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第六章「そんなことがもし実現するのなら」⑤

 そして綾華は宗平とテーブルで向かい合う。これまでの自分の人生を語るために。宗平は穏やかな表情で話を聞く体勢に入っている。彼女は何から話そうか頭の中を整理する。しばらく考えてから思いついた通りに話せばいいと気づく。先生が聞いてくれるのだから話し方が下手でも伝わるだろうと思う。

「お母さんが発狂したのは、お父さんが殺人事件を起こしたと知ったときだった。当時のお母さんはアルコールのせいで荒れていたお父さんから逃げるために、実家のある山梨に身を寄せていたの。それがお父さんの怒りに触れたみたい。

 お父さんはどこでもいいから怒りのはけ口を求めていた。それをたまたま見つけたのがあの日の公園だったんだ。お父さんは裁判で言っていたみたい。自分はこれほどつらい目に遭っているのに、公園の連中はそんな自分を軽蔑するような目を向けた。だから公園で幸せそうにしているやつらが許せなくなったんだって。

 あまりに身勝手な理屈だと思う。かばいようがない最低な理由だった。そんなお父さんの人間性にお母さんは気づいていたんだと思う。殺人犯の家族がどのように迫害されるのかも知っていた。だからお母さんは自殺してしまったんだと私は思っている。お父さんが捕まって、お母さんが死んで、私は孤児になった。

 それから私はずっとひとりぼっちの毎日を送ってきた。どれだけ私がひとりぼっちでも誰もかわいそうだと思わない。むしろ殺人犯の娘である自分は孤立して当然だという空気を感じてきた。だから私はひとりぼっちがつらかったけれど、孤独であることを受け入れようとした。施設や学校の人とはできるだけ関わらないようにしてきた。それが義務だと思っていたから。そうしたら私はいつの間にか誰にも心を開けなくなっていた。寂しくて誰かといたいときにも身動きが取れなくなっていた。

 孤独に耐えるだけならば、これほどつらい思いをしなかったかもしれない。私のことをみんなが放っておいてくれたら、私は寂しさを感じるだけでよかった。けれど、みんなは放っておいてくれなかった。むしろみんなが私のことを非難した。あるいは殺人犯の娘は何をされても仕方がないとみんなが私に暴力を振るった。

 私は小学生の頃にトラウマがあるの。当時の私はひとりだけ親友がいた。彼女は閉じてしまいがちな心の殻を破ってくれるような子だった。私はそんな彼女のことが親友として大好きだった。彼女とは何でも分かち合いたいと思っていた。だから、私は殺人犯の娘であることを打ち明けたの。それでも自分のことを受け入れて欲しかったから。でも彼女はそこから豹変した。彼女は私を傷つけることばかりするようになった。

 彼女はまず、私が殺人犯の娘であることを学校中に言いふらした。そして、彼女は仲間を作って無視するようになった。学校中の子たちに私を無視するよう仕向けていた。私はそのせいで孤独になった。もともと孤立しがちだったけれど、そこで初めて本当の孤独がどういうものであるかを知ったの。世間では孤独が好きだという人もいるけれど、彼らは本当の孤独を知らないんだと思う。私はそこで身にしみて実感したの。本当の孤独は人間が耐えられるものじゃないって。

 親友だと思っていた彼女のせいで、私は学校で孤立した。それだけならまだよかったのかもしれない。彼女たちは私のことを無視するだけでは飽き足らなくなった。私に対して誹謗中傷を浴びせるようになったの。死ね。消えろ。お前に生きている価値なんてない。彼女たちはそんなことを平気で言うようになった。それは私の心を容赦なく傷つけた。私は学校に行くのがつらくなった。

 でも、私が不登校になることを施設の人たちは認めてくれなかった。お前はたくさんの人のおかげで学校に行けるんだ。それを蔑ろにしてはいけない。いじめられることくらい我慢しろ。お前はそれに耐える義務がある。お前はそもそもいじめられて当然の存在なんだから。そうやって施設の人たちは私のことを突き放した。

 私への誹謗中傷は次第に増えていった。それは学校の中に留まらなくなった。施設の子たちからも誹謗中傷を受けるようになった。虐待されてかわいそうな俺たちと、犯罪者の娘であるお前を一緒にするな。きっと彼らは、私の仲間と思われて誹謗中傷を受けるのが嫌だったんだと思う。だから彼らは私のことを遠ざけようとした。

 そして私への誹謗中傷は不特定多数からくるようになった。誹謗中傷の手紙が届くようになった。街中で突然、誹謗中傷を浴びせられることもあった。インターネット上では、私の顔写真と一緒にいろんな個人情報が拡散されていた。そして、私に対する誹謗中傷の書き込みがあふれていた。私はいつしか世界は敵ばかりだと思うようになった。

 私へのいじめは言葉だけに留まらなくなった。私はやがて暴力を受けるようになった。あるいは暴力という形で制裁を受けるようになった。私は犯罪者の娘だから社会的な制裁が必要なんだと彼女たちは言った。たぶん、彼女の親たちがそう言っていたんだと思う。そして彼女たちは私を殴ったり蹴ったりするようになった。あるいはトイレに閉じ込めて水をかけたり、服を脱がせたりすることもあった。私は全身にあざを作るようになった。それでも大人たちは私のことをひとりも助けてくれなかった。むしろ、お前がそんな目に遭うのは当然だという大人たちもいた」

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