つかの間の休息
数日後。
俺は久々にアッシュさんの防具店を訪ねていた。
というのも、今の鎧は防御力に優れているが、長旅には向かないことが分かったからだ。
先日の地図作成クエストでは20日ほど旅をしたが、後半は疲労困憊だった。
リリアに回復魔法をかけてもらうことで何とか乗り切ったが、彼女の魔力も有限なので、できることなら節約したい。
ということで、アッシュさんに軽くて丈夫な鎧を作ってもらえないかと相談しに来たのだ。
店に入ってすぐ、誰もいない店内をぐるりと見回す。
相変わらず置いている防具は少ないが、どれもが洗練されたデザインだ。
――この雰囲気、懐かしいなぁ……。
だけど、何となく店の中が温かく、柔らかい空気になった気がするのは気のせいだろうか。
しばらく店内の商品を眺めていると、俺の存在に気づいたアッシュさんが店の奥から姿を現した。
「おう、グレイン。久しぶりだな!」
「アッシュさん! お久しぶりです!」
俺たちは再会を喜び合う。
最近会っていなかったが、元気そうなのでひと安心だ。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「実は――」
俺は今の防具の使用感を改めて伝え、地図作成クエストで感じた疲労感についても話す。
丈夫だから安心して着用できると言うとアッシュさんは誇らしげな顔を見せ、長旅ではかなりの疲労が蓄積されることを説明すると渋い表情になった。
「うーん。あれからオレも色々と調べてみたが、あの鎧に使っている金属が、手に入る素材で1番丈夫なんだ。だから軽くするだけなら簡単だが、耐久は確実に落ちる」
「そうですか……」
俺は肩を落とす。
だが、アッシュさんはニヤリと笑った。
「まあ、人の話は最後まで聴くもんだ。『手に入る素材で』って言っただろ? 未開拓地には、まだ誰も踏み入ったことの無い地域やダンジョンがあるはずだ。もしかすると、そこには未知の素材があるかもしれねえ」
その言葉に、一筋の光を見た。
「そうか! もし軽くて丈夫な素材があれば、それで防具を作れますね!」
「見たことの無い素材を見つけたら、どんどんオレのところに持って来い!」
「分かりました!」
俺はアッシュさんと固い握手を交わした。
「そういえば、前に金属以外の素材について話していましたよね」
「ああ。だが、今はまだ金属しか扱えないんだ。すまないな」
そう言いながら、アッシュさんはカウンターの奥に下がっていく。
そして、店の裏からいくつかの防具を持ってきてくれた。
――あのアッシュさんが、試作品を見せてくれるなんて!
彼は納得いく出来栄えの商品しか店に置かない主義なので、試作品を見せてもらうのはこれが初めてだ。
それだけアッシュさんが心を許してくれていると思うと、心の底から嬉しさがこみ上げてくる。
「今のところ、こんな出来だ」
「これなんかは良さそうに見えますけど、どこがダメなんですか?」
俺は革製の胸当てを手に取る。普段使っている鎧の半分以下の質量だ。
「見てくれは良いんだが、耐久性が足りねえ」
「そうなんですね……」
残念。これぐらいの重さなら、疲労もほとんど残らないと思ったんだけどな。
しばらく世間話をした後、俺はアッシュさんの店を後にする。
時間はまだ昼前というところか。
「うーん、まだお昼だから宿に戻るのもなぁ……」
このまま宿に戻ると、今日はもう外に出なくなる自信があった。
それだとせっかくの休日の半分を宿で過ごすわけで、なんだかもったいない気がする。
「そうだ、調味料を補充しないと!」
先日の冒険で、手持ちの調味料をかなり使ったことを忘れていた。
Bランクに昇格したことで、これまでと比較して活動範囲が広がっている。
今後は一回のクエストで長期間街の外に出ることも増えるはずなので、調味料や保存食のストックは万全にしておきたい。
俺は、様々な調味料を取り扱う店に向かった。
店に着くと、店内ではリリアが真剣な表情で調味料を眺めていた。
彼女は俺に気づくとこちらに歩いてくる。
「グレインも買い物?」
「ああ。この間のクエストで、手持ちの調味料をほとんど使い果たしてしまったからな。補充に来たんだ」
「そっか。毎日3食、料理を作ったもんね」
クエスト中、食事は俺とリリアが担当したので、彼女も調味料が減っていることには気づいていたはず。もしかして、リリアも買い出しに来てくれたのだろうか。
「ん? 違うよ。あたしは、お兄ちゃんが好きな味を出すための調味料を探しに来たの」
違った。というか、心の中を読まないでほしい。
ちなみに、ゼフレンは辛い味が好きだ。それも、塩ではなく香辛料由来の辛さが。
激辛料理も好きなようで、休日にはよく食べに行くらしい。
俺も辛い料理自体は好きだが、激辛料理はさすがに無理。ミレナとリリアはピリ辛ぐらいまでが美味しく食べられる限界のようだ。
ミレナたちは辛いよりも甘い食べ物の方が好物だが、当然、冒険中にお菓子を作ることなんてできない。街でケーキを食べる瞬間が、二人にとって最高のご褒美とのことだ。
「ゼフレンが好みそうな味だと……これとか?」
俺はそう言うと、真っ赤なトウガラシが入った瓶を指差す。
「お兄ちゃんってこれ好きだよね。……って、高っ!」
リリアはそう口走ってから、慌てて自身の口元を押さえる。幸い、店員には聞こえていなかったようだ。
「香辛料はあまり出回らないからね。どれも良い値段がするんだよね」
「見た目はカワイイのに、お値段は可愛くないんだね」
……可愛いか? いや、人の趣味嗜好に口を挟むべきじゃない。
「まあ、今はザント団討伐のおかげで余裕があるから、少しぐらい買っておく?」
「……買う。これ」
「おっけー」
俺はリリアが指差した、トウガラシが少量入った瓶を手に取り、籠に入れる。さらに、塩やハーブ、ハチミツも追加した。
「……ふふっ」
「ん? どうかした?」
「グレインは優しいなーって」
「?」
リリアは店を出るまで、ずっとニコニコと笑っていた。




