2・赤城 桂太
紫田 英秋の死から三週間が経ったある日。
三人はあれ以降、配信は行わなかった。
赤城はアパートの一室で愚痴っていた。
「たくよっ! ムッキーのせいで配信が止まっちまったじゃねーか! ふざけやがって!」
赤城は一人になると死んだ仲間に対して愚痴をこぼしていた。
自分が人気者だということを鼻にかけているためだ。
そんな時、青木から連絡が入った。
久しぶりに配信をやるそうだ。
そのため一度集まってくれとのことだった。
集合場所は青木が住んでいるマンションとのこと。
赤城はようやくかよと、つぶやきながら出かける準備を始めた。
彼にとって仲間は仲間ではなかった。
ただ、都合のよい人間たちという位置付けだったのだ。
それも、グループの中で一番の人気が赤城だったからである。
帽子をかぶり、マスクと伊達メガネをして部屋を後にした。
時刻はまだ昼前。
日差しが眩しく道行く人たちは汗を拭いながら動き回っている。
そんな中を帽子やマスクに伊達メガネをつけていても気にする人は誰もいない。
数年前、世界的に蔓延したウイルスのため、マスクを着用する人が急増したためである。
一昔前なら完全に危ない人だっただろう。
(くそあちーな、ったくよ)
そんなことを思いながら、歩いていく。
しかし、暑いと言いながらも汗一つ垂らしていなかったのだ。
*
青木の住むマンションに着き、ドアをくぐった先にあるインターフォンで連絡を入れる。
『今開ける』とスピーカー越しに青木の声が聞こえると、奥のドアが開く。
赤城はドアの先へ進み、エレベーターに乗って青木の部屋の階まで移動した。
「ヨッシー、来たぞ」
赤城は遠慮なくドアを開け、青木の部屋の中へ声をかける。
すると奥から青木の声が聞こえてきた。
「入ってくれ」
赤城はそのまま部屋へ上がった。
奥の部屋へ行くと、青木の他にすでに来ていた黄博が床に座って水を飲んでいた。
「よっす!」
黄博の軽い挨拶に合わせて赤城も軽く挨拶をする。
「うっす!」
パソコンを操作していた青木がこちらに向きなおり口を開いた。
「今日集まってもらったのは俺たちの今後の活動について話をしたかったからだ」
そこで黄博が挙手して発言した。
「やっぱ解散とかになるのか?」
黄博の発言に、即座に反応したのが赤城だった。
赤城にとってこの二人は便利な道具でしかない。
今更解散とかふざけるなと、心の奥底で愚痴っていた。
しかし、青木の発言はそうではなかった。
「いや、解散は考えていない。 どちらかというと新しく仲間を入れようかと思っているんだ」
青木は続けて言った。
「別にムッキーを忘れろとか、そういったものじゃない。 何するにもカメラマンが必要だろ?」
確かにそうだなと、赤城と黄博は頷いた。
「すぐには無理だと思うが、視聴者にも協力してもらおうと思っていたんだ」
これが今回青木が二人を呼んだ理由らしい。
「具体的にどんな奴を入れようとおもってるんだ?」
黄博が質問した。
「ああ、今度は女を入れようと思っているんだ。 ほら、俺たちには花がないだろ? カメラマンとして、たまにやる雑談には出演してもらおうと考えていたんだ」
流石リーダーをやる青木。
色々考えているなと、黄博は黙って聞いていた。
「で、俺の考えについて二人の意見を聞きたかったんだ」
まじかよと赤城は心の中で悪態をついた。
それは、女性の方が人気が出るからだ。
今まではこのむさ苦しい男の中で、赤城が一番人気だったからだ。
そこへ女が入ったら、まず視聴者はそちらに目が移る。
赤城の人気は落ちることは確実だろう。
赤城は考えて、挙手してから発言した。
「女を入れたいっていうヨッシーの考えはわかった。 地味で喋らなくてもカメラ操作ができりゃいいんじゃね? 俺たちのメインはなんといっても現地でのライブ配信だからな」
はっきりと女はいらないと言えない赤城だった。
人気は一番で配信時では誰よりも明るく人当たりが良い役を演じていた赤城。
そんな彼は誰よりもヘタレで欲深い男だった。
今までそれを感づかせないように振る舞っていた。
誰もがそれに騙されていた。
「ケイの言うことも一理あるが、俺たちのこれからを考えると、ヨッシーの考えが一番だと、俺は思うな」
黄博がよけいな発言をしたため、赤城の心は更に黒くなっていく。
「そうなんだよ。 今までケイに人気が集まりすぎていて、ケイに負担がのしかかっていたのが申し訳なくてな」
青木の発言は本心だ。
仲間に負担をかけたくないと思っている発言だった。
だが赤城はそうは捉えなかった。
自分から人気を奪う行為だったのだ。
だから赤城は言ってはいけない言葉を発言した。
「・・・そうか、二人は今の状態でやるより女で視聴率を取りたいんだな? なら、俺はもうここではやっていけないな。 くだらねぇー」
その発言に二人は驚いた。
今までの赤城なら笑い飛ばすような事は言っても、ここまで拒否感をもって発言などしたことが無かったからだ。
「どうしたんだケイ? いつものお前らしくないぞ」
青木が驚きながら赤城に言った。
「ああ、いつものお前らしくないぞ」
黄博も青木と同じように思っていたのだろう。
「・・・わりぃな。 俺、帰るわ」
赤城は二人に背を向けて、青木の部屋を出て行った。
「くだらねぇ奴らだ、俺が人気者でいいんだよ。 あいつら何もわかっちゃいねーよ」
愚痴をこぼしながら青木のマンションから赤城は出て行った。
*
赤城はすぐにアパートに戻らず、再開発の進んでいる繁華街へ向けて歩いていた。
あの話の後なので、鬱憤が溜まってしまっていたのだ。
「俺よりも弱い奴をいたぶらないとやってられないぜ」
赤城のもう一つの顔。
常日頃、鬱憤が溜まると自分より弱い存在を痛めつける。
それで精神的に自分を保っていられる彼自身の保身でもあった。
狙うは子供。
自分を知らない奴なら尚更だった。
いつでも犯行に移れるように。
そのための変装でもあった。
「ガキからスマホを取り上げて、痛めつける。 たまんねーな」
誰にも聞かれないくらいに小声でつぶやく。
繁華街の裏路地を歩いていく。
目の前の横道から子供が出てきた。
赤城はその子供に狙いを付け、伊達メガネからサングラスへ変え、後を追った。
子供は周りをしきりに見回してから、懐から何かを取り出して、喜んでいた。
それはカードの入った袋だった。
子供は店からカードを万引きしてきた。
懐から更に三袋取り出して「あの店はいい稼ぎ場だよな」と口にしていた。
赤城はその言葉を聞き逃さなかった。
「いけないなー、万引きなんて。 僕、小学生だろ?」
赤城はそんな事を言いながら子供に近寄って来た。
「え、ち・・・違うよ、こ、これは買ってきたんだ」
子供は言い訳しようと取り繕ってきたが、赤城には関係ない。
子供の腹に蹴りを入れた。
「うるせーんだよ。 万引き犯がよ!」
弱い子供、万引きしたと思われる発言。
赤城には最高のシチュエーションだった。
とにかく蹴りつける。
子供が泣き叫ぼうが謝ろうが関係ない。
そんな時、子供が出てきた道からガラの悪い三人の男たちが現れた。
赤城が子供を蹴り飛ばしている所を目撃して近寄ってくる。
赤城は三人には気がつかずに子供を蹴り飛ばしていた。
そんな赤城の肩に、一人の男が手をかけた。
「よう、兄ちゃんよ。 そのガキは俺たちが用があんだよ」
肩をつかんだ男は赤城を振り向かせてから容赦なく腹を殴りつけた。
「ぐはっ・・・」
赤城は何が起きたのかわからず、地面に這いつくばっていた。
別の男は子供を逃がさないように捕まえていた。
「ガキは大人しくしてな。 なに、店から盗んだ事を親に言うだけだからな」
その言葉を聞いて子供は叫びながら、親には言わないでとお願いしていた。
それを聞いた男は、
「だったら口止め料として、これから毎日十万持ってきな」
子供には十分な脅しだ。
さらに、言うことを聞かないと家族がどうなるか知らねーぞと追い打ちを掛けた。
大人しくなった子供が逃げられないように、男はその腹を殴った。
子供はその場でうずくまった。
「さて、兄ちゃんよ。 この子が世話になったな、この落とし前どうつけんだ?」
三人の男は赤城に詰め寄ってきた。
赤城は腹を抑え、よろめきながら立ち上がった。
口からはどす黒い血を吐きながら。
「なんなんだよお前ら・・・」
何とか絞り出せた台詞がこれだった。
その台詞を聞いた男たちは黙って赤城の顔面を殴った。
その衝撃で、サングラスと帽子が取れてしまった。
*
路地裏の建物の屋上。
ネット配信者が町の風景と題してライブ配信をしていた。
「この町はなんといっても、これから開発が進んで近未来型のモデル都市となるそうなんです」
カメラを持ちながら一人で配信をしていた。
そんな中、下の路地から叫び声と男たちの声が聞こえてきた。
「なんか揉め事? 事件の予感がします! ここからは緊急配信します!」
@何が起きてんだ?
@音量上げたら叫び声が聞こえた
@俺も聞いた。 やべーんじゃね?
@取りあえず通報した。
@俺も通報する!
コメントが流れるなか、カメラを持った配信者は屋上から路地を見ると、一人の男が顔面を殴り飛ばされた所だった。
カメラのズーム機能を使って殴られた男が映し出される。
@あれ? こいつオカルトはんてぃんぐのケイじゃね?
@他人の空似では?
@誰そいつ?
@しらね
配信者の男はコメントを見て自分も知っている配信者の名前が挙がったので驚いた。
そしてカメラの望遠をもう少し上げてみると、間違いなくオカルトはんてぃんぐ OH!のケイであることがわかった。
そして、近くにはもう一人うずくまっている子供がいた。
「ひょっとして、子供を助けるために殴られているのか?」
@そうじゃないか?
@あの三人ガラ悪そうなチンピラだな
@ケイは人気者だからな。 子供を助けるため立ち上がったんだ
などと、何も知らないコメントが盛り上がっていた。
*
「いきなりなにすんだ・・・くそが」
悪態が気に入らなかったのか、先ほど殴りつけてきた男が逃げ腰になっている赤城に詰め寄ってきた。
他の二人も悪態が聞こえていたが、この男ほどではなかった。
「あ~あ、こいつ怒らしちまったよ」
「こいつ見境無くなるからな」
にやつきながら赤城を見下ろしている。
「おう! 赤毛の兄ちゃんよ、逃がしゃしねーぜ」
男は赤城の両足を容赦なく蹴りつけた。
赤城は悲鳴を上げた。
両足はもはや動かない。
男は笑いながら、何度も赤城の両足を蹴りつけた。
そのたびに赤城は悲鳴を上げた。
流石に残り二人の男が止めに入った。
「おい、そこまでにしておこうぜ」
「ああ、それ以上はやばいって」
二人の制止から、蹴りつけていた男は最後に赤城の顔面を蹴り飛ばした。
赤城はそのまま動かなくなっていた。
三人はその姿を見て走り去っていった。
暫くすると警察や救急車が現場に駆けつけた。
子供は救急車に運び込まれ、続いて赤城も別の救急車に運び込まれた。
警察は現場に残っていた血痕を確認して、傷害事件として捜査を始めた。
その一部始終を屋上からカメラで収めていた配信者がいた。
赤城の姿もしっかりと配信されてしまっていたのだ。
後日、テレビのニュースでは赤城 桂太は死後数週間が過ぎていて、犯人の三人組が死体遺棄をしようとしていたのではないかと報じられた。
しかし、ネットでは殴られて動いている赤城が動画として上がっていたことに、警察やテレビの報道は嘘を言っていると炎上していた。
その頃、洞窟の壁画には、両足が潰されている人物の絵が浮かび上がっていた。




