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14-2 奇妙な兵士 (後編)

     ◆


 私は衣装室で、会議に出るための簡素なドレスに着替えていた。

「農耕部隊?」

 ミラが頷く。

「リン様は、モロー砦で実務に励まれますが、それは農耕のようなものになります」

「理解できないわ。屯田、ではないの?」

「近いですが、やや違います。彼らは自給自足をおおよそ成立させている、稀有な部隊です」

 やれやれ。リンは、軍人になるはずが、農業の能力を叩き込まれる、ってことなの?

「帝国陸軍は黙っているの?」

 もちろんです、という返事だった。

「それで、リンはいつまでそこで百姓仕事をするのかしら?」

「今のところ、無期限です。いずれ、師範学校へ戻れるでしょう」

「具体的には?」

「わかりません。それが、限界でした」

 ミラのその一言で、私は事態を把握できた。

 リンの処罰が軽すぎる、と私は思っていた。

 クルップス家の賄賂や買収は激しく、リンの立場は不利という言葉では足りないほどの不利だった。

 それがどういうわけか、退学にもならず、処罰も無期限とはいえ、僻地への放逐のような形で落ち着いたのだ。

 誰かが動いたのはわかっていたけど、誰なのか、はっきりしなかった。

「伯母さまはお元気?」

 ミラに尋ねると彼女は無言で、頷いた。

 先帝、父さまが崩御した後、帝位をめぐって争いが起きた。表沙汰にならなかっただけで、悲惨と言ってもいい場面もあった。

 それらにより、皇后だった母さまは帝都を離れ、先帝の側室やその皇子も帝都を追われた。

 複雑怪奇な政治や軍事力、経済力、そういうものの絡まりののち、私が帝位を継承した。

 ミラの素性は、私や私の後ろ盾の有力者が、隠している。その上、知っているのも少数だ。

 私は今、ミラと二人だけど、言葉を飲み込んだ。

 ミラは私のために、密かに動いて、働きかけてくれたのだ。

 感謝しかなかった。でも余計なことは言えない。

「無念ですが」

 ミラが静かな声で言った。

「私にも全ての恨みや憎しみを消すことはできません」

 意味深なことを言う、と思ったけど、それは思い違いだった。

「クルップス家が、妙な動きをしています」

 その話か。彼女の言葉で、私の思考が切り替わった。

「大会社が下手に連合するのは、よくないわね」

「しかし、陛下は、税率の改正を支持していますから、彼らが徒党を組むのは、おかしなことではありません」

 片方を立ててれば、片方が反発する。

 それは皇帝となってから、幾度となく遭遇した場面だった。その度にどうにか落とし所を見つけて、可能な限り穏便に事を収めてきた。

「ただの大会社の息子が、禁軍師範学校で転んだだけなのに、なんでそこまで大げさになるのかしら」

「違います、税率の方こそが主題で、子供のいざこざは、添え物です」

 ミラもなかなか、言う。

「良いでしょう。それで、クルップスはどういう動きをしている?」

「帝国陸軍に、働きかけているようですが、まだ、隠蔽を破れていません」

「陸軍に?」

 陸軍に働きかける理由は、すぐには思いつかない。

「理由は?」

「不明です。陸軍にまで金の力で腐敗を及ぼす、ということで、一歩、経済の支配が前進する、ということでしょうか」

 金が物を言う。それは全てに言えることだ。

「陸軍の引き締めを陸軍大臣にお願いしましょう。それと、政府や与党の切り崩しにも注意して欲しい」

「政治家の、切り崩しですか?」

「政治ほど経済力に影響される対象はないわ。あまりことが大きくなる前に、手を打ちたいの。今のうちに、どこかに落ち着けたいわ」

 御意、とミラが軽く頭を下げる。

 着替えが終わり、衣装室を出た。待機していた侍女が幕を手に持ち、私に従う。

 廊下に出ると、すぐに侍女たちが幕を持ち上げ、私を周囲の視線から守り始める。ミラは幕のすぐ横にいるけど、彼女は公の場には出ないことになっている。

 今日はこれから、まさに税率の改定に関する会議だった。専門家が数人、呼ばれていて議論される。政治家も出てくるし、大臣も関わるものが揃うはずだ。

 ミラが話していたことが、どこか不気味に思えてくる。

 私自身の想像も、どこか不安になった。

 皇帝と言っても、ただの血筋で今の立場にあるだけで、知力や武勇もなく、ほとんど無力だ。

 私がいなくなることを願っている誰かがいるのは、絶対にないとは言えない。

 護衛は常についている。いざとなれば禁軍も動員できる。

 軍への働きかけ、という言葉が蘇った。

 もし、禁軍が揃って私に反旗を翻したら?

 私はゆっくりと廊下を進みながら、その可能性を否定していた。

 ありえない。

 そうなったら、この国は、有名無実となるのだ。

 かすかに足が震えているのを隠して、歩調を整えて、私は会議室の前に立った。




(続く)


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