密林地帯と雨
明くる日。
調査を終えて野営地に戻ったのは昼前のことだった。
朝から降っていた雨は時間が経つにつれてどんどん強くなり、今では土砂降りになっている。
俺たちは小さなシートを木の枝に張り、その下で身を寄せ合っていた。
「こんなに激しい雨が降るなんて……」
「場所を変えたほうがッ! 良いのかな」
雨水が溜まって垂れ下がってきたシートを殴り上げる。
すると、バシャリと四方から水が落ちた。
……なんかこれ、楽しいかも。
「でも、近くに雨を凌げるような場所なんてあるかな?」
「土砂降りの中探すのも……ねぇ」
「とはいえ、ずっとこうしているわけにはいかない。ご飯を食べられないし、横になることもできないんだから」
「――っ! 確かにそうだね。グレインのご飯抜きなんて考えられない!」
ミレナが瞳に闘志の炎を燃やすと、リリアとゼフレンは苦笑した。
俺たちは雨の中、雨宿りできる場所を探し回る。
持っていた小さな笠を被ることで頭だけは雨を防げるが、他はすぐにずぶ濡れになってしまった。
気温が高いおかげで冷たい雨じゃないのと、霧が出ていないことが救いだ。
隣のミレナをちらりと見る。
彼女とリリアはローブの上に毛皮の外套を着ている。だが、丈が胸元までと短いせいで、それより下はしっかりと濡れていた。
濡れたローブが身体に纏わりつき、身体のラインが浮き出ている。カナリスやグラシアさんのような体型だと目のやり場に困るが、二人は……うん。
「グレイン、何か失礼なことを考えていなかった?」
「キノセイジャナイカナ」
ミレナが怪訝な顔で見てくるので、俺は話を逸らすことにした。
「そ、それより! 濡れて身体が冷えてない? 大丈夫?」
「この辺りは暖かいから平気だよ。濡れた服が身体に張り付いてくる感触が気持ち悪いけど……」
「早く雨宿りできる場所を見つけて、服を乾かさないとね」
だが、1時間以上探し回っても雨宿りできそうな場所は見つからない。
その間も雨は容赦なく降り続け、俺たちの体力と気力を奪っていく。
――さすがに辛くなってきた……。どこでも良いから雨宿りがしたい。
その願いが通じたのだろうか。リリアが左前方を指差す。
「あっ! あれ、洞窟じゃない!?」
木々の隙間から、岩肌がポッカリと大口を開けているのが見えた。
少しでも居場所が前後すれば木の死角になっていただろう。見つけてくれたリリアに感謝だ。
「本当だ! 行ってみよう!」
俺たち4人は洞窟に向かって駆け出した。
洞窟はかなりの道幅があり、ずっと奥まで続いている。
空気の流れを感じるので、どこか外に繋がっているようだ。
俺とゼフレンが協力して焚火を用意する。
長い間、この洞窟には誰も立ち入っていなかったようで、足元に木の枝が散乱していた。たぶん、外に生えている木の枝が風で飛ばされて来たのだろう。
俺たちはそれを拾い集めて焚火の燃料とした。
火が十分に大きくなったのを確認し、ミレナとリリアがローブを脱いだ。
「いいか? 二人とも、絶対にこっち向いちゃダメだからな!」
「いや、それあたしたちのセリフだから!」
「グレインってもしかして背中派?」
「背中派って何!?」
互いに後ろを向いているので表情は分からないが、ミレナの声に脅えの感情が混ざっている気がする。とにかく今は誤解を解かないと!
「俺は断じて背中派じゃない! ミレナ派だ!」
俺の叫び声が洞窟内で反響する。岩肌に跳ねて戻ってくる『ミレナ派だ』という言葉を聞くたびに体温が上がっていく。
「……ごちそうさま」
「……情熱的だね。同じ男として尊敬するよ」
「……グレインのばか」
3人の言葉が追い打ちとなり、俺の羞恥心は限界を迎えた。
心に負ったダメージが癒えてきた頃、ミレナとリリアの服が乾いたようだ。
二人分の衣擦れの音が、妙に大きく聞こえた。
「おまたせ。もう大丈夫だよ」
リリアの許可が出たので俺たちは焚火のそばに移動し、4人で焚火を囲む。
洞窟の外からは激しい水音が絶えず聞こえてくる。
――ぐぅ
それに交じって小さな音が聞こえた。
俺は何も言わずに立ち上がり、料理の準備を始める。
「あたしも手伝うよ」
「悪いな」
「おじいさん、それは言わない約束ですよ」
「……なんじゃそりゃ?」
またわけの分からんことを。
とはいえ、ほどほどにしておかないと。ミレナが赤面している理由が変わってしまうかもしれない。
「今日は干し肉だな」
「じゃあ、スープを作らないとだね」
干し肉は日持ちするし、かさが減って持ち運びやすい反面、硬くて塩辛いのでそのまま食べても美味しくない。
なので、干し肉を食べるときは少し薄めのスープを作り、水分でふやかしつつ塩分でスープの味を調えながら食べるのだ。
俺はリリアと協力し、手早くスープを作る。
お腹を空かせている仲間がいるから、一秒でも早く完成させたかった。
「グレイン、味はこれで良いと思う?」
「……うん。良い感じ」
覚えたての頃に比べて、リリアの料理は随分上達したなぁ。
もうどこへ嫁に出しても恥ずかしくないぐらいだ。まあ、相手は決まっているだろうけど。
結局、夜まで雨が止むことはなかった。
俺たちはいつもの順番で見張りと火の管理を行う。
――朝には止んでるといいな。
そんなことを考えつつ、眠りについた。




