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祝福をこの手に  作者: 憂鬱なメランコリア
第一章 終わりの事件と始まりの事件
12/22

第十一話 秩序神の加護をこの手に?

 

 

「…………あれ?」


 【契約】の強制化で無茶を重ねていたせいで限界を迎えて気絶したと思ったのに、まだ意識がある。

 どういうことかと思って辺りを見回すと、リンネさんとソフィーさんの姿が見えた。


 ああ、ここは神域か。

 ここ最近連続で呼ばれたため、すぐにそうだと理解できた。

 しかし何故こんな短時間でまた俺をここに呼んだんだ?


「お疲れ様です、ルシフェルさん。無事二人は救えたようですね」

「はい、リンネさんもソフィーさんも、ありがとうございました。二人のおかげです」

「それはもういい。いつまでもお礼を言われ続けるのも煩わしいからな」

「一番頑張ったのはルシフェルさんなんですから、もっと誇らしくしていればいいんですよ」

「ですが本当に二人には感謝しているんですよ?まあ気に障るならこれ以上はもう言いませんが」


 改めてリンネさんとソフィーさんにお礼を言ったが、二人とも軽く受け流している。

 本当に感謝してるんだけどなぁ。


「……ところで、俺は今気絶して意識を失っているんですよね」

「そうです。走るときは筋肉を限界まで酷使してましたし、ずっと集中し続けていたせいで精神にもかなりの負荷がかかっていますから、気絶して当然ですよ」

「君がやったのはそれだけの無茶だったってことだ。診断してみたら、幸いなことに後遺症はなかったよ」

「魂も全然問題ないです。精神の負荷は単純に、脳の処理量の問題だったようです。それも叡智神が問題ないと言うなら大丈夫ですね」

「そうですか。わざわざ診断してくれてありがとうございます」

「どういたしまして」

「この程度大した手間じゃない」


 限界まで力を出したせいで倒れたみたいだが、体や精神はなんともないようで安心した。


「あれ?そういえばソフィーさんは前から俺の体を診断したりしていましたけど、それは神としての逸脱行為じゃなかったんですか?」


 話している途中で思ったのだが、ソフィーさんから祝福を受ける以前からもたまに診察はしてもらっていた。それは過度の贔屓にはあてはまらなかったのだろうか。


「診察は神殿でも割と一般的にやっているからな。それにもいくらかの対価は必要だが、そこまで大層なものではないし、一応簡易版とはいえ加護を与えていた君にならそれくらいしても逸脱とまでは言わないよ。それに結局何も異常なしという結果だったしな。ただまあ、もしあのときの君に病気が見つかっていたとして、病名を教えるのはいいとしても治療法や進行度まで教えるのは逸脱になっていた」

「なるほど、そういう基準で判断するんですか……でも微妙ですね」

「確かに微妙な基準ではあるが、ある程度は自分の中でそういうふうに定めていないと際限がなくなるからな。神にとっては重要なことなんだよ」


 なるほどね。ちゃんとそうやって自分の中で基準はあるんだ。


「ところで、君はかなり前から私をソフィーさんと呼んだり、魂魄神と合わせて二人と呼んだりするが、私たちは神だぞ?何故そんな呼び方をするのだ」


 ソフィーさんが意外な質問をしてきた。

 そういえば確かに、俺はリンネさんやソフィーさんと人みたいに接したり、心の中で呼ぶときや実際に喋る際も二柱じゃなくて二人とか呼んでいるな。

 神がいるのが当たり前じゃない環境で育った時間が長いから、どうやって接するのが正しいのかわからないのかな?


 俺は自然とこんな感じで接するようになってたけど……なんだか二人とも話していると普通の人と同じように見えてしまうんだよな。

 名前を呼ぶときもリンネさんとかソフィーさんって自然に呼んじゃうし。

 名前がわからないときは一応魂魄神様、叡智神様って喋っていたけど、名前を知ったら様付けしづらくなったんだよな。 


 二人の性格に人間味がありすぎるというのもその原因の一つだと思う。

 リンネさんが定期的にここへ俺を呼ぶから、接する時間が他の人より長くて身近に感じるし。


「まあ、なんというか、二人は俺にとってはそこまで他の人とは変わらない、一人の女性として映るんですよね。今更ですけど、もっと敬う感じで喋った方がいいのでしょうか……?」


 二人を神として敬う姿勢が足りてなかったかと思い、接し方を変えようかと申し出る。

 しかし、二人はそれに強く反対した。


「いえ!今のままでいいです!いや、今のままがいいです!!今更魂魄神様なんて寂しい呼び方しないでくださいよ!」

「別に嫌だと言っているわけではない。むしろ親しみを感じるその態度は好ましく思う。他の信者と話す機会や信託の場ではもっと堅苦しい喋り方をしなければならないからな。せっかく祝福を与えて名前も明かせたわけだし、そのままの呼び方で接してくれると嬉しい」


 二人がそう言うならいいのかな?

 別に俺も二人との接し方を変えたいわけではないし、このままでいいならこの接し方を続けよう。


 ……しかし、一人の女性として映るという発言が効いたのだろうか、二人とも照れたような顔をしているのがすっごく可愛い。


「それで、これまで通り接するのはいいんですが……何故またすぐに俺をここに……?」


 先程ミシェルとフローラさんを助ける方法を探るのを手伝ってもらってから全然時間が経っていない。

 俺の感覚では本当についさっきという感じだ。

 今回呼んだのは一体どういう用事があってのことなのだろうか。


「ああ……それなんだがな……」

「はい」

「実はですね……その……」

「?実は……何ですか?」


 俺をここに呼んだ目的を尋ねると、何故か二人は気まずそうに言葉を濁す。

 一体なんだというのだ?


「それは、私から直接話しましょう」


 二人の様子を不審に思っていると、突然俺の後ろから声が聞こえた。


「えっ?」


 驚いて振り返ると、そこには真っ白なローブを身に纏った美女が立っていた。

 髪の色はソフィーさんに似た白。ただしソフィーさんとは違って白以外の色も若干散見している。

 比較的長身ではあるが人に威圧感を与える程ではない。

 しかし、ずっと閉じたままの目と全く動かない表情がどこか険しい雰囲気を醸し出している。


 一体誰?

 っていうか、さっきからずっとここにいたの?

 目じゃなくて魂で周りを感じ取っているはずなのに、後にいることに気付かなかった。

 この人はなんなんだ……。


「はじめまして、ルシフェルさん。私は法と秩序の神、秩序神と呼ばれる存在です」

「は、はじめまして。俺は……」


 と言いかけて、やめた。

 この人最初から俺の名前を呼んでたな。俺のことを知っているのか。

 秩序神って……やっぱり神だったな。


 この空間に存在できるのは魂や神のような非物質的存在だけだから、当然と言えば当然だけど……。

 俺が気付かなかったのも、神だからってだけで説明できるだろうし。

 

 秩序神と言えば、さっきまで俺が【契約】のインクを使って発動させてた神術はこの人の力なんだっけ?

 その【契約】の内容は【ルシフェルはミシェルとフローラを助ける】だったはずだから、その内容の解釈に合わせて強制化をさせていたこの人が俺の名前を知っているのはおかしいことではないか。


 そんなふうに考えて黙っていたのだが、彼女の方もいつまでたっても黙ったままだ。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………あ、あの」


 沈黙に耐えきれずに思わず声を出してしまったが、秩序神は目を閉じたままで表情も微動だにしない。

 怖い。なんだかわからないけど異様に怖い。無言のプレッシャーをかけられているような気分だ。

 俺の話を聞いているのだろうか。


「はい、何でしょうか」


 ああ、よかった。一応ちゃんと聞いているんだな。


「あなたがリンネさんに頼んで俺をここに呼んだんですか?」

「はい、そうです。私が呼びました」

「何故ですか?」

「あなたに用事があったからです」

「……………………」

「……………………」


 え?終わり?

 なんで黙るのさ。説明しないのかよ!


「自己紹介」

「え?」

「自己紹介、途中でしたよね」


 なんの話……あ、名乗るのを途中でやめたことを言っているのか。


「名前知っていたみたいなので、必要ないかと思って」


 確かに先に黙ったのは俺の方だったな。だからって向こうもずっと黙っているのはおかしいと思うけど。


「……………………」

「……………………」


 なんでまだ黙ってるの……。

 怖い。怖いよ。

 ただ黙っているだけだけど、表情も動かないし目もつぶったままだし。

 なんだ。俺はどうすればいいんだ。どう対応したら正解なんだ。


「自己紹介、途中でしたよね」


 再び俺が黙っていると、秩序神がさっきのセリフを繰り返す。

 え。嘘。

 それでずっと黙ってるの?

 続きを言えってこと?


「お、俺は人ば……じゃなかった、ルシフェルです。」


 衝撃の展開に驚いて、思わず前世の方の名前を言いそうになったよ。


「知っていました。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 しかも結局知っていましたで済ますのかよ。

 読めない。この人の思考が読めない。


 キャラが強いよ……。

 俺、この人とディスコミュニケーションしかできないような気がする。

 おかしいな。ソフィーさんは秩序神のことを常識的な判断が出来て安寧を重んずる性格、みたいな言い方をしていたような気がするんだが……。


「早速ですが、本題に入っていいでしょうか?」

「ああ、はい」


 俺の質問にはろくな回答が得られなさそうなので、向こうが喋ってくれるならそれに任せよう。


「私が今回魂魄神に頼んであなたをお呼びしたのは、あなたの【契約】の神術の使い方が秩序を乱す恐れがあったからです」

「秩序を……」

「はい。あなたの使ったような方法は、【契約】の神術の本来の使い方から離れたものです」


 それは一応自覚がある。

 俺がやったように強制化を利用するというのは、正直ひどく邪道なやり方だ。悪用と言い換えてもいいかもしれない。

 俺みたいな魔法初心者でもあれだけの魔法が使えるようになるのだ、使う人によってはいくらでも悪用できる。秩序の神が咎めるのも無理はない。


「あのような使い方を私は想定していませんでした。あなたのやったような【契約】の使い方が広まれば、秩序の乱れは避けられません。ですのでどうか、今後あのような使い方はやめて欲しいのです。お願いします」


 そう言って頭を下げる秩序神。

 これは……怒っているのだろうか。それとも本当にお願いしているのだろうか。

 神様が相手なんだから、お願いの形式をした命令って可能性もある。


 読めない。わからないってのは怖いな。リンネさんやソフィーさんが気まずそうな顔をしていたのは、この人の雰囲気が苦手だったからなんだろうな。


 俺も世が荒れるのは避けたいが、それでもあの力を手放すのは惜しい。

 あれが無ければミシェルやフローラさんは助けられなかったわけだし、今後も似たような状況になったときの為にあのインクと紙を常備しようと思っていたぐらいだ。

 ……いや、【ルシフェルは生涯において成したいと思ったことは成し遂げる】という契約をすれば、好きな時にあの全力状態が出せるようになる。

 だからこんな力を手放したくはないのだが……。


「……もし俺が、今後も【契約】の神術をあのような方法で利用したいと言ったらどうしますか?」


 もし秩序神が命令のつもりで先程の発言をしたというなら、今の俺の発言は彼女を怒らせることになるかもしれない。

 だがそれでも、自分が誰かを助けられる力を得られる可能性があるなら手放したくない。


「困ります」


 俺の質問に対する秩序神の答えは端的だった。

 その発言の前後で表情が変わるようなことは無かったし、声も最初からずっと同じ調子だ。


 これは怒っているのかな。それとも本当に困っているのかな。

 マジで読めねぇ。


「ルシフェルさんは今後もあのような方法を使いたいのですか?」

「……できれば手放したくはない手段なのは確かです。あの方法でなければミシェルとフローラさんを助けるのは不可能だったはずですから」

「なるほど」

「……………………」

「……………………」


 これどうなるんだろ。俺神罰とか受ける羽目になるんだろうか。

 秩序神は秩序の神ではあるけど、法の神でもある。そして、法の神は神罰を与えることで有名だったはず。


「叡智神」

「な、なんだ」

「困りました。私はどうすればいいんでしょうか」


 えぇ……なんじゃそりゃ。

 秩序神のその発言は、非常に残念なものであった。


 さっきの困りますって発言、そのままの意味だったんだ。

 罰受けるかもしれないってひやひやしていたのに、肩透かしをくらった気分……。


「ええと……そうだな……今回のことはこの事態を想定していなかった秩序神にも問題がある。とはいえ、これが世間に広まって悪用されたり、【契約】の力に頼ってみんなが努力を放棄するような社会になってももちろん困る。まあ、明らかな悪用や理不尽な契約はそもそも神罰の対象ではあったが、今回みたいな利用は微妙なラインだと思う。私も止めなかったしな。だから、とりあえずルシフェル君の今回の件は不問にする方向で、今後あのような方法を使ったら神罰の対象にするということでいいと思うぞ」


 秩序神の質問に対するソフィーさんの回答は至極まともで、反論の余地が無かった。

 彼女は俺を庇ってくれたが、流石に今後もあれを乱用するのは反対らしい。


 まあそうか。思いついたときは俺も実は危ない使い方だと思ったしな。

 【契約】が切れたときの反動で気絶もしているし、そういう観点から見ても危険だ。


「ではそのようにしましょう。あの場にいた者たちもこの利用法は気付くでしょうから、私が直接あの場に顕現して、今後は神罰の対象になると釘を刺さねばなりませんね」

「あ、あの、ちょっと待ってください!」


 その場で話がまとまりそうになったところで、二人に一度ストップをかける。


「わかりました、少し待ちます」


 ちょっと待ってという俺の言葉に、文字通りそのままの反応をする秩序神。

 そこは「なんでしょうか?」だろ!「少し待ちます」って……。


 いや、それはいい。この人の謎キャラは最初からだ。俺の言いたかった要件は……。


「あの、もう一度だけ【契約】を使わせてもらえないでしょうか。さっきやったあの方法で【契約】を。それ以降はもうあんなふうに邪道な使い方はしませんから、一度だけお願いします」


 さっき思いついたような【契約】内容だったら、一回だけでもずっと効果を持たせることができる。

 だからもう一度だけ【契約】のあの利用法を使わせてほしい。そう秩序神にお願いすると、彼女は変わらぬ調子の声で


「それはできません。一度規則として決めたものに例外などあってはならないのです。あなただけにそのような優遇をすることは、法と秩序の神として絶対にするわけにはいきません」


 と、強い拒絶を示した。

 相変わらずの無表情で目もつぶったままだったが、しかし今回は明らかに怒っていることがわかる。


 しまったな。法と秩序の神に対して、ルールを破るのを見逃して下さいと頼むのはまずかったか。


「あなたが目の前にいる人を助けたいと思う心は素晴らしいと思います。ですから私も先程の【契約】の内容を解釈する際は、なるべくあなたたちにとって都合のいいように解釈しました。しかし、これ以後は神罰の対象とすると決めた後でそれを見逃すことはできません」

「そう……ですか……」


 残念だけど、これは仕方がないのかな……。


 はっきりと告げられたことで、それがもう俺にはどうしようもないことであることがわかった。


 まあでも、俺が何かを失ったわけじゃないからいいのかな。

 元々あれは俺の力じゃないし、一度限りの奇跡だと思えばそこまで惜しくもない。


 秩序神はさっきの【契約】を俺にとっていい結果になるように解釈してくれたわけだし、本来はさっきの利用を咎めないとしたことを感謝するべきなんだ。おとなしく引き下がろう。


「わかりました。それなら仕方がないです。聞き分けの悪いことを言ってすいませんでした。それと、先程は俺を助けてくれてありがとうございました」

「っ!?い、いいえ、世の安寧の為にゃ……為にはああするのがいっ、一番でしたから、あ、あれには私の都合も入っているのでき、気にしないでください!」


 俺が秩序神に対して謝り、それと一緒に先程のお礼を言うと、何故か秩序神が驚いたようなリアクションをした。喋り方もぎこちない。

 ここにきて初めての秩序神の明確なリアクションに俺も驚いた。こういう表情もできるんだ。

 目は相変わらず閉じたままだけど。


 一体何に驚いたというのだろう。この人何を言っても響かなさそうだったのに。


「叡智神」

「ん?なんだ?」

「神術の取り扱いや神罰の対象は神の一存で決めるのが常ですが、それで人を振り回すのは神として好ましい行為とは言えませんよね?」


 驚いた表情をすぐに元の無表情に戻した秩序神は、突然ソフィーさんに疑問を投げかける。

 ソフィーさんも秩序神の様子には驚いたようだが、その質問を受けるとすぐに笑いを堪えるような顔になり、


「……ああ、そうだな。今回ルシフェルが思いついた【契約】の使い方を制限するのは秩序神の自由であるし、安寧秩序の為という理由もちゃんとあるから神としては正しい行為と言える。が、それを自力思いつき、悪用するどころかむしろ善行に利用したルシフェルから秩序神の都合で取り上げるのは決して褒められた行為ではないな」


 と答えた。

 続けて秩序神が質問を重ねる。


「それに加え、私が【契約】のあの利用法を手放すように言ったことに対してルシフェルさんが理解を示しおとなしく引き下がったことは、秩序の重要性を理解しているとも言えますよね?」

「まあ、普通は神に言われたら従うものではあるが、ルシフェル君が今回従ったのは【契約】のあの利用法の危険性を理解していたからなのは見ていて間違いないな。加えてそれに不満を抱えて怒ったりもしていない。最低限の資質があるわけだし、こちらの都合で振り回すことになった補償として秩序神の加護を与えることは、神としてそれほど逸脱した行為ではないと思うぞ」


 えっ?補償として加護を?秩序神の?

 何故そんな話になったんだ?


「というわけでルシフェルさん、こちらの都合であなたを振り回すことになったことの補償として、あなたに加護を与えたいと思います。魂魄神の祝福によって魂が守られているあなたなら、加護を受けるのデメリットはありませんよね?」

「そ、そうですけど……」

「では……秩序神■■■■■■の名において、秩序の理解者、ルシフェルに加護を与える。汝の人生に秩序の導きを。汝の人生に安寧を」


 いきなりの展開に俺だけがついていけてない状況で、そのまま秩序神の加護を受ける。

 体を光が包むのと同時に、魂に秩序神の力が入り込んでくる感覚がする。

 神の力を受けたことにより若干の恍惚を味わうが、既に何度か体験して慣れているので戸惑うことはなかった。


 しばらく経つとその光も弱まり、加護の授与も終わる。

 そして、秩序神は「これからあの場にいた人たちにも【契約】のあの利用法は今後神罰の対象になることを伝えに行きます」とだけ言い残し、リンネさんの神域から一瞬で消え去った。


 ……最後の加護は一体何だったんだ?


「……ソフィーさん、何故秩序神は突然加護を与えると言い出したんですか?」

「それは君が、彼女に感謝の言葉を述べたからだろうな」

「感謝……?」


 確かに俺は感謝の言葉を述べたが、それがどうして加護と繋がるんだ?


「秩序神はその性質上、神罰を与えることも多い」

「法の神でもありますからね……」


 ルールを破ったりした人には罰を与えるのもその役割だろうし、それは当然だな。


「そのせいもあって、彼女は普段あまり感謝の言葉を言われることが無いのだ。彼女の存在に不満を抱えている人も多いのではないかな。彼女の神殿は裁判所の役割を持っているし、神官は法に忠実な堅物とかも多いから、喜んで感謝を告げるような雰囲気はない。そもそも、君だったらどんなときに法と秩序の神に感謝を述べるか想像してみろ?」


 ソフィーさんに言われて、法と秩序の神に対して感謝を告げる場面を想像してみるが……あれ?どういうときに感謝するんだ?

 理不尽なことをしていた相手に裁判で罰が下ったとき?

 いや、でも感謝かぁ。それはあんまり感謝って感じじゃないよな。

 あとは、平穏な毎日をありがとうございます、とか?

 でもそれも普段は意識しないよな……。


「なるほど、そう言われてみると確かに秩序神は感謝を告げる対象としては捉えづらいですね。こう、なんというか、他の神よりその役割が業務めいているせいか、法の神なんだからこれくらいして当然、みたいな感覚がありますね」

「まさにそれだ。罰を与えた人からは不満を持たれ、正しいことをしても当然のように思われて意識されない。とはいえまあ、感謝の意を示す人もちゃんと一定数はいるのだがな。今回は君が彼女の判断に一度食い下がったから、恨まれこそすれまさかその後に感謝を述べられるとは思っていなかったというのもあるのだろう」


 うーん。

 普段からあまり感謝されないうえに、今回はまた恨まれるのか……って思ったところでお礼を言われたから驚いたのか。


「秩序神も最初は加護を与えるつもりなど無かったのだろうが……どうやら彼女は君を気に入ったみたいだな」

「そうですか……俺、神の正体に気付けなかったらソフィーさんから正式な加護を受けることすらできなかったのに、秩序神の加護はこんなに簡単に貰って大丈夫なんですか?」


 秩序神が俺に加護を与える気になった理由はわかったが、簡易版の弱い加護ならともかく、正式な加護をソフィーさんから受けるのは決して簡単なことじゃなかった。

 それなのに、秩序神からはこんなふうにポンと貰っていいのだろうか。


「君が自力で思いついたあの方法を神罰の対象にするのは間違った判断では無かったが、そうすることによって君だけが不利益を被るのが問題であるのは確かだったんだ。まるっきりふさわしくない者ではないのだし、加護を与えることで補償とするというのは落としどころとしてはちょうどよかったと思うぞ。……神によってはやりすぎだという意見やもっと何かしてあげるべきという意見もあるだろうがな」

「そうですか」

「私も知りませんでした。そういう神としての基準感覚は私も早く覚えないといけませんね」


 ソフィーさんの説明に一応納得した。

 リンネさんもこういう事態に対処するときの基準というか塩梅を知ることは必要なので、ためになったらしい。


「そういえば、秩序神の加護の効果ってどういうものなんですか?」


 加護を貰ったのはいいけど、よく考えたら俺はその効果を知らないことに気付いた。

 法と秩序の神が与える力ってどんなものなんだろう……。

 ちょっと想像しづらいものだったので、ソフィーさんにその効果を尋ねてみる。


「まず、秩序神は理神の従属神であるから、秩序神の加護には理属性の適性を若干上げる効果がある」

「理属性魔法って言ったら、生成した魔法を浮かせたり推進力を与えたりする魔法ですよね?誰にでもできるから魔技って言う人もいるって聞きましたが、理属性にも適性があるんですか?」


 父さんは理属性魔法は誰にでも使えるって言ってたけど、適性なんてあるのか?


「確かに理属性は元々誰でも適性があるが、強さには実は若干の個人差がある。加護の効果ではその適性がより強くなる……要するに扱いやすくなるわけだ」

「なるほど、ゼロが一になるんじゃなくて、一が二になるという意味ですか」

「そうだ。まあ、理神そのものから恩恵を受けたわけじゃないから、全体としてはそこまでの上昇ではないが……理属性の法魔法だけは唯一はっきりと実感できる程適性が上がる」

「法魔法……?」


 その単語は初めて聞いたぞ。理属性の魔法にもいくつか種類があったのか?

 しかも法魔法って……名前からどんなものか想像できない。


「ああ、一般的にはあまり知られていないが、理属性魔法もいくつかに分類することができる。さっき君が言ったように魔法を浮かせたり飛ばしたりするのは理属性の力魔法。そして、魔法を発動する際にいろいろと設定を付け加えるのが理属性の法魔法だ」

「設定……」


 力魔法はわかりやすくてピンときたが、法魔法の設定というのはどういうことなのだろう。


「そう、設定。例えば、100の魔力を消費して火魔法を使おうとすると、普通は熱量100の火魔法にそのまま変換される。しかし、10の熱量を10秒間発する魔法が使いたい場合もあるだろう?そういうときにはさらに1くらいの魔力で法魔法を使い、その魔法の規模や時間を設定するというわけだ。誰もが当たり前のように使っているが、他の魔法を扱う上ではかなり重要な魔法になる。それと念のために言うが、変換効率を100%で考えているのはわかりやすくするためであって、実際はこんなふうに理論値通りにはいかないぞ」


 ああ、なるほど。法魔法は魔力を魔法に変換するときの規模や時間をあらかじめ設定するための魔法か。

 さっきの例だと結局魔力は101消費したことになるが、それで思い描いた通りの魔法を完成させられる。


「君の父親が使っていた治癒魔法なんかが、法魔法を使っていたわかりやすい例だな」

「あの遠隔で範囲指定までしていたやつですか?」

 

 ソフィーさんに言われて、父さんがさっき使っていた治癒魔法を思い返してみる。

 確かあれは、飛んで行った光球が輪っかのように広がって、その輪の中にいた人たち全員を治癒させていた。

 手元にある魔力を触れる程の距離にいる相手に直接治癒力として変換する方法しか使っていない俺には、あれをどうやったのかが全然わからない。単にイメージすればああなるのだろうか?


「あの魔法に使われた魔力の比率を簡単に示すと、治癒魔法100、その発動を三秒後に設定するのに法魔法1、治癒魔法を飛ばすのに力魔法3、広げるのに力魔法5、その広げるのを二秒後に設定するのに法魔法1ってところだろう。細かいところまで言い出したらきりがないが、大まかに数えてな」


 ……なるほど?一応わかったかな。

 魔法の設定って結構重要じゃん。

 時間差で発動させるって設定もできるんだ。あの状況なら治癒魔法は手元で発動させても意味ないもんな。

 それに、同じ理属性の力魔法にも法魔法での設定は可能なのか。ってことは、途中で左右に曲がる魔法とかもできるわけだな。

 そういえば、魔人のアマデウスも時間差で爆発する魔法とか撃ってたな。あれも撃った時点で爆発のタイミングまで考えてたのか。


「単に手のひらに生成する魔法を調節して放つだけならイメージするだけでも自然とできるが、四つ五つと工程を踏んで複雑になる魔法を発動させるには理属性の適性が高い方が望ましい。秩序神の加護があれば複雑な魔法も比較的楽にこなせるようになるだろう」


 そりゃあいい。

 ザ、秩序神って感じの効果ではないけど、結構いいの貰ったな。

 てっきり【契約】の神術に近い効果だと思っていたのに、意外と魔法寄りだった。

 一応属性神の従属神なんだから当然なのかな?


「細かい効果なら他にもいくつかあるが、それは後で私の祝福の力でも使って自分で調べるといい。わかりづらい効果は他には無いからな」

「そうですね、よく考えたらソフィーさんの祝福の力を使えば大体のことはわかるようになったんでした。後で自分で調べます」


 目の前にソフィーさんがいるから思いついたことを次から次へと質問しちゃったけど、祝福を受けた俺は知識の閲覧で大体のことがわかるんだった。

 ソフィーさんと話していたい気持ちはあるけど、煩わせちゃいけないね。

 あ、でもそういえば一つだけソフィーさんから直接聞きたいことがあったんだった。


「すいません、あと一つだけいいですか?」

「ん?何だ?」

「あのアマデウスとかいう魔人が神様の名前っぽいものを叫んでいましたよね。あれってやっぱり……」

「ルシフェル君」

「……はい?」


 ちょっと気になっていたアマデウスの発言について尋ねようとしたら、何故か途中でソフィーさんに遮られた。

 彼女の表情は、今まで見てきた中で最も険しい。

 ……なんだ?急に真剣な表情になって……。


「私は君に祝福を与えた。しかし、祝福を与えたからといって全ての情報を開示できるわけではない。例えば異世界の知識や神の正体といった情報は、普通の祝福の権限では閲覧できない。それは理解できるな?」

「はい、わかりますけど……」

「君が今しようとした質問は、それ(・・)に当たる可能性が高い。つまり答えられない。少なくとも今は」


 答えられない?

 人には公開できない情報……?

 アマデウスが叫んでいた名前には、何か重大な情報が隠されているのだろうか?

 だとすればやはり、あれが神の名前だったと考えるのが自然だが……。


「今後私がいいと言うまで、その(・・)情報について他人に喋ることを禁ずる。今地上に顕現している秩序神も、あの場にいた者たちにそう伝えているはずだ。いいな?絶対に他言禁止だぞ?」


 ソフィーさんから絶対に他言しないように釘を刺された。

 マジでなんなの、あの名前……。

 

 でもよく考えたら、アマデウスが最後に死んだのって、そのなんとか様のせいって可能性が高いんだよな。あの襲撃に関わっているのもほぼ間違いなさそうだし……。

 これ以上深く聞こうとしたら神罰を受けるかもしれないし、あれについて考えるのはもうやめておこう。


「ルシフェルさん、こちらの要件は終わりましたから、そろそろ魂を体に返してもいいですか?」

「はい、いいですよ」


 これ以上ここですることもないので、リンネさんに言われるまま俺は肉体に帰った。


 一時の非日常から再び日常へ。






ルシフェル 現在の恩恵

祝福(寵愛)1(魂魄神)

祝福(通常)1(叡智神)

加護    1(秩序神)



神様を二人ではなく二柱、と書き分けたりするのは面倒くさいので、ルシフェル君が神を人と同じように見ているという設定で、心の中で呼ぶときもこの人とか二人ってふうに書きます。


堕天使「ぶっちゃけ作者の怠慢だな」


話のストックが既に尽きたので、ここからはゆっくり更新です。

ただ、最低でも一週間に一万文字は書くつもりです。……つもりです。

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