洞窟探索
朝起きて、最初に目に入ったのは薄暗い天井――もとい、岩肌。
寝る前は気づかなかったが、結露によってできた水滴が垂れ下がっている。
その一つが頭の近くに落ち、ぴちゃりと音を立てて飛び散った。
寝転がったまま周囲に意識を向けると、焚火のパチパチという音の奥からザーザーと激しい雨音が聞こえてきた。
――止んでいてほしかったけど、願いは叶わなかったか。
残念に思いながら身体を起こし、身支度を整える。
焚火のところに行くと、既に全員集まっていた。
「グレインおはよう。今日もこの調子だから、洞窟の奥を探索しようという話をしていたんだ」
外に視線を向けると、やはり大雨。
実は風の音でしたという展開を願ったが、視界が白くなるほどの雨粒を見て打ち砕かれた。
「確かに、これじゃ外に出るのはつらそうだ。俺も洞窟の奥に行くのに賛成するよ」
こうして、俺たちは洞窟の奥に向かうことになった。
ランプの小さな明かりを頼りに、4人で黙々と洞窟を進む。
洞窟内は音が響くので、会話は最小限にしている。
外とは違って逃げ場が前後にしかないので、敵と遭遇するのはできるだけ避けたかった。
奥に向かえば向かうほど、湿度が高くなり、逆に温度が低くなる。
道の両側には結露した水が溜まっていた。
――ん? 何か今、光ったような?
その周辺を調べると、右側の壁、膝ぐらいの高さに拳二つ分ぐらいの大きさの石が飛び出していた。俺はその石にランプを近づける。
――これは……何かの金属か?
パッと見た感じはただの石だが、所々に金属のような光沢が覗いている。
レイヴェルクに戻ったらアッシュさんに渡してみよう。俺はそう考えてその石を壁から引き剝がし、腰下げに入れた。
さらに進むと、目の前の道が二手に分かれていた。
俺たちは洞窟内にいる(かもしれない)モンスターを刺激しないように小声で会話する。
「どうする?」
「左から強い魔力を感じる。危ないし、右にしない?」
ミレナが平然と放った言葉を聞いて、俺たちの顔が青ざめる。
3人は首をぎこちなく縦に振った。
分かれ道の前で少しだけ休憩した後、俺たちは右の道を進み始めた。
道幅は徐々に狭くなり、今では人二人分ぐらいの広さしかない。
当然長い武器は振り回せないし、俺やゼフレンの武器である剣ですら、窮屈で力を発揮できない。
俺たちはモンスターと遭遇しないことを祈りながら、前に進んだ。
しばらく進むと開けた空間に出た。
ぐるりと周囲を見回すが、そこにあるのは壁、壁、そして壁。つまり、行き止まりだ。
どこかからチョロチョロという水の音が聞こえる。
「あそこを見て。水が流れてる」
リリアが指差した先では、壁の切れ目から少量の水が流れ落ちていた。
俺はそこへ近づき、壁の切れ目に手をかざす。ちょうど切れ目も手の大きさほどだ。
「うん。この切れ目の奥から風が入って来てる」
この切れ目は外と繋がっているのかもしれない。
小さすぎて通り抜けることはできないが……。
さらに、流れる水に顔を近づけ、においを嗅いでみた。……土の匂いだ。
特に異変も無さそうなので、少しだけ手ですくってみる。やっぱり無色透明だよな。
「どう? 綺麗な水だった?」
「変な臭いや汚れは無さそう。さすがに、生で飲むのは怖いけど」
そう言いながらすくった水をミレナに見せる。
彼女はその水をじっと見つめ、少しだけムッとしたような声色で言う。
「私が出した水の方が綺麗だから、わざわざ湧水を飲まなくても良いでしょ」
「それもそうか」
変な意味に聞こえそうな会話だが、普通に水魔法で出した水だからな。
大気中の水分から生成した水なので、そこらにある水よりずっと清潔だ。
ミレナのおかげで飲み水や食事用の水には困らないし、身体や服も清潔に保てる。
彼女とリリアの魔法は、間違いなく冒険中の生活の質を高めてくれていた。
「こっちは行き止まりだし、そろそろ戻ろうか」
「左側にも行ってみる?」
「私は反対……と言いたいけど、放置するのも怖いよね」
おそらく、ミレナが感じた魔力はモンスターのものだ。
放っておくといずれ遭遇するかもしれない。それが夜中なら、死人が出る可能性もある。
「行こう」
俺たちは覚悟を決め、左側の道に向かった。




