第16話:感覚
私は食堂から私室へと向かう廊下を歩く。
その後ろには侍女が当たり前のようについて来ている。
まだ、昼食の時間が終わって間もない。
屋敷の使用人たちはこれから昼食を摂るものが大半で人の気配が薄い。
「お嬢様」
いつも寡黙な侍女の浮いた声。
何が言いたいのか、もう分かってしまう。
「先ほどは大変に見事な采配だったと思います」
普段の彼女を知っている身としては、こそばゆい言葉。
私は返事をすることなく、意識的に歩く速度を早めた。
私室のソファーに座り、頬杖をつく。
そんな私を見て、侍女は微笑んでいる。
彼女から視線を外し、違和感を感じて侍女を見れば、その距離が近付いていた。
「……ふう」
諦めたような息が出た。
私は扇子で、対面に座るように促す。
彼女はカーテシーしながら、見間違えることのない笑顔を向けてくる。
「失礼します、お嬢様」
椅子に座る動作、座った姿勢、笑顔。
流石は貴族家出身の令嬢といった雰囲気だった。
「お嬢様、素敵な殿方でしたわね」
彼女も年頃の娘。
色恋沙汰に関しては、人並みに関心がある。
「エリスに戻ってるわよ」
注意するように指摘するが柳に風。
「ふふ、たまにはいいじゃないですか」
私は彼女の目を見ない。
僅かな抵抗。
なのに。
「お嬢様も惹かれたのではないですか」
その言葉に食堂で感じた違和感を思い出す。
胸のざわめきで呼吸が乱れる。
反射的に扇子を開き、口元を隠してから失敗したことに気付いた。
案の定、エリスを見れば、顔がニマニマしていた。
「イザベラ様は大変に素敵な殿方を見つけられたようで……」
彼女の目が私を見据える。
その目は口以上に語っている。
「……」
私はまた目を逸らす。
逃げ、だということは分かっている。
でも、色恋の話で彼女に勝てないことは理解している。
そして、手を緩めてくれないことも――
「今日の試験で何か"見えた"のではないですか」
誰よりも、私の傍で私を見ている人の言葉。
軽くあるはずがなかった。
私には求めている記憶があることを自覚している……。
彼女はそのことを知っているから。
だから逃げられない。
「……そうね」
思い出せない、白い光。
過去の約束。
そして、今日感じた二人の繋がり。
「……お嬢様、もうご存じでしょう?」
「……」
彼女と二人きりになると私の仮面が剥がされてしまう。
私は姿勢を正して、彼女と目を合わせる。
優しい目、慈愛に満ちた表情。
「そろそろ、正面から向き合いませんか」
見つめ合ったまま、時間が過ぎる。
「気になっている“こと”が、ございますよね」
服の上から持ち歩いている古い装飾品に触れる。
――あの夜、渡されたもの。




