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好きな人がパーティを追放された  作者: myano
未開拓地探索編

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魔導書

 約10日後。

 俺たちは地図を描き終えてレイヴェルクに帰還し、クエストの報告をするために冒険者ギルドを訪れた。

 慣れない場所でいつも以上に気を張っていたこともあり、さすがに疲労困憊だ。早く宿のベッドで眠りたい。

「やっと戻って来れた……」

 ミレナが珍しく疲れ切った声を出すものだから、俺は苦笑を浮かべた。

「半月以上か……。本当に長かったね」

「……屋敷での出来事もあったもんね」

 ミレナが俺の耳元で、俺だけに聞こえるように言う。彼女に他意は無いはずなのに、身体がぞくりと震えた。

 あの後、リリアだけでなくゼフレンにも確認したが、屋敷なんて知らないと言われてしまった。二人は冗談を言っているような雰囲気には見えず、そのことがさらに俺たちを震え上がらせた。

 一緒に屋敷を探索したリリアとゼフレンは誰だったんだろう。

 ……まさか、あの屋敷にいた幽霊だろうか? 今となっては確かめようもない。


「ミレナ、その魔導書はどうするの?」

「とりあえず、ギルドに報告しようかな。貰えるなら欲しいけど、勝手に自分の物にしてバレたら面倒だし……」

「それが良いかもね。ギルドで保管するなら、頼めば見せてくれそうだからね」

「許可がもらえるなら書き写させてもらいたいな。せめて水属性の魔法だけでも」

 ギルドや図書館で保管している書物は基本的に書き写させてもらえることが多い。

 機密に関わるものや外部に持ち出すべきではない情報は例外だが、水魔法に関する情報ならば大丈夫だと思う。



 まずはギルド窓口でクエストの結果を報告する。

 窓口のお姉さんは、ゼフレンが書いた地図を見て「今まで見た中で、最も素晴らしい地図です!」と目を丸くしていた。

 俺たちが地図作成担当としてロックオンされた気がするのは気のせいだろうか……?


 そんな一幕の後に、ミレナがそっと魔導書を提出する。

「あの、クエスト中にこれを見つけたんですが……」

「確認しますね。……こ、これは!」

 お姉さんの声を聞きつけて、ギルド長に副ギルド長、さらに周囲の魔法使いたちが飛んできた。

 誰もこれだけの魔導書は見たことがなかったようで、みな口々に驚きを漏らす。

「これは凄い。火属性の魔法を一冊にまとめた魔導書なら見たことありますが、全ての属性の魔法の使い方や効果を記した魔導書は初めて見ました」

 その言葉を聞いてはたと気づく。魔法の『使い方』を記せるのは、その魔法が使える人だけだ。

 ミレナが見つけた魔導書を書くためには、多彩な魔法を使える実力か、幅広い人脈が必要だが、どちらも簡単に手に入るものではない。

 つまり、世界に一冊しかない魔導書かもしれない。



 ギルド長が声を震わせながら、身体を直角に折り曲げる。

「ミレナ、いや、ミレナ様! どうか数日だけでもこの魔導書をギルドに貸してもらえないでしょうか? 写本を作らせてください!」

 ギルド長だけでなく、魔法使いや窓口のお姉さんまでもが頭を下げて頼み込んだ。

「み、みなさん、顔を上げてください! 私こそ写本で構いませんから!」

「いや、この魔導書には国家を転覆させられるほどの危険な魔法も載っている。ギルドで保管すると、悪意を持った人物がこの魔導書を読んで、その魔法を使ったり漏らしたりするかもしれない。ギルドには危険度の低い魔法だけを書き写した写本を置いて、原本は信頼できる人に預けたいんだ」

 ギルド長がそう言うと、ミレナは顔を青くして首を振る。

 この男は、なんという物をミレナに持たせるんだ!

「そ、そんな恐ろしいものを任されても困ります!」

 彼女がこの反応を示すのは当然だ。国を転覆させ得る魔法が書かれた魔導書を、一介の冒険者が管理するというのはあまりに荷が重い。

 万が一奪われたり紛失したりしようものなら、死罪になるかもしれない。

 というか、そんな代物ならば国で管理すべきじゃないだろうか。



「話は聞かせてもらいました。その魔導書は我が家で管理いたしましょう」



 透き通った声が響き、この場にいた全員が振り返る。

 そこにはカティア様とグラシアさんが佇んでいた。

 互いに挨拶を交わした後、ギルド長が恐る恐る尋ねる。

「それで、フェルドリッジ伯爵家でこの魔導書をお預かりいただけるというのは……?」

「ええ。いくらミレナが信頼できる冒険者だとしても、個人で守るには限界があるでしょう。それなら、我が家で厳重に管理する方が安全だと思いませんか?」

 ギルド長は少しだけ考えてから首肯した。

「ギルドとしては、公開可能な魔法に関する写本さえ作らせていただければ、どなたが所有していても問題ありません。確かに、伯爵家で保管していただいた方が安全ですね」

 ミレナも首を縦に振ってギルド長の言葉に同意する。

 だが、グラシアさんだけは微妙な表情を浮かべていた。


「まずは王家に話を通すべきではありませんか? 国家を転覆させ得る魔法が載っているとして、そんな魔導書を無断で所有していた場合、我々が反乱を疑われる恐れがあります」

「もちろん話は通しますよ。ですが、使者が往復するのに1か月近くかかります。その間、魔導書をどこかで保管する必要がありますよね?」

「それは……そうですね」

「最終的な所有者がどうなるかはさておき、当面は我が家で保管するのが一番安全だと思うのですが、どうでしょう?」

 カティア様がそう言うと、グラシアさんは引き下がった。

「お嬢様がそこまでお考えなのでしたら問題ありません」

「決まりですね。それでは、写し終わるまでの間は冒険者ギルドにお預けしますので、終わり次第連絡してください」

「承知いたしました」

 ギルド長が恭しく頭を下げる。

 こうして、ミレナが持ち帰った魔導書は、フェルドリッジ伯爵家で保管することになった。

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