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選別令嬢の試験――誠実な方ほど壊れていくようですわ  作者: くろのわーる


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第13話:親友の婚約者



 応接室には、静かな緊張が満ちていた。


 テーブルの上には、丁寧に整えられた茶器。


 紅茶の香りが、柔らかく広がっている。


 ――けれど。


 その空気は、決して穏やかではない。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます。シャルロット様」


 向かいに座るのは、幼さの残る一人の少年。


 まだ若い。


 しかし、その背筋はまっすぐに伸びていた。


 ――年下、ですわね。


「ええ」


 私は静かに頷く。


「そ、それから、お久しぶりです。イザベラ様……」


 私の隣で。


 ほんのわずかに前のめりで座る彼女。


 ――私の親友。


 視線は、隣の少年へ。


「ええ、お久しぶりですわね」


 庇うように。


 支えるように微笑みを向ける。


 ……分かりやすいですわね。


「お越しいただき、ありがとうございます」


 小さな紳士を笑顔で迎え入れる。


「ほ、本日は“試験”とのことでしたが……」


 だが少年にとって、想定外の面接官がいた。


 緊張している。


 目が私と、イザベラを行き来する。


 完全に揺らいでいる。


「ええ」


 私はティーカップを手に取る。


「とはいえ、特別なことはいたしません」


 この場にイザベラがいることが、彼にとってすでに特別ですけどね。


 一口、紅茶を含む。


「ただの、お茶会ですわ」


 その言葉に。


 親友の視線が鋭くなる。


 ――信用しておりませんのね。


 当然ですけれど。


「……承知いたしました」


 少年は、ゆっくりと頷いた。


 逃げない。


 ……いいですわね。


 少し、退屈が消えましたわ。


 彼はティーカップに視線を注ぐことで、緊張を紛らわそうとしているようだった。


 でも、これは貴方への特別な"試験"ですから。


「では」


 私はティーカップを置く。


「ひとつ、お聞きしても?」


「は、はい」


 お菓子に手を伸ばそうと迷ってたところは可愛いですわね。


「あなたは――なぜ、彼女との婚約を望まれたのですか」


 私にではなく、イザベラにだ。


 二人とも予想外だったのだろう。


 空気が、静かに張り詰める。


 親友の指先が、わずかに動いた。


 でも少年は、迷わなかった。


「理由は、ひとつです」


 イザベラを見ながらまっすぐに、言い切る。


「彼女だからです」


 ……あら。


「家のためではなく?」


「それも、無関係とは申しません」


 一瞬だけ言葉を選ぶ。


「ですが、優先順位は明確です」


 視線が、私へ向く。


「私は、彼女を望みました」


 親友の呼吸が、わずかに乱れる。


 ……なるほど。


 これは。


「そう」


 私は静かに頷く。


「では、もう一つ」


 視線を戻させる。


「もし、彼女があなたを失うことを望んだ場合」


 扇子を開く音が響く。


「どうなさいますの?」


 空気が、冷える。


 親友が息を呑む。


「……それは」


 少年は、一瞬だけ目を伏せた。


 初めての、揺らぎ。


 けれど。


「受け入れます」


 顔を上げる。


 その瞳は、まっすぐだった。


「それが彼女の意思であるならば」


 ……また、それですのね。


 私は、ほんのわずかに視線を細める。


「本当に?」


「はい」


 迷いはない。


 けれど――肩が小刻みに震えている。


「……嘘ですわね」


 空気が、止まる。


 親友が顔を上げた。


 少年もまた、言葉を失う。


「あなたは」


 私は扇子で口元を隠す。


「それを受け入れる方ではない」


 静かに、言い切る。


 少年の瞳が、揺れた。


「……なぜ、そう思われますか」


 低く、問う。


「簡単ですわ」


 私は首を傾げる。


「先ほどの答えと、矛盾しておりますもの」


 ――彼女だから。


「それほどまでに望んだ相手を」


 自覚させるように言葉を重ねる。


「簡単に手放せるほど、あなたは軽くない」


 二人は沈黙する。


 親友が、ゆっくりと少年を見る。


 その視線には、戸惑いと――期待。


 少年は、息を吐いた。


 わずかに、肩の力が抜ける。


「……そう、ですね」


 小さく、認める。


「手放したくはありません」


 初めて。


 “綺麗ではない言葉”が落ちた。


 ――出ましたわね。


「ですが」


 彼は芯のある言葉で続ける。


「それでも、彼女の意思を曲げるつもりはありません」


 今度の視線は、揺れない。


「無理に引き止めることは、しません」


 親友の指先が、ぎゅっと握られる。


 ……なるほど。


「では」


 私は、さらに踏み込む。


「引き止めないまま、どうするのですか?」


 逃げ道を、塞ぐ問い。


 少年は、考える。


 今度は、しっかりと。


 そして。


「――選ばれるように、在り続けます」


 ハッキリと答えた。


 その言葉に。


 親友の瞳が、大きく揺れる。


 ……あら。


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 紅茶の香りが、ほんのわずかに甘酸っぱく変わった気がした。


「そう」


 短く、頷く。


 扇子を閉じる。


 音が、小さく響く。


「本日の試験は、以上ですわ」


 空気が、緩む。


 親友が、はっとしたようにこちらを見る。


「……結果は」


「保留、ですわ」


 その言葉に、二人の視線が揃う。


「まだ」


 私は微笑む。


「見えていないものがありますもの」


 けれど。



 ほんの少しだけ。



 確かに――

 “残る可能性”は、感じていた。




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