尾行
翌日。今日はカティア様も王城で用事があるらしいので、俺たち4人は夕方まで自由行動だ。
「今日はどうする?」
「私はちょっと予定が……」
「ふーん?」
リリアが怪訝な表情を浮かべ、チラリとこちらに視線を送る。……何で俺を見るんだ?
俺が首を傾げると、リリアは「あれ、違う?」と目を丸くした。
「じゃあ今日は各自思い思いに過ごすことにしよう。僕はちょっと剣を振ってくるよ」
「お兄ちゃん!?」
ゼフレンはそう言って飛び出していった。
リリアはゼフレンと過ごしたかったのだろう。頬を膨らませて不満そうだ。
「ええと……。私もそろそろ行くね?」
ミレナが申し訳なさそうに宿を出ていく。
残された俺は、まずリリアを宥めるのだった。
しばらくして、何とかリリアを落ち着かせることができた。
「リリアはどうするんだ? 出かけるなら付き合おうか?」
一人で街に出ると色々と大変なこともあるはずだから、荷物持ちでも男除けでも引き受けるつもりだ。
「ねえ、グレインはミレナが誰と出かけるのか気にならない?」
「えっ? 一人で街に行くんじゃないのか?」
「それにしては妙にソワソワしてた気がするんだよね。何かグレインのことを気にしてる感じだったから、てっきり二人でデートするものだと思ってたのに……」
「デ、デート!?」
心臓が早鐘を打ち、顔が急速に熱を帯びる。
リリアといい昨日のガルドといい、心臓に悪いことを言ってくるのはやめてほしい。
「まあ良いや。ミレナを追いかければ分かるよ!」
「おい!」
リリアに手を引かれ、俺はミレナの後を追うことになった。
ミレナの後ろを歩いていくうちに、王都で1番大きな通りに出た。
彼女は今、広場にある時計塔に向かって歩いている。
なぜそれが分かるのかというと、時計塔の前にガルドが立っているからだ。
「グレイン、落ち着いてね」
「大丈夫。俺は冷静だ」
フィルザードならまだしも、相手はガルドだ。
ガルドなら安心してミレナを任せられるとまで考えていた時期もあったのだ。
ミレナと二人っきりで会っているからと言って、そこまで心にダメージは、ダメージ……ぐはっ。
「グレイン! 気を確かに!」
「やっぱり見るのがつらい……」
「大丈夫! 詳しくは言えないけどきっと大丈夫だからね!」
リリアの言葉はほとんど入ってこなかったが、『大丈夫』というワードだけは頭に残った。
ミレナとガルドが並んで街を歩く。
二人とも楽しそうにしていて、その表情を見るだけで胸が締め付けられる。
目の前で手でもつながれた日には、おかしくなってしまいそうだ。
「うーん。やっぱりそうだよね……」
さっきからずっと、リリアが二人の様子を見て首を傾げている。
彼女の目には、ミレナたちはどんな関係に見えているのだろうか。怖くて聞く勇気が出ない。
その後、二人は服屋や雑貨屋を見て回り、俺たちは少し離れた場所からその様子を見守った。
「そろそろお昼だね。二人はどうするのかな?」
「うーん、夜景……は無理だから、景色の良い食堂かな?」
二人が景色の良い店で乾杯している様子が目に浮かんだ。
「考えすぎだと思うよ。……ほら!」
リリアの指さした先を見ると、ガルドが屋台で串焼きを2本買っている姿が見えた。
彼はそのうちの1本をミレナに手渡す。……あっ、二人の手が触れた――
「ぐわあああ」
「……あの反応、やっぱりそういう雰囲気じゃないよね」
リリアが何かを言っているが、彼女の言葉に耳を傾ける余裕は無い。
二人のもとに駆け寄りたい衝動を、必死に抑えるので精一杯だった。
ミレナたちは屋台で軽く食事をした後、いくつかの店を回る。
最初は防具屋で鎧を見て、次に武器屋で剣を眺め、それから雑貨屋で男性向けの装備品売り場を見て回り、最後に鍛冶屋に行って調理器具を吟味していた。
今は包丁を見比べながら話し込んでいる。
それぞれの違いをガルドが説明していて、ミレナは熱心に聴き入っていた。
「……あたしはさっきから何を見せられてるんだろう」
そんな二人と俺を交互に見て、リリアが遠い目をする。
俺も途中から少しずつ冷静に二人の様子を見られるようになっていた。
「あの二人、デート中のカップルと言うより買い物に来た兄妹みたいだな」
何か浮ついた雰囲気が無いというか。
まあ、ガルドとミレナは付き合っているわけではないし、そもそもガルドには許嫁がいる。
浮ついた雰囲気があったらマズいのだが……。
しばらくすると、ミレナたちは鍛冶屋の外に出てきた。
「時間的にそろそろ解散かな? あたしたちも王城に向かわないといけないね」
「だな。今日はありがとう」
「どういたしま――あっ」
リリアが途中で話を止め、表情が凍り付いていく。
どうしたのかと彼女の視線の先を見ると、ミレナと目が合った。……ヤバい、怒ってる。
俺たちはミレナが近づいてくる間、金縛りにあったように動くことができなかった。
「リリア、これはどういうこと?」
「ミレナ落ち着いて。リリアは悪くないんだ。俺が――」
「グレインは黙ってて」
「はい」
ミレナにぴしりと一喝され、何も言えなくなってしまう。ごめん、リリア。
リリアは意外と落ち着いていて、慌てることなく弁明する。
「ごめん。ミレナがどこに行くのかが気になって、後をつけてきちゃった」
そう言ってリリアは頭を下げる。
ミレナが「そうなの?」とこちらを見てきたので、俺も頭を下げる。
「本当にごめん! でも、リリアを連れ出したのは俺なんだ。だから、リリアだけは許してあげてほしい」
「良いよ。別に怒っていないから」
恐る恐る顔を上げてミレナの表情を見たが、確かに怒りの感情は消えていた。
……どこか安堵しているような気もするが、気のせいだろうか。
「ふぅーん。ミレナは何と勘違いして怒ってたのかな?」
リリアがニヤニヤと笑いながらミレナに抱き着く。
「べ、別に……。そんなのじゃないから」
ミレナが追及を逃れようともがくが、リリアは離さない。
そんな二人の様子を見て和んでいると、隣にガルドがやってきた。
「ミレナ、良い表情をしてるじゃねえか」
「はい。リリアのおかげです」
「二人が出会ったのはお前のおかげだろ? だったら実質お前の手柄だよ。……ミレナを頼むぜ。絶対に幸せにしてやれよ」
「わかりました」
俺とガルドは握手を交わした。




