カナリスの下心
「謎は解けたわ。その魔導書は『恋愛の波動』に飢えているのよ!」
その言葉に真っ先に反応したのは、ガルドだった。
「ごめん、ちょっと何を言ってるのか分からん」
「簡単なことよ。魔導書の前の持ち主は、好きな人と結ばれることができずに死んでしまった。彼女の無念が、その魔導書に強い影響を与えたのよ!」
「はぁ……。それで?」
ガルドを始め、俺たちはカナリスを微妙な目で見つめる。
だが、彼女はその視線に気づく様子もなく、大衆を前に演説するかのようなトーンで続けた。
「私たちはその魔導書を満足させ、浄化させないといけないわ。創作でいう『光堕ち』ね。そのための方法は一つ。仲の良い男女が二人一組になって、魔導書の前でイチャイチャするのよ!」
カナリスがそう言った途端、ミレナとリリアが目を丸くし、頬をほんのりと染める。
一方、ゼフレンとレオディスは首を傾げていた。
「うーん、どうだろうね」
「なあ、カナリス。さすがにそんな方法がうまくいくとは――」
「いや、案外いけるかもしれないぜ?」
そう言って、カナリスに助け舟を出したのはガルドだった。
「カナリスの言っていることも一理ある。失敗しても死ぬわけじゃないし、試しにやってみるのが良いんじゃないか?」
そこでピンときた。ガルドはカナリスとリリアの手助けをしようとしているんだ。
なので、俺もその言葉に賛同することにした。
「俺もガルドの意見に賛成です。うまくいくかどうかは分かりませんが、やってみる価値はあると思います」
「わ、私も。試してみるのが良いと思います」
レオディスとゼフレンは『マジか』と表情を浮かべる。
リリアとカナリスが、彼らに見えないように親指を立ててきた。
「うーん……。じゃあ、試してみるか」
「そうだね。うまくできるか分からないけど、やってみよう」
こうして、俺たちは魔導書の前で『イチャイチャ』することになった。
……賛同してみたものの、本当にこれで合ってるのか?
会議室にカナリスとレオディス、それに魔導書を残し、俺たちは別室に移動した。
冷静になればなるほど『俺たちは何をやってるんだ?』という気持ちが大きくなってきたが、成り行きに身を任せるしかない。
「気持ちは分かるけど、これも二人の為だから」
「うん。効果があれば良いけど……」
何だかんだ言って、レオディスとゼフレンは女心に疎い。
ちょっと『イチャイチャ』したぐらいで堕ちるようなら、とっくにくっついていそうだけどなぁ……。
しばらく待っていると、カナリスとレオディスがやってきた。
レオディスは「うーん?」と首をかしげていて、カナリスの表情は沈んでいる。
聞かなくても、何があったか……というより、『何もなかった』ことが伝わってきた。
俺はあからさまにならないよう、ゆっくりと目を逸らす。
「次は僕たちの番だね」
ゼフレンがそう言って立ち上がり、会議室に向かう。
彼を追いかけるリリアの足取りは弾んでいた。
「……この5人が揃うのも久しぶりだな」
「そうですね」
ガルドが会話の取っ掛かりを作ってくれる。
ミレナとレオディスの雰囲気を見て、いけると判断したのだろう。
「なあ、あの時のことを覚えてるか? 王都の南に薬草を取りに行った時の……」
「ああ! ありましたね。懐かしいなぁ……」
俺たち5人は一緒に冒険していたころの思い出話に花を咲かせる。
さっきまで落ち込んでいたカナリスに元気が戻り、レオディスとミレナにも笑顔が浮かんでいた。
5人で談笑していると、ゼフレンたちが戻ってきた。
先に部屋に入ってきたリリアは軽やかな足取りだ。
カナリスとは違い、その表情に陰りはない。
――おや?
少し期待感を持ってゼフレンの顔を見ると、頬が赤く染まっていた。
最後に、俺とミレナが会議室に入る。
俺たちは自然と隣り合って座った。
「……何したら良いんだろう?」
「とりあえず、手でも繋ぐ?」
手のひら同士が触れ合い、互いの体温が混ざり合う。
俺たちはそのまま、たわいもないことを話し始めた。
ミレナと二人きりの、穏やかな時間が続いていく。
手を繋いでいるだけで、それ以外のスキンシップは無い。
それでも、この時間が心地良かった。
「なんか、こういうのも良いね」
「落ち着くよね」
別に生き急いでいるわけではないけれど、普段は命懸けの仕事をしているからこそ、こういう時間は尊い。
――これからは、意識的にこんな時間を作るべきなのかもしれないな。
柄にもなく、そんなことを考えていた。
「そろそろ戻ろっか」
「そうだね。……それにしても、これで効果があるのかな?」
「さあ? まあ、リリアとカナリスのために用意した時間でもあるから」
「あの二人、うまくやれていれば良いけど……」
個人的には、リリアの方はうまくいったんじゃないかと予想している。
カナリスは……何も言うまい。
翌朝。
ミレナが困惑した表情でギルドにやってきた。
「魔導書が夢に出てきて『満足したからしばらく休む』って言ってた……」
「えぇ……」
あれで良かったのか。それに、『しばらく』ってことはまた出てくるのか?
困惑は、俺たちにも伝染した。




