魔導書の意思
朝になった。俺たちは朝食を食べながら、今後の動きについて話し合う。
といっても、4人とも考えは同じだ。
「魔導書がここに来てしまった以上、クエストを続行するわけにはいかないと思うんだけど、どうだろう?」
「あたしも一度レイヴェルクに戻るべきだと思う。急に魔導書が無くなってギルドは大騒ぎになってると思うから、早めに戻してあげた方が良いかなって」
「そうだよね。ギルドの人も慌てて探しているかもしれないし、一日でも早く返してあげたい」
「決まりだね。幸い、レイヴェルクを出たのは昨日だから、頑張れば今日中に戻れるはずだ。食べ終わったらすぐに出発しよう」
ゼフレンの言葉に全員がうなずく。
こうして、俺たちはクエストを中止し、レイヴェルクに戻ることになった。
急ぎ足で向かったこともあり、何とか門が閉まるまでにレイヴェルクに戻ることができた。俺たちはそのまま冒険者ギルドの窓口に駆け込む。
「あれ? キノコの収穫にしては早かったですね。……何かありましたか?」
片道三日かかるクエストを受けた次の日に戻ってきたので、窓口のお姉さんはトラブルが起きたことを察したようだ。
「すみません、ちょっとここでは。魔導書の件なので、奥で説明しても良いですか?」
「――っ!? わ、分かりました。どうぞ会議室へ」
俺たちが会議室に着いてすぐ、お姉さんとギルドの団長がやってきた。
さらにしばらく待っていると、カティア様とグラシアさんもギルドに駆け付けた。
「魔導書が見つかったって本当!?」
「お嬢様、落ち着いてください」
カティア様の様子を見るに、魔導書の『外出』はそれなりの騒ぎになっていたようだ。
引き返す判断をして、本当に良かった……。
「魔導書はこちらです。昨日の夜までは確かに無かったのですが、起きたら私の枕元に来ていて……」
俺たちは事情を説明する。
意外にも、この場にいる全員が俺たちの言葉を信じてくれた。というのも――
「昨日は写本を作るために職員が書き写していたんだ。確か夕方までだったかな? その後、所定の場所に戻されていることを、オレも確認した」
「ミレナさんたちは昨日の朝、街を出ています。門の衛兵にも確認しましたが、間違いありません。そして、今日の夕方まで戻ってきていないことも確認済みです」
これらの状況から、俺たちが魔導書を持ち出せないことが証明されたからだ。
「オレが最後に魔導書を見たのは門限の後。魔導書は今朝、オレがギルドに来た時点で無くなっていた。これらを踏まえると、魔導書が夜のうちに出て行ったとしか考えられないんだが……」
彼が仕事を終えるのは門が閉まった後で、ギルドに出勤するのは門が開く前だ。つまり、魔導書を持って門を通った人間はいないということになる。
団長がグラシアさんやミレナを見る。
彼は元々剣士だったので、魔法関係にはあまり詳しくない。なので、魔法使いの意見を聞くことにしたのだろう。
団長の視線を受けて、グラシアさんが一歩前に出た。
「魔導書がひとりでに移動するというのは聞いたことがありません。ですが、今回はそれ以外に説明がつきません」
「一瞬で、物を離れた場所へ移動させる魔法って存在しないですよね?」
「少なくともうちの国では確認されていませんし、この魔導書にも載っていません。ひとまず無いものとして考えましょう」
よくよく考えてみると、誰かがギルドの魔導書を転移させることができたと仮定しても、ミレナの枕元に送る意味が無い。じゃあ、何で魔導書はミレナのところに来たんだろう。
「魔導書自身が、ミレナを持ち主と認識している……とか?」
「荒唐無稽な話に聞こえますが、グレインの考えが正しいのかもしれません。私たちは魔導書について知らないことが多すぎます」
「一度、魔導書と発見場所の調査を実施するか?」
「それが……」
俺たちはみんなに、魔導書を発見した屋敷が跡形もなく消え去ってしまったことを説明する。その話を聞いた団長たちは目を丸くした。
「そんなことが……。それに、未開拓地に屋敷があったとは驚きだ。いや、本来は別の場所にあった廃墟が、空間の捻じれによって未開拓地に姿を現したのか?」
「豪邸だったということは、名のある方の屋敷だったのでしょう。ミレナの話に合う貴族か商人、冒険者を探せば、その屋敷がどなたのものだったかが分かるかもしれませんね」
「屋敷の持ち主から攻めるというわけですね。一族は全滅してそうですし、資料に残っていると良いですが……」
団長やカティア様たちが色々と考察しているが、すぐに答えは出そうにない。
やがて、話し合いは魔導書の処遇に戻ってきた。
「とりあえず、この魔導書の扱いを決めようか」
「そうですね。……といっても、ほとんど選択肢が無いと思いますが」
カティア様はそう言うと、心配そうな表情でミレナを見た。
「私たちがクエストに出ている間は、私が責任をもって管理します」
ミレナが引き締まった表情で答える。それを聞いて、俺も覚悟を決めた。
「俺も、その魔導書を失くしたり奪われたりしないように目を光らせます。もしものことがあれば、俺も責任を取ります」
さらに、リリアとゼフレンもミレナに協力することを申し出てくれる。
ミレナは、俺たち三人を潤んだ瞳で見つめた。
「本当にありがとうございます。大変だとは思いますが、よろしくお願いします」
「常に気を張っていると身がもたないだろうから、ミレナたちが街にいるときはギルドで預かろう。せめてこのくらいはさせてくれ」
「いえいえ、すごく助かります。よろしくお願いします」
こうして、魔導書はミレナの元に戻った。




