思いがけない告白
俺たちが突然の再会に固まっていると、カティア様が小さく首を傾けた。
彼女も何かを感じたはずだが、特に言及することなくホストに徹する。
正直、俺たちの関係を説明しようと思うと、『追放』の部分も話さなければならなくなるので、触れられなくて助かった……。
「ようこそおいでくださいました。どうぞ、お掛けになってください」
円卓の上座に腰掛けるカティア様の口調や声色は、よそ行きのそれになっている。
俺たちは彼女の言葉に従い、部屋の右側、レオディスたちの向かいに並んで座った。
少しの間、沈黙が流れる。
その隙にチラリと様子を見たが、ミレナの表情や態度に変化は無い。
あの件については、既に気持ちの整理がついているのかもしれない。
逆に、レオディスパーティのメンバーは三者三様の表情をしている。
ガルドは少し前に王都で会ったこともあり、俺たちの姿を見ても大きく顔色を変えなかった。今も柔らかい笑みを浮かべている。
カナリスは、目に涙を浮かべてミレナのことを見つめていた。彼女はミレナと仲が良かったので、久々に会えて嬉しいのだろう。
ミレナの無事を確認できて安心したことも、カナリスの涙腺を刺激したのかもしれない。
一方、レオディスは目を泳がせている。彼の視線は時折ミレナに向けられるが、すぐに逸らしてしまう。
多分、追放したミレナと再会することを予想していなかったので、気まずいのだと思う。
とはいえ、同じパーティにいた頃のレオディスは常に堂々としていたので、彼のこんな姿を見たのは初めてだ。
「紹介します。お三方は王都で活動する冒険者のみなさんで――」
カティア様が間に入り、互いを紹介してくれる。
俺たちがBランクパーティだと聞いた時の、レオディスの驚いた顔が印象的だった。
「その……、ミレナちゃんが攻撃を担当しているというのは……?」
会話が途切れたタイミングで、カナリスが遠慮がちに尋ねてきた。
ミレナが少し弾んだ声で答える。
「私自身も、水魔法が使えることをずっと忘れていたんですが、グレインがモンスターにやられそうになっているのを見て、とっさに使ったら使えたんです。それ以来、私が水魔法での攻撃を担当しているんです」
「そうだったのね。……ふふっ、良かったわね」
カナリスはそう言って目を細める。その表情は、我が子の成長を喜ぶ母親のようだ。
ミレナも頬を染めて小さくうなずく。
二人の関係は、同じパーティにいた頃と変わっていないように見えた。
その後、カティア様が、レオディスたちがここにいる理由を説明してくれる。
「グラシアが前に言っていた『魔法学校の後輩』というのが、こちらのカナリスさんです。力を貸してほしいとお声がけしたところ、パーティのみなさまと共に駆けつけてくださいました」
「遠いのにここまで来てくれて、ありがとうございます」
「良いのよ。私もミレナちゃんの役に立てて嬉しいわ」
「その面倒見の良いところ、昔から変わりませんね」
「実力が有るのを鼻にかけず、親身にサポートする先輩を見て育ちましたから。私もその人のようになりたいと思ったんです」
「うっ……。ほどほどにしてください……」
カナリスがニヤリと笑い、グラシアさんが顔を真っ赤にして小さく震える。
短いやりとりだが、二人の関係性が分かった気がした。
そういえば、ミレナはカナリスとグラシアさんの両方から魔法を教わっていたな……。
神の導きか何かが存在するかのように感じてしまうのは、創作の読みすぎだろうか。
結局、今日は顔合わせがメインで、魔導書に関してはまた後日ということになった。
俺たちは伯爵家の屋敷を後にすると、宿に向かって歩く。
前を行くガルドとカナリスが、ゼフレンとリリアに話しかけている。
ミレナは彼らのすぐ後ろ、さらに少し離れてレオディスが続き、俺は一番後ろでその様子を眺めていた。
しばらくすると、レオディスが少しずつ歩く速さを落とし、俺の隣に並ぶ。
彼は、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
「久しぶりだな。元気にしていたか? その……グレインもミレナも」
「色々ありましたが、元気に過ごしていましたよ。3人もお変わりありませんか?」
「そうか」
レオディスは俺の問いかけには答えず、小さくうつむいて「元気だったんだな」とつぶやいている。
俺の知っているレオディスとはまるで別人のような言動なので、調子が狂うなあ……。
レオディスは何か言いたそうなそぶりを何度か見せ、ついに口を開いた。
「悪い、少し回り道をしないか?」
「え? ええ、構いませんが……」
俺はチラリと前を見たが、レオディスは俺のことしか見ていなかった。
俺たちは遠回りで宿に向かう。
前を行く4人が途中で俺たちの不在に気づくかもしれないが、ガルドがうまくやってくれるはず。
しばらくすると、レオディスが急に立ち止まった。
俺も歩くのをやめて後ろを振り向く。
レオディスは、俺が口を開く前に深々と頭を下げた。
「グレイン、お前たちには本当に申し訳ないことをしたと思っている。ミレナを追放したこともだが、何より二人の適性を把握しようとしなかった。二人が重戦士と水魔法使いとして活躍していると聞いて、己の見る目の無さを悟ったよ」
彼が仲間に謝罪しているのは初めて見たし、こんな日が来るとは思わなかった。
俺が何と言おうかと迷っていると、正面――レオディスの後ろから声が飛んでくる。
「お願いですから、謝らないでください。確かに、私はあなたにパーティ追放されたせいで色々なものを失いました。でも、あなたが追放してくれたおかげで、私はもっと多くの、大切なものを得ることができました」
「ミレナ……」
レオディスがミレナの方を向いたので、彼の顔が見えなくなってしまう。
「もちろん、追放されなかったらもっとすごい魔法使いになっていたかもしれませんが、考えても仕方のないことです。こうして再会できたんですから、互いの未来を良くするために協力しませんか?」
「分かった。ありがとう」
レオディスがミレナのもとに歩み寄り、互いに握手を交わした。
それにしても、ミレナは本当に強い女の子だ。
彼女は『追放』されたことすら、自身が成長するための糧にしてしまった。
さっきまでの言動から、ミレナはレオディスに対する憎しみや復讐心を全く持ち合わせていなかったと知り、俺の心に温かいものが広がっていく。
ああ、――
「やっぱり俺、ミレナのことが大好きだ」
――なぁ……。




