第43話:始まり
王妃教育は特段、厳しいことはなかった。
私は生まれた時から高位貴族としての教育を受けていたから。
では、何を学んでいるのか。
人を掌握する術。
夫である次期国王を支える献身。
今まで学んだことがないことばかり。
少し、少しだけ疲れましたわ。
午後の教育が終わり、空中庭園に足を向ける。
手入れが行き届いた薔薇のアーチ。
その先には小さな東屋。
殿下が静かに白いティーカップを傾けていた。
「一緒にどうだ」
結婚式から三日。
まだ、閨を共にしていない。
理由は単純に、殿下がお忙しいから。
ここで会えたのは、偶然。
言われるがまま、対面に座る。
「疲れている顔だ」
彼の瞳には温度があった。
「そのようなことは……」
この疲れは重責によるもの。
それを彼に告げるわけにはいかない。
「私には分かる」
夫婦になって、初めて過ごすゆっくりとした時間。
「王妃教育は辛いか」
彼の視線が真っ直ぐに伸びる。
「いいえ、学ぶことはたくさんありますが辛くはありません」
これは事実。
ただ結婚したことをまだ受け入れられていないだけ……。
「ゆっくりでいい」
柔らかな風が東屋を吹き抜けた。
「私が選んだ相手なんだからな」
彼は私から視線を外すと、ゆっくりとティーカップに口をつけた。
穏やかな陽気。
夕暮れが迫る優しい陽射しが庭園を照らす。
薔薇は輝き、香りが広がる。
それから二人で過ごす東屋での時間は習慣になった。
一日の教育が終われば、彼が待つ庭園へ。
そこには静かに業務の疲れを癒す姿。
時折、植木や植物を愛でている時もある。
私は何も言わず、彼の隣に並ぶ。
言葉は少なくても、お互いに考えていることに及ぶ。
不思議な感覚。
でも、不快さは何処にもない。
寧ろ、全体の一部と化している。
この時間は、明日も続くと――
予感めいていた。




