軍事学校卒業③
--翌日--
朝から活気に満ちているのは、ここ食堂である。食堂では、とある話で持ちきりだった。それは、朝食を終えた後にある卒業式の最後に行う部隊配属決めである。卒業式を終えると、班ごとに希望する地域の部隊へと配属となる。アレクたちが所属している国、ジェノバ王国は同盟国であるスラブ王国が北西に位置し、西と南は海に面している。そして、現在交戦中であるゲルマニア帝国とは東と北とが隣接している。ゲルマニア帝国は、この大陸一の大国で大陸制覇を唱えて各地の国を侵攻している超大国である。総兵力はジェノバ王国の総兵力の数十倍である。ただ、各地で部隊を展開しているため、なんとか今の防衛線で防ぎきれている状況だ。なので、少しでも防衛線を厚くするために卒業する班の9割は最前線の部隊へと配属となる。
「ベイン、サーニャ、本当に第3師団で良いんだな?」
周りが騒がしいにも関わらず静かに食事をしていた3人だったが、アレクが静寂を破る。以前から第3師団に配属希望を出そうと決めていたが、本番を目の前にして改めて気持ちに変化は無いか2人に尋ねた。
「ああ、問題ないぜ!」
「アレクとベインが良いなら大丈夫。」
2人はハッキリとアレクの目を見て答える。それにアレクは大きく頷き立ち上がった。
「よし!じゃあ、そろそろ式場へ行こうか。」
そう言うと、食べ終わった後の食器を持ち返却口へと歩いていく。2人も立ち上がり、その後に続いた。
食器を返却口に戻した3人は式場へ入る。式場内はすでに人が大勢いて、雑談などをして式が始まるのを待っていた。3人が席に着くと、辺りはどんどんと静かになっていき、最後には誰一人と喋っている者はいなくなった。それを見計らって風格を持った老人が壇上へ上がる。そして、卒業おめでとうと卒業生らに告げ、その後も兵士としての心構えなどを説いた。
やがて、長い話が終わると式は淡々と進んでいく。そして、最後に席次の発表と配属決めである。
「主席、マリー班!」
老人が壇上でそう告げる。マリーは、はいと老人に劣らぬ大きさの声で答え壇上に上がる。
「おめでとう、して希望の配属先は?」
マリーは、一度すう、と大きく息を吸い込み、先ほどの返事よりも大きな声で宣言する。
「第3師団を希望致しますわ!」
式場内が一気に騒がしくなる。第3師団とは東側の防衛線に駐屯する師団である。他に第1師団、第2師団とあるが、この中でも特に戦闘の多い師団なのである。だが、式場内が騒がしいのは最前線の師団を選んだからではない。むしろ、9割のうちの半分が第3師団、残りの半分が第2師団とかなりの班が最前線に行かなければならないからである。
マリーは、第1師団の師団長の娘だから皆が騒いでるのである。マリーの家は、ジェノバ王国で古くからある軍人一家である。もちろん皆は、マリーが第1師団に入団し、ゆくゆくは父の後を継ぎ第1師団の師団長になると思っていたからである。
式場内の騒ぎは一向に収まらない。見かねた老人が喝を入れる。
「静かにせぬか!!」
一瞬にして式場内は元の静けさを取り戻した。
「本当に良いのだな?」
「もちろんですわ。」
老人の最後の確認に間髪入れずマリーが答える。老人は口元を少し緩ませ、良かろうと一言。
こうして、マリー班は第3師団への配属となった。
「2番、アレク班!」
自分の班が呼ばれたのを確認すると、アレクは壇上に上がった。
「おめでとう、して希望の配属先は?」
マリーの時と同じことを尋ねる。
「第3師団です!」
先ほどとは違いひそひそ話しの声すらも聞こえない程に静かな式場内。アレクは老人の目の一点だけを見て許可を待った。しばらく、老人とアレクの視線が交錯し、良かろうの一言。アレク班も無事に希望の第3師団への配属となった。
後は、同じように席次の発表と配属先を決めていき、老人の閉式宣言で式は終わった。老人はゆっくりと壇上から降り、付き人と合流した。
「2つ期待できそうな班がおったわ。」
そう付き人に話す。
「そうですか、マリー班ともう1つはどこでしょうか?」
老人はアゴにたくわえた白く長いひげを撫でながら答える。
「ふぉっほっほ。秘密じゃ、そのうち頭角を現すじゃろ。目つきが違うわい。」
「そうでございますか。」
2人は式場を後にした。残った卒業生たちも荷物をまとめて出発し明日には配属先に着いていなければならないので、卒業の余韻に浸っている暇はない。どの班もすぐに式場を後にし自室へと戻っていった。




