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選別令嬢の試験――誠実な方ほど壊れていくようですわ  作者: くろのわーる


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第34話:裏令嬢



 温室庭園を出た後。


 陽光は変わらず柔らかく降り注いでいたが、その温もりはどこか遠かった。


 足を止めることなく、回廊を進む。


 規則正しく響く靴音。


 乱れはない。


 呼吸も、心拍も、すでに整っている。


「お嬢様」


 控えていた侍女が一歩後ろから声をかける。


「お疲れのご様子は――」


「問題ありません」


 即答。


 視線すら向けない。


 しばしの沈黙。


 やがて、侍女が一つ問いを落とす。


「……いかがなさいましたか」


 “何を”とは言わない。


 だが、理解している。


 あの場に同席していなかったとしても。


 彼女は、答えを求めている。


「評価は、完了しました」


 足は止めない。


 ただ、言葉だけが静かに落ちる。


「結果は」


「不適格です」


 迷いのない断定。


 それ以上の説明は不要だった。


 侍女もまた、それで理解する。


「……理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」


 わずかな間。


 思考を整理する必要はない。


 すでに結論は出ている。


「彼女は」


 一度だけ、言葉を区切る。


「制御不能です」


 端的な評価。


 余計な感情は混じらない。


「価値観が、この国の枠組みに属していない」


 歩みは一定のまま。


「理解も、矯正も困難」


 そして――


「排除以外に、安定化の手段が存在しません」


 廊下に靴音だけが響く。


 侍女は、すぐには言葉を返さなかった。


 その代わりに、問いを選ぶ。


「……王子殿下は」


「関係ありません」


 被せるように否定する。


 だが、わずかに。


 ほんの一瞬だけ。


 思考が揺れた。


 ――あの視線。


 ――あの笑み。


 ……。


「いえ」


 自ら修正する。


「関係はありますが、優先順位は下です」


 冷静に、並べ替える。


「本件は、あくまで“国家の安定”に関わる問題です」


 それが結論。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「……承知いたしました」


 侍女の声が、僅かに低くなる。


 意味は一つ。


「実行に移しますか」


 足が、わずかに止まる。


 ほんの一歩分だけ。


 回廊の窓から差し込む光が、床に線を引いていた。


 その上に、影が重なる。


 ――“何を差し出せますの?”


 脳裏に、あの声がよぎる。


 ――国か、その方か。


 選択は、すでに終わっている。


「……ええ」


 迷いはない。


 それでも。


 ほんの僅かに、間を置いてから。


「本日中に」


 告げる。


 決定事項として。


「方法は」


「問いません」


 簡潔に。


 だが、一つだけ付け加える。


「目立たず、確実に実行しなさい」


 当然の条件。


「承知いたしました」


 侍女が一礼する気配。


 再び、歩き出す。


 靴音が、元の規則性を取り戻す。


 陽光は変わらない。


 花も、風も、何もかもが穏やかなまま。


 ただ一つ。


 確定した事実だけが、そこにある。


 彼女は、この国に不要である。


 ゆえに。


 私は排除する。


 それが、正しい。


 ――それが。

 この国の未来のためであり、国母となる私の判断なのだから。



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