感謝のお茶会
ザント団を討伐し、レイヴェルクに戻ってから数日経った。
昨日までしっかりと休んで英気を養った俺たちは、クエストを受けるために冒険者ギルドに集まっていた。
「ここに来るのも久しぶりだな……」
「しばらく街の外に居たもんね」
俺がしみじみとつぶやくと、ミレナもそれに同意した。
4人で今日の方針を確認していると、グラシアさんがやってきた。
「みなさん、おはようございます」
「グラシアさん! おはようございます! ……あれ? カティア様は一緒じゃないんですね」
リリアのテンションが急上昇したが、カティア様が居ないことに気付くと少しだけトーンダウンする。
そんなリリアの様子を見て、グラシアさんがくすくすと笑った。
「お嬢様より、みなさんを屋敷へお連れするように申し付かっております。ぜひ先日のお礼がしたい、と」
俺たちは「よろこんで」と即答すると、グラシアさんとともにフェルドリッジ伯爵家の別邸に移動した。
屋敷に到着した俺たちは、そのまま中庭に案内される。
そこには色鮮やかな花が植えられていて、見ているだけで楽しめる空間になっていた。
「ようこそ。来てくれてありがとう!」
カティア様が俺たちに満面の笑みを向けてくる。周囲の綺麗な花たちが霞むほどの笑顔だった。
「こ、こちらこそお招きいただきありがとうございます!」
リリアの声が上擦っている。ちらりと横顔を見ると真っ赤になっているので、彼女もカティア様の笑顔にやられたみたいだ。
全員が席に着くと、お茶とお菓子が運ばれてくる。
使用人は丁寧な所作で全員分のお茶を淹れると、最後に一礼して立ち去って行った。
「さっそくだけど、先日は助けてくれてありがとう。みんなのおかげでわたくしもグラシアも命拾いしたわ」
カティア様だけでなく、グラシアさんも頭を下げる。
「お二人とも、頭を上げてください! 俺たちは当然のことをしただけです」
「そうですよ! カティア様が頼ってくれて、あたし、すっごく嬉しかったんですよ!」
俺たちに同意するように、ミレナとゼフレンもうなずく。
「……わたくしは幸せ者ですね」
カティア様がポツリと漏らした。
はじめは和やかに始まったお茶会だったが、徐々に話題は真面目な内容に移っていった。
「それで、レイヴェルクの領主はどうなったんですか?」
ザント団のボスは恐らく焼死したが、領主は俺が気絶させて身柄を拘束したのだ。
「洗いざらい情報を吐かせたわ。まあ、ザント団が壊滅した以上、黙秘しても意味が無いことはあの男でも理解できたみたいね。彼の処遇については王家からの沙汰待ちよ」
ザント団に内通していたとはいえ、一応は大都市の領主だ。
彼を裁けるのは国王陛下だけということになるのだろう。
「さすがにお咎め無しにはならないですよね?」
万一そんなことになれば、カティア様や冒険者たちがどんな報復を受けるか分からないが……。
「まあ、間違いなく死罪でしょうね。王家に対して反旗を翻そうとしたのだから当然ね」
カティア様は温度のない表情で淡々と告げた。
「そうなると、レイヴェルクの領主が代わるんですね」
「あ、そっか」
ゼフレンの言葉に、リリアが目を丸くする。
言われてみれば当然のことだが、俺もそこまで考えが至っていなかった。
「後任は誰かしら。まともな人なら良いのだけど……」
「案外、フェルドリッジ伯爵だったりして!」
「リリアは見る目があるわね。レイヴェルクの人間を昇格させるなら、お父様が本命よ。まあ爵位を考えると微妙だけど……」
「爵位……ですか?」
伯爵だとダメなんだろうか。
「レイヴェルクの領主は、代々侯爵以上の貴族が就任してきたの。ちなみに、今の領主も侯爵よ」
知らなかった。というより、領主の名前すら知らないんだよな……。
言い訳をさせてもらうと、俺のように領主や貴族の名前を憶えていない冒険者は珍しくない。
もちろん、一度依頼を受けた相手を忘れることは無いが、それまでは案外気にならないものだ。
「そっか。フェルドリッジ伯爵が領主になったら、カティア様が次期領主になると思ったんだけどな……」
「わたくしに領主は似合わないわ。冒険に出る方が性に合っているもの」
「……あまり周囲の人を心配させないでくださいね」
俺がそう言うと、グラシアさんが何度も首を縦に振った。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
気が付けば夕方になっていて、そろそろ帰らなければならない時間だ。
だが、名残惜しさからか、誰も時間について触れようとしない。
その微妙な雰囲気を壊したのは、カティア様の父親である、フェルドリッジ伯爵だった。
「カティア! 明日の朝から王都に出発するから、カティアも用意、を……?」
どうやら伯爵は俺たちが来ていることを知らなかったようだ。
しばらくきょとんとしていたが、全員の注目を集めていることに気付いて「こほん」とひとつ咳払いした。
「ちょうど良い。そなたたちに護衛を依頼しよう」
「護衛……ですか?」
「ああ。ザント団の討伐を報告するために、私とカティアは王都に行かなければならない。そこで、そなたたちに我々の護衛を依頼したい」
ちらりと仲間を見ると、全員乗り気のようだった。
「その依頼、喜んでお受けいたします。出立は明日、ですか?」
「うむ。明日の朝一番で冒険者ギルドに依頼を出しておくから、そなたたちはギルドに寄ってから東門に来てほしい」
「承知いたしました」
こうして、俺たちはカティア様たちを護衛して王都に向かうことになった。




