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剣より鋏 〜異世界で人を整える理容師の物語〜  作者: 刈り〼


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第四話 最初の評判

翌朝。


窓から差し込む朝日で目が覚めた。


昨日、老人の髪を切ったことが夢のように思えたが、腰には見慣れた革のシザーケースがあった。


あれは夢じゃない。


朝食を終え、少女に見送られながら村を歩く。


昨日までと変わらない景色。


石畳の道。


木造の家々。


煙突から立ち上る白い煙。


だが、一つだけ違うことがあった。


昨日髪を切った老人が、庭先で薪を割っていた。


背筋が伸びている。


前髪で隠れていた表情は明るく、長い眉も整ったことで、その笑顔がよく見える。


村人たちが足を止め、老人を二度見していた。


「あの人……?」


「誰だ?」


そんな声が聞こえる。


老人は少し照れくさそうに笑いながら、俺に向かって大きく手を振った。


その姿を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。


そのときだった。


「あっ!」


背後から誰かに肩を叩かれる。


振り向くと、昨日転んでいた少年だった。


何かを必死に話している。


言葉は分からない。


だが、俺の髪を指差し、自分の髪を掴み、何度も頭を下げている。


……切ってほしいのか。


驚きはしなかった。


むしろ、どこか懐かしい気持ちになった。


「○○さんの紹介で来ました。」


現代で、初めて紹介のお客様が来てくれた日のことを思い出す。


嬉しかった。


自分の仕事が誰かに認められた気がした。


言葉は違っても、その気持ちは変わらないらしい。


俺は近くにあった切り株を指差した。


若者は素直に腰を下ろす。


クロスはない。


鏡もない。


整髪料もない。


あるのは五本のハサミと一本の櫛だけ。


それで十分だった。


カチッ。


静かな音が村に響く。


その瞬間、不思議と心が落ち着いた。


一本、また一本。


伸び放題だった髪を整えていく。


目にかかっていた前髪を短くし、耳まわりを軽くする。


首筋が見えるよう襟足も整えた。


若者は途中から目を閉じていた。


気持ちいいのだろうか。


それとも安心しているのだろうか。


三十分ほどでハサミを置く。


鏡はない。


代わりに水桶を目の前へ置いた。


若者は恐る恐る水面を覗き込む。


そして固まった。


何度も自分の頭を触る。


首を回す。


肩を動かす。


髪をかき上げる。


驚いたように目を見開き、満面の笑みで何かを叫んだ。


言葉は分からない。


それでも、その表情だけで十分だった。


俺も思わず笑ってしまう。


やっぱり、この瞬間が好きだ。


髪を切るたびに、お客様の表情が変わる。


理容師になって良かったと思える瞬間だった。


少年は何度も頭を下げながら帰っていった。






その日の夜。


コンコン、と扉が鳴る。


開けると、昼間の少年とその母親と思われる人が立っていた。


両手には、大きな布袋を抱えている。


中には焼きたてのパン。


燻製肉。


野菜。


果物。


どう見ても、一人では食べきれない量だった。


「こんなに……?」


思わず声が漏れる。


若者は笑顔で何度も頷き、俺の手を握ると、深々と頭を下げた。


老人も隣で微笑みながら頷いている。


どうやら、お礼らしい。


俺は布袋を抱えながら、小さく笑った。


「どこの世界でも、お客さんって変わらないんだな……。」


その夜は、久しぶりに心が温かいまま眠りについた。







翌朝。


まだ日も昇りきらない時間。


家の外が妙に騒がしい。


老人と少女が慌てて外へ飛び出していく。


何事かと思い、俺も扉を開けた。


そこには、四人の村人が並んでいた。


男も、女も、若者も老人も。


全員が俺を見ると、自分の髪を指差す。


そして、期待に満ちた目で一歩前へ出た。


どうやら――


俺の仕事が、この村で少しずつ広まり始めたらしい。

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