11-2 決着 (後編)
故郷で、先生が三回だけ見せると言って、ただ形を見せてくれた技が、意識するまでもなく、体を動かした。
目の前にいる上級生がつんのめり、そのまま倒れ込む。
彼が持っていた棒は、僕の手にあった。
その前に、その棒は上級生を激しく打ち据えている。
倒れて、呻いている。起き上がれない。
相手の剣を奪う技。初めてやったけれど、出来過ぎなほどに再現できた。
ただ、感動している暇はない。
仲間を一人打ち倒され、クルップスともう一人は明らかに怯んでいた。
クルップスが恐怖を抱えたまま、打ち込んでくるのが、まるで時間が間延びしたように、明確に見えた。
力はこもっている、気迫もこもっている。
その両方を、恐怖が足を引っ張っている、と言えるだろう。
交錯は一瞬で、僕の棒がクルップスの右肘を強く打った。
骨を砕くほどではないけど、指の先まで痺れが走る。そういう場所だ。
棒を取り落とすクルップスの肩を打ち据えたのは、ダメ押しだった。
もう、片方の腕は使えないだろう。
最後に残った一人が、ジリジリと間合いを詰めてくるけど、やはり恐怖には勝てていない。
こちらが一歩、前に出ると、一歩、跳ぶように下がる。僕がもう一歩、詰めていくとさらに間合いは広くなった。
もう棒の間合いではない。
勝負は決している。あとは彼らをどうやって撤退されるか、だった。
でもその方法がわからず、僕は少し思案した。
その思案が、慈悲と呼べるものである一方、慢心だったんだ、と後になればわかる。
誰かが飛びついてきて、僕の腰に腕を回した。
虚をつかれたので、僕は相手の顔を見た。最初に倒した相手で、必死の形相だ。
まるで僕に殺されると思っているような表情に、僕は困惑した。
困惑もまた、戦いでは不利を招く。
一人だけ無事だった上級生が間合いを一気に潰して、棒を振り上げる。
僕に余裕はなかった。
殺される。
次に起こったことは非常に複雑で、後になって、検証したようなものだ。
僕は体を回転させ、振り回すように自分に打ち込まれる棒に、まだ抱きついている上級生を向けた。
無事な左腕ですくうようにして、上級生の体は真正面から仲間の棒の一撃と衝突した。
鈍い音と一緒に、悲鳴のような声が上がったのは、残響で理解した。
悲鳴ではなく、気合の一声だったか。
二人の上級生の体がぶつかって転がる、それとは正反対、つまり、僕の背後で、その声は起こった。
クルップスが棒を振り上げていたのだけど、もちろん、僕には見えていない。
気配だけを感じた。
上級生を振り回した動きのまま振り向いて、やっと視界に入った。
棒は、今にも僕の頭を叩き割りそうに見えた。
一秒よりも短い時間が、何秒にも感じられた。
一歩の踏み込みが、この姿勢での限界だった。
棒が空を切る音。
鈍い音。
僕の左手には、硬いものが砕ける感触があった。
今度こそ、本物の悲鳴が上がった。
僕の目の前にはクルップスが倒れていて、泣き叫びながらのたうち回っていた。
彼の棒は空を切り、僕の棒は、彼の右の肩甲骨を粉砕したのだ。
他の二人の上級生のうち、片方は仲間の打撃を肩で受け、こちらは鎖骨をやられていた。この上級生は泣き叫びこそしないが、うずくまっていた。
無事だった生徒が尻餅をついていた姿勢から立ち直り、走り去った。
こうなっては、この私闘というか、乱闘を、なかったことにはできない。
僕はその場に立ち尽くして、教官が駆け寄ってくるまで、クルップスとその仲間を眺めていた。
教官が僕の手が握っている棒を強引にもぎ取り、左手首を掴むと、引っ張ってどこかへ向かい始めるのを、僕はまるで他人事のように感じていた。
すれ違った医師が、こちらを何か、化け物でも見るように見ている。背後から医師がクルップスとその仲間に何かを言っているのが、かすかに聞こえた。
「自分のやったことがわかっているか?」
教官が本館へ僕を引きずりながら、言った。
「わかっているのか?」
もう一度、繰り返されても、僕には何も言えなかった。
戦いの高揚と興奮、一瞬だけ自分を支配した全能感。
遅れてやってきた手に残る感触と、悲鳴の響き。
冷静なはずなのに、僕の思考はどこへも行き着かず、頼りなく、漂っていた。
教官がもう一度、言った。
「わかっているのか? リン・リー」
「ええ……」
無意識に、そんな声が漏れた。
(続く)




