第八話 騎士団長の呼び出し
白銀の騎士はゆっくりと馬を降りた。
村人たちが一斉に頭を下げる。
「王国騎士団団長、ハルファスだ。」
静かな声だった。
それなのに、その場にいる誰も逆らえないほどの威圧感があった。
ハルファスは俺の目の前まで歩いてくる。
「お前の名は。」
「……蓮です。」
「レンか。」
その名を一度口にすると、真っ直ぐ俺を見つめた。
「答えろ。」
「なぜ髪を切った。」
「なぜ、切る必要があった。」
俺は少しだけ息をのむ。
だが、ここで黙れば何も伝わらない。
「この世界の人たちは、髪が長すぎます。」
「前髪で視界が遮られ、首や肩に負担が掛かっている。」
「傷口にも髪が入り、衛生的にも良くありません。」
ハルファスは黙って聞いている。
俺は続けた。
「俺は理容師です。」
「髪を切ることは、見た目を変えるためだけじゃない。」
「その人が少しでも楽に生活できるようにする仕事です。」
「実際、この村の人たちは皆、喜んでくれました。」
「それだけです。」
沈黙が流れる。
やがてハルファスは大きく息を吐き――
突然、高らかに笑い始めた。
「はっはっはっ!」
豪快な笑い声が村中へ響く。
周囲の騎士たちが目を丸くした。
「団長……?」
金髪の隊長も困惑している。
ハルファスは笑いながら隊長の肩を叩いた。
「そんなことで怒っていたのか。」
「だが、規律を守ろうとした姿勢は悪くない。」
隊長は複雑そうに頭を下げた。
「しかし、団長。」
「神聖法には……。」
ハルファスの表情が少しだけ引き締まる。
「分かっている。」
そう言うと、今度は俺へ向き直った。
「レン。」
「お前の話は理解した。」
「だが、この国には、この国の法がある。」
「私一人の判断で見逃せる話ではない。」
俺の胸が締め付けられる。
やはり、処罰は免れないのか。
ハルファスは静かに言った。
「処分は、後ほど下す。」
「今夜、私の天幕まで来い。」
それだけ告げると、白馬へまたがる。
「今日はここまでだ。」
騎士団は一斉に馬を返し、村の外れへ向かっていった。
やがて近くの草原で野営の準備を始める。
張り詰めていた空気が、ようやく緩んだ。
その瞬間だった。
「本当に……申し訳ない。」
老人が駆け寄り、深く頭を下げた。
震える声だった。
「私が、お前を指差したばかりに……。」
俺は首を横に振る。
「気にしないでください。」
「誰だって、自分の命は大切です。」
少女の方へ目を向ける。
老人がいなくなれば、この子は一人になってしまうのかもしれない。
それを思えば、あの行動を責めることなどできなかった。
老人は何度も頭を下げ、涙ぐみながら家へ戻っていく。
夕暮れの風が村を吹き抜ける。
俺は腰のシザーケースにそっと触れた。
この世界へ来てから、初めて恐怖を感じている。
夜になれば、自分の運命が決まる。
静かに息を吐き、騎士団の天幕へ向かって歩き始めた。




