第27話:部屋
乗馬を終えた後。
王城に用意された部屋に戻る。
自国との文化の違いは建築様式や内装に大きく現れていた。
公爵家よりも、華美な装飾に優雅な家具。
歴史こそ、浅いが文明は進んでいると思わせる一方。
ここでは美しさすら、誰かの意思で配置されているように見える。
私に付き添うメイドの衣装も質も整いすぎている。
無駄がない、というより“均一”だ。
「お嬢様、着替えましょう」
「ええ」
侍女の声で部屋に控えていたメイドたちが動き出す。
パーテーションで囲まれ、作業のように乗馬服が脱がされていく。
その工程も、管理されている。
全員が私と変わらない年頃なのに、よく躾られていた。
侍女のエリスもその手際を見極めている。
だからこそ、彼女たちには是非、私の試験を受けてもらいたいですわね。
「シャルロット様」
着替えが終わるとメイドの一人が声を掛けてくる。
「この後のご予定はございません」
二人はパーテーションを片付けており、残りの一人は私が抜いだ服を持って、部屋から出て行った。
「それから王子殿下からの言付けでございます」
彼女は一段と姿勢を正す。
今から言うのは、王子の代理なのだ。
「明日の午後、とある令嬢からお茶会に招かれている」
言われたままをなぞっているのがわかる。
「欠席は出来ない」とのことです。
彼女は一礼すると、壁際に戻ろうとするので引き止める。
さて、この国の“均一”はどこまで機能するのかしら。
「少し伺っても」
また、扇子で口元を隠そうとして、ないことに気付く。
「はい。どのようなことでしょうか」
「明日のお茶会、お相手はどこのご令嬢ですの」
壁際で控えるメイドの視線が下がる。
「お茶会を開かれるのは伯爵家のご令嬢です」
今度こそ、下がろうとする彼女。
でも、それは叶わない。
「それだけでは、ございませんよね?」
私の機嫌を損なうかもと、意図的に伏せた内容。
呼吸が浅く、早くなる。
対応していたメイドが初めて、目に見える形で動揺した。
「当てて差し上げましょうか」
「……それは」
スカートの前で組む手が強く握られる。
でも、私の顔は一度も彼女には向けられることはない。
あえて話している相手を見ない。
それが私と、メイドとの関係の距離だから。
平静を保てているのは、私と侍女だけ。
侍女のエリスの視線も、メイドの彼女に向けられていた。
誰が見ても、味方に向ける視線ではない。
間が空くごとに、部屋の空気が重さを増していく。
エリスが入れてくれた紅茶に口をつける。
ゆっくりと香りを楽しみながら。
「これはどこの茶葉かしら?」
私は侍女に微笑みを向ける。
「お嬢様、こちらの茶葉は南方の国から仕入れているそうです」
「そう」
「お口に合いませんか」
「いいえ、今日のような日にはとっても合いますわ」
国が代わっても、変わらない私たちの会話。
メイドは動くに動けず、小さく指先が震えている。
視線はどこに置くべきか、彷徨っていた。
ティーカップをソーサに静かに置く。
「その伯爵家のご令嬢は王子殿下の元婚約者……そんなところかしら」
メイドの震えも視線も止まった。
代わりに目は見開かれ、彫刻のような停止。
私の声が部屋を支配していた。




