妨害魔法
生態系調査のクエストに出てから数日。
昼間は戦闘を避けて南下し、普段より早い時間から野営の準備をして魔法の練習をする。そんな毎日を過ごしていた。
「はぁあああ!」
「お兄ちゃん、力みすぎだよ。もっと肩の力を抜いて」
料理をしながら、横目でゼフレンの練習を見る。
ゼフレンが顔を真っ赤にして力を込め、その様子を見たリリアが苦笑していた。
魔法を習得していないゼフレンなので、魔法を使う感覚を掴むのに苦労しているようだ。
魔法を放てる気配は全くないが、それでもゼフレンは音を上げずに頑張っている。
彼は「ふうっ」と息を吐いて脱力すると、ミレナの方を向いた。
「ミレナにも見てもらいたいんだけど、良いかな? 二人の目から見て、ダメなところを遠慮なく教えてほしい」
「分かった」
ミレナがゼフレンの近くまで歩いていく。その表情はどこか嬉しそうに見える。
「はぁあああ」
「うーん……。まだ力を入れすぎかな。この魔法はドン! と魔力を込めるより、ドーッと込めた方が良いと思う」
「???」
ゼフレンが首をかしげる。
さっきまでニコニコしていたリリアも、笑顔が固まっていた。
3人が微妙な空気になっているのを見て、遠慮がちに声をかける。
「つまり、いきなり全力を込めるんじゃなく、徐々に魔力の出力を上げるイメージってことじゃないかな」
俺がそう言うと、不安そうにしていたミレナの表情がぱあっと明るくなり、何度も首を縦に振る。
「そうなのか。僕にもう少し魔法のセンスがあれば……」
「いやいや! あの説明で理解できるのはグレインだけだから!」
「そうか? ミレナの説明は分かりやすかったぞ?」
「それは愛のおかげだよ……」
リリアが疲れたようにつぶやく。
俺とミレナは目を丸くして顔を見合わせるのだった。
「一度休憩しようか」
ミレナがそう提案すると、ゼフレンの纏う雰囲気が弛緩する。
「じゃあ、次はあたしの番だね」
「手伝おうか?」
「料理は良いの?」
「あとは加熱するだけだから」
――食べる直前にした方が良い。
自身も料理をするリリアなので、最後まで口に出さなくても理解してくれた。
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて」
「私、刺さないからね」
「この間のことは謝るから機嫌直してよー」
ミレナは先日の言葉を気にしているようで、少し頬を膨らませている。
それを見たリリアが情けない声で赦しを請う。
するとミレナは「仕方ないなぁ」と小さく笑った。
「じゃあ、いくよ」
「いつでもどうぞ」
リリアが目を閉じ、俺に向けて手をかざす。
彼女の周囲に魔力が集まっていくのを感じた。
やがて、魔力がリリアの手から俺の方に流れてくる。
その先端が俺に当たった途端、急に身体が重くなるような感覚に襲われた。
「うおっ。……これ、すごいな」
そう言いながら所持していた剣を抜き、試しに振ってみる。
いつもとは異なり、ものすごく緩慢な動作になった。
まるで一日中戦闘し続けた後のように、身体に力が入らない。
「それ本気?」
「ああ。全力で振っているんだけど、身体が重くてだめだ」
「うん。うまくいったみたいだね」
リリアが満足げに笑う。
俺はそのまま剣を振り続けるが、全然身体が軽くならない。
「もう良いよ。多分治らないから」
リリアはそう言って俺の肩に手を置き、回復魔法を使う。
すると、身体の重さが消えていった。
「どうなってるんだ?」
「さっきのはね、グレインを疲れさせる魔法。いつもの疲労回復魔法の逆だね」
「疲労回復と違って直接触れなくてもできるんだな……」
「効率は落ちるし魔力も多く消耗するけどね。もちろん直接触った方が効果的だけど、敵に近づくのはムリだからね」
それもそうだ。
簡単に触らせてくれるモンスターなんているはずがないし、リリアが直接触れる相手なら妨害魔法を使わなくても倒せるだろう。
「……ただ、頭の良い相手ならリリアを真っ先に狙いそうだね」
「ああ。僕たちも頑張らないといけないな」
上位のモンスターの中には人間より賢い種族も存在する。
彼らは回復魔法使いや妨害魔法使い、強力な攻撃力を持った冒険者を優先的に狙ってくる。
これまではうまく分散できていて、全員が満遍なく狙われていた。
だが、リリアが妨害魔法まで使い始めると、彼女に攻撃が集中しそうだ。
――あれ?
そこで、ふと気づいた。
「なあ、敵の攻撃を俺に集中させる魔法とか無いのか?」
そう言いながら魔導書に目をやる。
「敵の攻撃を『自分自身』に集中させる魔法ならあるけど、『特定の誰か』に集中させる魔法は載ってなかったよ」
「そうか……」
ミレナの返答を聞いて肩を落とす。
『自分自身』が狙われるようになる魔法を使えれば一番だけど、残念ながら俺には魔法の才能が無い。
「……」
リリアが真剣な表情で考えこんでいたが、この時の俺はまったく気がつかなかった。




