第40話:鏡の世界
――婚儀まで、残り三日。
その言葉を聞いた時。
私は、すぐに理解できなかった。
でも、状況は進んでいく。
部屋には純白の布地が並べられ、侍女たちが慌ただしく動いている。
「こちらは最終調整となります」
「殿下側からも問題ないとのことです」
淡々と進む声。
誰も、疑問を抱いていない。
まるで最初から決まっていた未来を、確認しているだけのように。
鏡の前に立たされる。
白い装飾。
重ねられたレース。
磨かれた宝石。
綺麗だと思った。
他人事のように。
「お似合いです、お嬢様」
侍女のエリスが微笑む。
彼女の嬉しそうな顔に私は、曖昧に頷いた。
否定する理由がなかった。
いつからだろう。
誰も、私に選択を求めなくなったのは。
あるいは最初から。
そんなものは、存在していなかったのかもしれない。
扉がノックされる。
部屋の空気がわずかに変わった。
「殿下がお見えです」
その言葉だけで、侍女たちは静かに下がっていく。
残された鏡の中。
私は、花嫁の姿をしたまま立っていた。
王子が背後に立つ。
鏡越しに見る王子はいつもと変わらない。
違うのは鏡に映る私。
その表情から、感情は読み取れない。
正確に全てを写していた。
王子は、鏡の中の私を見ている。
私ではなく。
「似合っているな」
その声も、鏡に向けられている。
「ありがとうございます」
鏡の中の私が言う。
「後は任す」
それだけで帰っていった。
侍女たちは一糸乱れぬ動きで、再開する。
着飾れば、着飾るほどに。
世界から私は取り残された。
――違う。
自分を鏡の中に閉じ込めたのかもしれない。




