旧交を温める
翌日。
フェルドリッジ伯爵は、しばらく王都に滞在することになった。
俺たちは伯爵の用事が済むまで王都で待つことになり、その間は都市の外に出なければ自由に過ごしても良いことになっている。
ただ、今日はとある任務を与えられていた。それは――
「どこに行く? 王都に来るのは久しぶりだから楽しみ!」
「お嬢様、はしたないですよ。他の方の目もありますから……」
そう、カティア様の護衛である。
王都は治安の良い街なので、実際にはカティア様の荷物持ちのようなものだ。……恐れ多くも友達みたいだな。
しかし、こうしてはしゃいでいる姿を見ると、カティア様も年頃の女の子だと実感する。
普段しっかりしているから忘れがちだが、彼女は俺たちより2歳年下なんだよな。
女性陣が服屋で互いを着せ替え人形にしている。
俺とゼフレンはその様子を少し離れたところから見守っていた。
「何というか……女性の買い物はすごいね」
「ミレナとリリアは昨日もこの店に来ているのになぁ……」
二人で遠い目をして女性陣を見つめる。
4人ともキラキラとした良い笑顔をしているので、こんな時間も悪くないと思った。
夕方になり、カティア様たちと一度宿に戻る。
俺は少しだけ時間を潰してから、宿を出た。
「グレイン」
街の方をぼんやりと眺めていると、後ろからミレナに名前を呼ばれる。
「大丈夫そう?」
「うん。ありがとう」
今日は俺たちとガルドの3人だけの予定であり、あの居酒屋とも違う店だ。
それでも『王都の居酒屋』であることには変わりないので、ミレナには無理をしなくても良いと伝えていた。
だが、ミレナが行けると判断したならその意思を尊重しよう。
俺たちはガルドと待ち合わせをした居酒屋に到着する。
「おう! こっちだ!」
ガルドはすでに到着していたので、俺たちは彼の対面に並んで座る。
「おっ? グレインがちょっと逞しくなった気がするぞ」
「そうですかね?」
ガルドに褒められると、ちょっと照れ臭い気持ちになる。
俺の隣ではミレナが何度もうなずいていて、さらに顔が熱を持つ。
「ミレナも元気そうで良かった。また会えて嬉しいぜ」
「私もです。あの時は王都に戻る日がくるとは思っていませんでしたから……」
王都を出たころのミレナは失意のどん底にいて、冒険者をやめることも考えていたからなぁ……。本当に、よく復活してくれたと思う。
しばらく飲食を続けていると、途中でミレナが席を立った。
ガルドはミレナの姿が見えなくなると、目尻を下げる。
「ミレナを助けてくれて本当にありがとな。お前が居なかったら、ミレナは一生モノの傷を抱えたまま生きていたかもしれない」
「いえ、ミレナは強い女の子です。きっと彼女一人でも立ち直ったと思いますよ。俺の方こそ、パーティを抜けるのを許してもらえて感謝しています」
互いに感謝を伝えあったあと、顔を見合わせて笑う。
「それにしても、ミレナの適性が水属性の攻撃魔法にあったとは。俺たちに見る目が無かったばかりに……」
「レオディスのパーティにはカナリスが居るから仕方ないですよ。そういえば、二人は元気にしていますか?」
レオディスの話題はミレナが居ると出しづらかったので、彼女が席を外しているうちに近況を訊くことにした。
「二人とも元気だぞ。関係は相変わらずだが……」
ガルドが遠い目をする。どうやら、カナリスの恋は進展していない様子だ。
本当に早く結ばれてほしい。でないとカナリスが不憫すぎて……。
「俺たちが抜けてから、誰かメンバーを加えたんですか?」
「出入りはあったが、みんな長続きしなくてな……。仕方がないから今は3人で活動してるんだ。今思うと、惜しい人材を失ったぜ」
おどけた調子の言葉には、本音が混じっているように思えた。
「それにしても、二人はずいぶんと仲良くなったな。もう付き合ってるのか?」
ガルドがミレナの座っていた席を見ながら尋ねてくる。
その瞬間、かあっと顔が熱くなるのを感じた。
「――っ! 付き合っていませんよ!」
「……マジで? 絶対付き合ってると思ってたぞ」
ガルドが目を丸くして驚いている。
説明しようと口を開きかけたとき、ミレナが席に戻ってきた。
「何の話をしていたんですか?」
「ああ、お前たちのパーティの話だよ。良い仲間に出会えたんだってな」
ガルドが俺に目配せしてくる。助かった……。
「そうなんです! リリアは凄く可愛い女の子で――」
ミレナは仲間を褒められたのが嬉しかったようで、リリアたちの良いところを熱く語り始めた。ガルドもニコニコとミレナの話を聴く。
その後も、終始和やかな時間が流れていった。
「今日は楽しかったよ。またな!」
「ごちそうさまでした!」
俺たちはガルドに挨拶すると、宿に向かって歩きだす。
少し進んだところで、ミレナが「あっ!」と芝居がかった声を上げた。
「ごめん、忘れ物しちゃった。先に宿に戻ってて」
「付いていくよ?」
「いいから!」
ミレナはそう言って、居酒屋に向かって走っていった。
追いかけようかと迷ったが、一度断られているからなぁ……。
結局、間を取ってここで待つことにした。
しばらくして、ミレナが戻ってきた。
「あれ? 待っていてくれたんだ」
「王都は治安が良いところだけど、それでも夜に女の子が一人で歩くのは良くないからね」
「……ありがとう」
その後、俺たちは並んで宿に帰った。




