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選別令嬢の試験――誠実な方ほど壊れていくようですわ  作者: くろのわーる


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第5話:選ばれた料理



 この日は、多くの方がお見えになられました。


 私の試験……"選別"を受ける為に。


 しかし、ひとりずつ対応していたのでは時間が足りません。


 ですので、本日は趣向を変えました。


「本日は――少し、分かりやすい試験に致しましょう」


 試験は、唐突に告げられた。


 集まった彼らにとっては……。


「本日は、お料理をお願い致しますわ」


 広間に集められた数名の殿方たちが、わずかにざわめく。


「料理、でございますか?」


 声をかけてきたのは、一番の年長者と思われる参加者。


「ええ」


 私は頷く。


「一品で構いません。どなたに振る舞っていただいても」


 ――どなたにでも。


 それだけを告げて、私は一歩下がった。


 用意された食材は、すべて同じ。


 調理場も、条件も、何一つ変わらない。


 違うのは――人だけ。


 ほどなくして、動きが始まる。


「これは……腕の見せ所ですね」


 一人が笑みを浮かべ、華やかな料理に取りかかる。


 侍女が耳元で囁く。


「あの方は、美食家として社交界で有名な男爵家のご子息です」


 サポートでついているメイドに、厳しく指示を出す。


 メイドは一つの指示が終わる前に、次の指示がくるので慌てふためいている。


 料理が完成した時には、疲れたのか膝をついていた。


 見栄え。香り。彩り。


 誰の目にもわかる“良い料理”。


「ぜひ、ご令嬢にお召し上がりいただきたい」


 完成した皿を、まっすぐに私へと差し出す。


 功労者であるメイドに、ひと言もなしですか。


 ……なるほど。


 別の男は、周囲に目を配っていた。


 誰がこの中で最も有力か。


 どこへ出せば最も効果的か。


 やがて彼は、メイド長へと皿を運ぶ。


 私への口利きを添えて。


 ……ええ。


 そういう考え方もあるのでしょうね。


 さらに別の男は――


「ほら、運べ」


 雑に皿を差し出し、使用人へと押し付ける。


 視線すら向けない。


 功労者を労わぬ者が、誰かに尽くされる資格を語るのかしら。


 ……論外ですわね。


 視線を巡らせる。


 その中で――

 一人だけ。


 静かに、手を動かしている者がいた。


 騎士。


 名は――まだ、覚えておりません。


 無駄のない動き。


 鍛えられた身体に無理のない所作。


 火加減も、手際も、迷いがない。


 けれど。


 誰に見せるわけでもない。


 ただ、作っている。



 やがて。


 出来上がった料理を手に、彼は歩き出した。


 向かった先は――

 隅で、少し疲れた様子のメイド。


「……食えるか」


 短い一言。


「え……?」


 戸惑う彼女に、騎士は皿を差し出す。


「余っているなら、構わないだろう」


 それだけ。


 それ以上、何も言わない。


 視線も、期待も向けない。


 ただ、そこに置かれた。


「ゆっくり、食べろ」


 ……あら。


 ――判断に、困りますわね。


 私は、ほんのわずかに目を細める。


 無駄に整った所作ではないが、崩れもしない動き。


 それで、十分でした。


 やがて、全員が料理を出し終える。


「では」


 私は静かに口を開く。


「お味は、問題ではございませんわ」


 場が、ざわめく。


 そのざわめきを扇子で一閃する。


「大切なのは――」


 私は参加者だった者達をゆっくりと見渡す。


「どのように振る舞われたか――それだけで十分ですわ」


 誰も、言葉を発さない。


 皆が自身の振る舞いを振り返っているのか、隣同士で目を合わせていた。


 その中で。


 ただ一人、騎士だけが無関心に立っていた。


「ですから」


 視線を、そちらへ向ける。


「――どうやら、残りましたわね」


「なっ……」


「料理の出来では、私の方が――」


「関係ございませんわ」


 男爵家の男を黙らせる。


 空気が、変わる。


「……俺が、か」


 騎士は、わずかに眉を動かした。


「ええ」


 私は頷く。


「問題がなかった、というだけですわ」


 扇子で顔の下半分を隠すが視線は騎士に固定している。


「――それが、どれほど難しいことかは、皆様ご存じでしょう?」


 それ以上でも、それ以下でもない。


 騎士は少しだけ考え。


「……そうか」


 それだけを言った。


 興味も、喜びもない声。


 ……“作っていない”のね。


 ――選ばれるための振る舞いを。


 私は扇子を閉じる。


「では、本日はここまでに致しましょう」


 視線を外す。


 もう、答えは出ていますから。


 少しだけ、観察する価値がありそうですわね。



 それとも。



 ――試す必要が、あるのかしら。



 もしくは。



“壊れない方”が、ようやく現れたのかしら。



 初めて、そう思ってしまった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


人は見られているときほど、 自分を作ろうとするものです。


ですが、 見ていないところでの振る舞いにこそ、 本質は現れます。


今回、それがひとつだけ、 形になりました。

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