夢か現か
――チュンチュン。
小鳥のさえずりで目を覚ます。空は明るいので、もう朝になっているようだ。
……昨日は何があったんだっけ? 4人で森の奥にある屋敷を探索して、1階左奥の部屋で白骨を見つけたところまでは覚えているんだけど、そこから先の記憶が全く無い。
「そうだ、みんなは!?」
上半身を起こして周囲を見回すと、近くにミレナが転がっていた。
小さな寝息が聞こえてくるので、まだ眠っているみたいだ。
――ミレナは寝顔も可愛いな。ずっと見ていられる。
だけど、女性の寝顔をジロジロと見るものではないと思い直し、俺は立ち上がってモンスターに備えた。
しばらくすると、ミレナの方から衣擦れの音が聞こえてきた。
「あれ……? ここは?」
まだ声が間延びしているから、きっと眠いのだろう。
「おはよう、ミレナ。もう少し休む?」
「んー。だいじょうぶ……」
全く大丈夫ではなさそうだが、指摘したところでミレナの機嫌を損ねるだけだ。
俺は大人しく彼女が完全に覚醒するのを待つことにした。
「あれ? 屋敷は?」
ミレナの声が普段のものに戻った。ようやく頭が回り始めたようだ。
そして、ミレナも屋敷が無くなっていることに気づいたらしい。俺が起きたときにはすでに無くなっていて、昨日の出来事が夢だったんじゃないかと思ってしまう。
「ミレナは昨日のこと覚えてる?」
「昨日? ――っ!」
なぜかミレナの顔が真っ赤に染まり、身体ごと後ろを向いてしまった。……何があったんだ?
「ねえ、あなたはグレインだよね?」
「え? 俺はもちろんグレインだけど?」
ミレナが何を言っているのか分からないが、彼女は俺の返事を聞いて安堵の息を吐いていたので、意味のある質問だったのだろう。
本当に、あの屋敷で何があったんだ?
と、ミレナが見たことの無い本を脇に抱えていることに気づいた。
「ミレナ、その本はどうしたの?」
「えっ? ……あっ!」
ミレナも無意識で持っていたようで、両手で持ち直す。
本に意識が向いたからか、ミレナがこちらに身体を向ける。いつの間にか、頬の赤みも引いていた。
「昨日、あの屋敷の書斎で見つけたの。これがあるってことは、昨日の出来事は夢じゃなかったんだね」
そう言いながら、ミレナは中身を確認するように本をめくる。
その途中、栞と小さな紙が挟まっているページで止まった。
ミレナは優しい表情を浮かべ、小さな紙を指で撫でる。
「魔導書? そのページには何が書いてるの?」
「今の私には使う必要のない魔法……かな」
彼女はそう言ってほほ笑んだ。
ミレナと一緒に森の外に向かって歩く。
軽く森の中を探してもリリアとゼフレンが見つからなかったので、野営地に戻っているかもしれないと考えたのだ。
その道中、ミレナが屋敷でのことを教えてくれる。
「そうか。魔法使いの女の子が……」
「うん……」
それにしても、魅了魔法か。
「もしかして、俺も魅了魔法にかかっていたのか? それで記憶が無い、とか?」
「違う。でも教えてあげない」
ミレナは頬を染めて口を尖らせ、目をそらしてしまう。
……間違いない。俺、絶対にミレナに何かしたんだ!
だが、何をやらかしたのかが分からない以上、謝ることもできない。
機嫌を損ねている原因を理解せずに謝っても、ミレナは許してくれないのだ。
仕方がないので、後でリリアに聞いてみよう。情けない話だが、他に手が無い。
「あっ! ここを曲がれば出口じゃないか?」
「本当だ。この景色見覚えある」
昨日あれだけ迷ったのが嘘のように、あっさりと森の出口にたどり着いた。
俺たちは足早に森の外に出る。
「良かった。野営地も残ってる」
「行こう」
野営地に戻ってすぐ、朝食の用意をするリリアと出会った。
「二人ともどこに行ってたの? ……まさか、朝から!?」
「絶対に違う」
リリアが何を言っているのかは分からないが、違うということだけは分かった。
「でも……それ」
彼女は顔を赤くして俺の手元に視線を向ける。
俺もつられてそちらを見た。
「――っ!?」
俺とミレナが声にならない声をほぼ同時に漏らす。
気づかないうちに、俺はミレナと手をつないでいたのだ。
俺たちはどちらともなくパッと手を離し、一歩飛び退いた。
「……二人ともどうしたの? さっきからなんか変だよ?」
リリアが怪訝な顔でこちらを見た。
何だか会話がかみ合っていない気がする。いや、表面上のやりとりは合っているんだけど、もっと深いところでズレているというか。
「あれ? ミレナの持っている本は森の中で拾ったの?」
その一言を聞き、俺とミレナはパッと顔を見合わせる。
「ねえ、リリア。屋敷でのことを覚えてないの?」
ミレナが恐る恐る尋ねる。俺も全身が粟立っていた。
「屋敷? 何の話?」
ミレナが顔を青くする。俺も同じ顔色になっているに違いない。
「リ、リリア。冗談はやめて。昨日、森の奥にあった屋敷に入ったよね?」
「え? 昨日は森の入り口近くを軽く歩き回っただけだよね? 確か30分ぐらいで外に出たと思うんだけど……。っていうか、二人も一緒にいたじゃん!」
俺とミレナは言葉を失った。




