第44話:家族
穏やかな午後。
色鮮やかなに花が咲き誇る、変わらぬ空中庭園。
変わらぬ東屋でのひと時。
でも、変わったこともある。
「ママ!パパ!」
元気な声が私たちを呼ぶ。
小さな歩幅で、一生懸命に駆け寄ってくる。
その子供の後ろには乳母が変わらぬ歩きでついて来ていた。
陽光を受けて揺れる淡い金髪。
まだ幼さの残る頬を紅潮させながら、こちらへ向かってくる。
転ばないかと心配になるほど、勢いよく走って来るのに、本人は満面の笑みだ。
「走っては駄目ですよ」
乳母が穏やかに注意する。
けれど、その声に速度が落ちることはない。
「ママ!」
小さな身体が私へ飛び込んできた。
「きゃっ」
慌てて抱き留めれば、腕の中で嬉しそうに笑う。
温かい。
柔らかい。
胸の奥が自然とほどけていく。
「きょうはね! おべんきょう、いっぱいしたの!」
「まあ、そうなの?」
「うん! えらいっていわれた!」
得意げに胸を張る姿に、思わず笑みが零れた。
「それは素晴らしいな」
隣から優しい声が降ってくる。
王太子殿下――今では私の夫となり父親となった人が、穏やかな眼差しで子供を見つめていた。
「パパ!」
今度は夫へ向かって小さな両手を伸ばす。
夫は自然な動作でその身体を抱き上げた。
「今日は何を学んだのだ?」
「えっとね、おうぞくのおしごと!」
「ほう」
「みんなをまもるの!」
無邪気な言葉。
けれど、その瞬間。
夫の表情が僅かに和らいだ。
「……そうか」
優しく頭を撫でる。
その横顔を見つめながら、私は静かに目を細めた。
そっくりな顔。
髪は私に似たけれど、目鼻立ちは彼と瓜二つ。
まるで彼の子供の時代を見ているよう。
昔は想像も出来なかった。
冷徹だと恐れられていたこの人が、こんな顔で笑う未来など。
「ママ!」
「なあに?」
「きょうも、おはな、きれいだね!」
そう言って小さな指が庭園を指差す。
暖かい風が吹く。
花弁が舞う。
あの日と同じ景色。
けれど、もう違う。
この場所は孤独な逃げ場ではなくなった。
大切な人達と笑い合う場所へ変わっていた。
「……本当に綺麗ね」
そう呟けば。
夫が静かにこちらを見る。
視線が重なる。
言葉はない。
それでも十分だった。
この穏やかな時間こそ。
幾つもの痛みと選択の先で、ようやく辿り着いた私の幸せなのだと。
気付かされたから――




