2 新しい生活 (後編)

     ◆


 御幸は年に一回、定例のようになっている。

 私もすでに二回、実施していた。年が明けてすぐに三回目の御幸の計画が上奏されてきた。

 財務大臣からの意見で、帝都近辺のいくつかの会社の工場を訪れる、ということだった。

 話し合いが重ねられ、休む場所、泊まる場所が決められていき、予算なども仕上がった。

「渡りに船ってこういうことね」

 計画が議会に承認された日の夜、私はマリアンナと会っていた。

「そう言うと思ったわよ」

 呆れたような口調とは反対にマリアンナは楽しそうだ。

「モロー砦の近くを通る計画がある、って私も気づいたわよ」

「砦を視察するのも、ありでしょ?」

「無しに決まっているよ。でしょ、ミラ?」

 ドアの傍に控えていたミラが頷いた。

「いいじゃない、それくらい」

 唇を尖らせる私に、ミラが控えめに応じる。

「モロー砦の実態は、公然の秘密です。そこに皇帝陛下が臨まれてしまえば、全てがご破算、ということになりますので」

「皇帝って、すごく不便だわ」

 私は頬を膨らませて見せ、マリアンナの笑いを深いものにした。

「でも」即座に私は反撃する。「手紙くらいならいいでしょ?」

「手紙? 皇帝陛下が?」

「ダメなのかな。そうよ、皇帝が手紙を書いちゃいけないなら、ミラからの手紙にしてもいいわ。どう、ミラ?」

「私が、手紙、ですか?」

 さすがにミラは目を白黒させている。ここで押せば、うまく倒れるかも。

「なんなら、ミラが代筆して。そうすれば、正真正銘、ミラからの手紙だわ」

「ちょっとちょっと!」

 慌てたマリアンナが、珍しく声を荒げる。

「ミラの代筆でもいいけど、誰が届けるのよ」

「それはまた考えるわ」

 肩を落として、首を振るマリアンナが、嘆く。

「私の手紙は突き返されるのに、侍女の手紙は突き返されない、なんて、あるのかしら」

「え?」

 今度は私が慌てていた。

「マリアンナの手紙、届かないの?」

「そうなのよ。郵便局から送り返されてくる」

 私はミラの方を見た。ミラが手元で小さく合図してきた。

 どうやらミラが、止めているらしい。ナイスアシスト。

「まぁ、良いじゃないの」私はさりげなく言った。「便りがないのは無事の知らせ、とか言ったり言わなかったり」

 ジィッとマリアンナが見てくるのを、私はミラに視線を送ることで、回避した。

「私の手紙は、直接、届けさせることにするわ」

「職権乱用というか、自由気ままというか」

 マリアンナは追及を諦めたようで、机の上のカップを持ち上げた。今日はコーンスープが入っている。

「しかしリンは、どんな生活をしているのやら」

「気になるわね、それは」

「案外、都会の学校で窮屈な思いをするより、田舎の山奥で自由気ままに駆け回る方が、好きなタイプなのかな。どう思う? リーアは」

 思わず私は微笑んでいた。

「その方が、生き生きしていそう、とは想像できるわね。マリアンナの想像、変に説得力があるし」

「モロー砦の指揮官って、どういう人なのかな。ゆるゆるなの?」

「特別な人とは、聞いているけど、詳細までは伝わってこない。ミラは知っている?」

 私たちの視線を受けて、ミラは微かに顎を引く。

「あの方に関して、何も懸念することはありません。ご安心ください」

 私とマリアンナは、視線を交わした。

 やり手なのかな?

 ミラはもう何も言う気はないようだ。

 私たちはそれから手紙を届ける作戦について、議論した、というか、マリアンナの否定を私が徹底的に反論することで、時間が過ぎた。

 結果を言えば、この日は引き分けだった。

 御幸の日まで、あと二ヶ月はある。つまりマリアンナとは、あと三回か四回は、話し合える。

 それにしても、マリアンナの手紙を止めるなんて、ミラ、いい仕事をするわ!

 私は暇な時、手紙の内容を頭の中で吟味するようになった。

 冬はゆっくりと深くなっていった。




(続く)


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