戦闘の幅を広げたい
魔導書騒動が一応の解決をみたことで、クエストと依頼の日々が戻ってきた。
俺たちは久しぶりにクエスト掲示板の前に立つ。
「今回はどんなクエストにする?」
「自由度の高いクエストが良いな。気の向くままに未開拓地を探索したいというか……」
「なるほど……。この前みたく地図作成とか?」
「あれは『誰も行ったことが無い場所』っていう縛りがあるし、期限がそんなに長くないからバタバタするんだよね」
俺は「なるほど」とつぶやきながら、掲示されているクエストを見比べる。
「未開拓地南部の生態系調査。期限は50日だってさ。これとかはどう?」
「良いじゃん! グレイン、褒めてつかわす!」
「もったいなきお言葉」
揉み手をしながらそう言うと、3人が噴きだした。
俺たちは『未開拓地南部の生態系調査』のクエストを受け、未開拓地に向けて出発する。
クエストの内容は、未開拓地の南部に生息する植物やモンスターの生態を調べて記録することだ。
範囲はそれほど広くないが、天候ごとの行動の変化などを調査できるように長めのクエスト期間が設けられているらしい。
それでも時間に余裕があるクエストなので、空いた時間に未開拓地を自由に探査しようと思っている。
新しい場所を巡ったり素材を集めたりできれば良いなぁ。
「あれ? 魔導書を持ってきたんだ?」
「うん。長丁場のクエストだから、合間に読もうかなと思って」
ミレナが大切そうに魔導書を抱きかかえている。
散々俺たちを惑わせた魔導書だが、普段は動き回ることもなく大人しくしている。
……いや、動き回る魔導書って何だよ。
「時々あたしたちにも貸してもらえる?」
「うん。良いよ」
「やったね。お兄ちゃん!」
「あ、ああ……」
どうやら、ゼフレンとリリアも魔法の練習をするようだ。
そうなると魔法の才能に乏しい俺は、見ていることしかできない。仕方ないから、一人で素振りしてようかな?
「ねえ、グレインも一緒にどう?」
「えっ? 良いのか?」
ミレナが誘ってくれたので、思わず声が上ずる。
だが、彼女はそっと目を逸らした。
「その……期待させておいて申し訳ないんだけど、新しい強化魔法の練習をしたくて――」
「ああ、実験台になれば良いんだね」
多分、俺の目は光を失っているのだろう。
目の前でミレナがワタワタし始めたのを見て、逆に申し訳なくなる。
「ミレナも新しい魔法を覚えるんだ。……あたしも回復以外の魔法を覚えようかな?」
「どんな魔法を覚えようと思うんだい?」
「うーん……。攻撃魔法はミレナがいるから、支援系かな。妨害魔法とか?」
「今後のことを考えると、覚えておいて損は無さそうだね」
「お兄ちゃんもそう思うよね!」
リリアが新しい魔法を覚えようとしているのは凄くありがたい。
パーティとしての引き出しが多ければ、どんな相手が来ても対処できるようになると思うからだ。
「やっぱり、パーティとしての引き出しが多ければ、どんな敵にも対処できるようになると思うんだよね」
「その言葉、俺が今考えていた言葉だ」
「……私も考えてたもん」
ミレナがむくれる。
言いたいたこと……というか気持ち? は伝わってきたけど、その言葉のチョイスだと――
「ミレナがヤキモチ焼いてる! そんなにあたしをグレインに取られたくなかったの!?」
「やっ、ちがっ」
案の定、ミレナはリリアの餌食になった。
満面の笑みを浮かべたリリアに抱き着かれ、ミレナはリンゴのように赤くなっている。
今日も平和だなぁ。そう思いながら、俺はそっと視線を外した。
しばらくすると、リリアがミレナを解放した。
リリアは満足げな表情を浮かべ、ミレナは荒い呼吸を繰り返している。
今日はいつもより長かったな……なんてことを考えていると、リリアと目が合った。
「グレインのえっち」
「なんでや!」
おっと。つい、謎の訛りが出た。
そんなやり取りを挟むうちに、ミレナが復活した。……まだ顔が赤いけど。
「……それで、何の話をしてたんだっけ?」
「そうだ、妨害魔法の話だった」
そう言うと、リリアはまた俺を見る。
「…………」
「…………」
「……俺を実験台にしたいって言わないのか?」
「さすがに、それは……ねえ?」
リリアにしては珍しく歯切れが悪い。
初級の妨害魔法ぐらいだったら全然平気だろうし、友人に使ってみて感想を聞くことも多い。だから全然気にする必要無いのになあ。
「……ミレナに刺されそうだし」
「刺さないよ!」
そっちか!
俺の身を案じてくれたとか、俺に申し訳ないと思ったとかじゃないのか。
まあ、リリアとの間には良い意味で遠慮が無いから、他に理由があると思っていたけど。
そういえば、みんなは戦い方の幅を広げようとしているが、俺もできることを増やせないかな……。




