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第五章「自分はひとりぼっちだった」④

 カフェの休憩を終えると、二人はまたアトラクションを楽しむ。絶叫マシンはさすがにもう乗れないので、お化け屋敷やシューティングゲームで遊ぶことにする。絶叫マシンと違って、宗平にとってお化け屋敷は怖くなかった。ハルカが絶叫しながら震えているのをなだめる役割になっていた。

「なんでそんなに平気なの?」ハルカは目に涙をためながら訊く。

「他にもっと怖いものをたくさん見てきたからね」宗平は達観したように言う。

 シューティングゲームではハルカが意外な才能を発揮する。射撃の腕がとても上手で、スタッフが驚くほどの記録的な結果を叩き出したのだ。スタッフが呆然とするのを尻目にハルカは平然と言い放つ。その表情は明らかに鼻が伸びている。

「なんか適当にやってみたらうまく出来ちゃったね」

「すごいな。なんの役にも立たない才能をひとつ発見したな」

 ハルカとは逆にうまく出来なかった宗平は悔しまぎれに皮肉を言う。でも、その皮肉はハルカには届かない。

「まあまあ、そんなに悔しがらなくても。所詮、ただの遊びなんだから」

 夕方になると二人は屋内型の遊園地をあとにする。

「そろそろ帰らないと施設の人たちが怒るんじゃないか?」宗平は気をつかう。

「今日は大丈夫だよ。友達と遊ぶので遅くなるって伝えてあるから。まあ、本当はそんな友達なんていないんだけど」ハルカは寂しそうな表情を見せる。

「そうか。このあと行きたいところはあるか?」

「うん。近くのお台場海浜公園に行きたい。そこで海を見たいんだ」

「お台場海浜公園か。懐かしいな。実は、かつて妻に結婚のプロポーズをしたのがお台場海浜公園なんだ。僕にとって大切な思い出の場所だよ」

「そうなんだ。素敵だね。私もいつか自分だけの王子様にプロポーズされたいな」

「大丈夫だよ。君はそれなりに可愛いから、いつかきっと素敵な人に巡り会えるよ」

「何なの、それなりって」そう言ってハルカは嬉しそうに笑う。

 海沿いの公園にはカップルや家族連れが間隔を置いてたくさん並んでいる。宗平は涼夏との思い出を辿りながら佇んでいる。そのとなりにハルカは寄り添う。まるでこの世界でひとりだけの大切な父を慕うように。海は夕暮れのオレンジ色に染まっている。

「きれいな海だね、先生。ずっと見ていたい景色だよ」

「そうだね。ここから眺める景色はとてもきれいだ」

「先生、今日は一緒に遊んでくれてありがとう」ハルカは宗平を見上げる。

「こちらこそ、ありがとう。今日は楽しかったよ」宗平は前を見ている。

「本当? だったら嬉しいな。先生には誕生日を楽しんでほしかったからね。私は先生に感謝しているんだ。ひとりぼっちのつらい毎日を変えてくれたのが先生なんだよ」

「僕は何もしていないよ。でも、君の役に立っていたのならよかった」

「ありがとう、先生。これからも一緒にいてくれると嬉しいな」

「いいよ。君がそれを望むのなら。僕でよければいつでも一緒にいるよ」

「ねえ、先生。座ってもいい?」ハルカがそう言うと二人は空いているベンチに座る。

「先生、友達ってどうやったらできるかな?」ハルカは地面を見ている。

「友達のいない僕に訊かれても」宗平は困ってしまう。

「でも、奥さんとは仲が良かったんだよね? そのために意識していたことはないの?」

「それはたくさんある。僕にとって家族は人生でいちばん大切なものだから」

「たとえばどんなことを意識していたの? それが友達をつくる参考になるかも」

「そうだな。いちばん意識していたのは、相手の立場に身を置くことだ。できるだけ独断や偏見を排して、まっさらな視点で相手の気持ちを想像する。そして相手の話にきちんと耳を傾ける。そうやってまずは相手のことを理解しようと努力するんだ。自分の気持ちを理解してもらうのはそのあとにする。その上で相手のために役立つことを考える。自分の押し付けではなく、本当に相手がしてほしいと思うことをするんだ。僕はあまり偉そうなことを言える人間ではないけれど、誰かに好かれたいと思えば、まずは自分がその誰かのことを大切にする。そうすれば相手も自分のことを好きになってくれるかもしれないし、あるいは残念なことにその思いは相手に届かないかもしれない。でも、そうやって日々の行動を積み重ねていくことでしか、誰かとの人間関係を築くことはできないと思う」

「そっか、ありがとう。たとえ好きになってもらえる保証はなくても、まずは私が相手のために何をできるか考えるということだよね。でも、それってなんだか怖いね。もし私が誰かのために何かをしても、それで相手と仲良くなれるとは限らない。むしろ、私の好意を拒絶される可能性だってある。それでも、私は相手のために行動しなければならない。私にその勇気があるかな?」ハルカは自信がなさそうに背中を丸める。

「大丈夫だよ。君は優しい人だ。いつか君の想いは誰かに届くよ」

「ありがとう、先生。私、頑張ってみるね」ハルカは嬉しそうな笑顔になる。

「がんばって。応援しているよ」宗平も穏やかな笑顔を見せる。

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