第四話 行列ができる
俺の仕事が、この村で少しずつ広まり始めたらしい。
四人は順番に自分の髪を指差し、俺を見つめている。
期待と不安が入り混じったような表情だった。
俺は老人を見る。
老人は困ったように笑いながら何度も頷いた。
どうやら、昨日の少年が村中で話したらしい。
「髪を切ったら別人みたいになった。」
「首や肩が軽くなった。」
「目の前が明るくなった。」
そんな話でもしたのだろう。
俺は思わず苦笑した。
どこの世界も、口コミは早い。
四人の顔を見回す。
髪の長さも、癖も、年齢も違う。
現代なら予約を取り、カルテを確認し、一人ずつ丁寧に向き合う。
でも、この世界には予約という文化はない。
もちろん鏡もない。
クロスもない。
椅子すら足りない。
それでも、
理容師は場所を選ばない。
昨日と同じく俺は近くに転がっていた切り株を指差した。
そして一番年配の男性へ向かって手招きをする。
「まずは、あなたから」
言葉は通じない。
それでも伝わったらしい。
男性は少し緊張した面持ちで腰を下ろした。
後ろで見ていた村人たちが、一歩、また一歩と近づいてくる。
子どもたちは興味津々で背伸びをしている。
老人と少女も、静かに見守っていた。
俺は腰のシザーケースへ手を伸ばす。
革の留め具を外す。
見慣れた五本のハサミが朝日に照らされ、小さく輝いた。
一本を手に取る。
親指と薬指を通す。
この感覚だけは、世界が変わっても何一つ変わらない。
自然と口元が緩む。
「さあ、仕事を始めよう。」
ハサミをゆっくりと開く。
ーーカチッ。
その音を聞いた村人たちは息をのんだ。
誰もまだ知らない。
この小さな音が、やがて王国中へ響き渡ることを。




