箱入り娘、冒険者(仮)になる
セイラと旅を始めてから10日ほど経った。
「オー! ココがレイウェルク! 街が岩で囲まれてマス!」
「レイヴェルクだよ。セイラの住む街は外壁が無いの?」
「はい! アタシたちの街は木の上に家があるので、街を囲む岩は無いです」
「へぇ~! ツリーハウスって奴? 楽しそう!」
「リリャは寝てる間に落ちそうだネ」
「あたしそんなに寝相悪くないよ!」
リリアがぷっくりと頬を膨らませたのを見て、みんながケラケラと笑う。
彼女は顔をピクピクさせながら表情を維持しようとしたが、すぐ我慢できずに笑い始める。その目じりには涙が浮かんでいた。
俺たちはセイラとともに街の中に入る。
門の守衛に呼び止められてセイラのことを尋ねられたが、正直に事情を説明したら通してくれた。
意外とすんなり入れてくれたことに驚いたが――
「監視されてるね」
「まあ、そうだよね……」
ミレナと声を潜めて話す。
周囲を見回すと、複数のグループに分かれた私兵たちが俺たちの動きに目を光らせている。数は前後合わせて15人ぐらいだろうか。
「まあ、悪いことは何もしてないわけだから、堂々としていればいいさ」
「ギルドにちゃんと説明すれば大丈夫だよね!」
「ダイジョブ!」
俺たちは冒険者ギルドに向かった。
窓口のお姉さんに簡単に事情を説明したところ、会議室に案内された。
会議室には俺たち4人とセイラ、ギルドの団長とお姉さんの計7人が集まって――
「一大事って何があったの!? グレインたちは無事!?」
「お嬢様! 落ち着いてください」
……たった今、9人に増えた。
メンバーが揃ったので、リリアがセイラを紹介する。
その時間を利用して、セイラの容姿を再確認しておこう。
彼女は大人びた顔立ちをしているが、表情は非常に豊かで、笑った顔は幼く見える。
髪は薄い緑色のロングヘアで、彼女の一族は全員この色らしい。
身長は160cm前後。これはあくまで俺の偏見だけど肩凝りとは無縁そう。ただ、本人は『まだ成長期』だと言い張っていた。
服装は魔法使いらしく漆黒のローブを身に着けている。
「セイラさん。その耳は……?」
「これデスか? アタシの街ではみんなこの耳デスよ」
「そう……ですか」
カティア様が引きつった笑みを浮かべる。
それもそのはず。セイラの耳は、俺たちのそれと違って少し尖っているからだ。
耳がついている場所は同じだし、ちゃんと左右に二つある。違うのは形と聴覚。
セイラの耳は俺たちのものと比べて細長く、先(?)が尖っている。
本人の許可を得て触らせてもらったリリア曰く、ちゃんと柔らかいそうだ。
聴覚は俺たちよりもずっと優れている。さらに、風の”声”を聞き分けることができるらしい。
先日、彼女は『風は色々なことを教えてくれる。風の声を聴けば、明日の天気はもちろん、モンスターや悪意を持った人物の接近も分かる』と言っていた。
そのときは冗談だと思っていたが、翌日から十日近く天気を的中させ、何度もモンスターの接近をいち早く言い当てたことで、その言葉が真実だと思い知らされた。
リリアの説明が終わると、ギルドの団長がおずおずと手を挙げた。
「それで、セイラちゃんはこれからどうするつもりだい?」
「ハイ! アタシ、リリャたちと一緒に冒険したいデス!」
「そ、そうか。ギルドとしてはそれでも構わないが……」
団長がチラリとカティア様に視線を向ける。
政治的に問題ないかを確認したいようだ。
カティア様は「わたくしの一存で決められることではありませんが……」と断ったうえで、彼女の考えを述べる。
「わたくしは賛成です。セイラを一人で放り出す方が問題になりそうですし、最も仲が良いリリアと一緒にいるのが彼女のためでしょう。戦力的に不安がありましたら、当家が手を貸しても構いません」
「お嬢様!? それこそ旦那様の許可がいるのではありませんか!?」
グラシアさんが慌てて口をはさむと、カティア様は『何を言っているの?』と言いたげな冷めた視線を送る。……嫌な予感がしてきた。
「ここに、フェルドリッジ伯爵家が誇る二大戦力がいるではありませんか。わたくしたちならば下手な兵団より役に立ちますわ」
「ソウデスネ」
カティア様が胸を張ると、グラシアさんの目から光が消える。
本当にグラシアさんは苦労人だなぁ……。
たぶん、カティア様は冒険したくてウズウズしていたんだろうな。
そんな矢先、俺たちが未開拓地から先住民(?)を連れ帰ってきてしまったものだから冒険意欲に火が着いてしまった。そんなところじゃないだろうか。
「安心してください。わたくしも色々なことを経験して成長しました。今回は腕利きの冒険者を雇います。それなら構わないでしょう?」
「まあ、それでしたら……。ですが、ちゃんと旦那様の許可を得てくださいね」
グラシアさんが渋々といった様子で納得する。
二人のやり取りが終わったのを見て、団長が一つ頷いた。
「一応、王家にも使いを出しておく。問題なければセイラは4人のパーティに加入ということで手続きしておこう。それまでは仮加入ということで」
「ありがとうございます!」
セイラとリリアがハイタッチを交わす。
俺たちも安堵の息を吐いた。




