ザント団との最終決戦
どれだけの時間戦い続けただろうか。
男は何度か仲間を呼び、そのたびに敵は増え続けた。
こうなると攻勢に出ることはできないので、俺は時間稼ぎに専念する。
「はあっ、はあっ。くそっ! 何で倒せねえんだ!?」
周囲にいるザント団員たちは、全員が苛立っている様子だ。おかげで奴らの攻撃が単調になって予測しやすいので、俺としては助かる。
敵を倒すことは出来ないが、必死に耐え続けた。
「グレイン、よく耐えた!」
突然、背後から名前を呼ばれる。驚いて後ろを向くと、ゼフレンたちが応援に来てくれていた。
「他の敵は?」
「グレインの前にいる奴ら以外は、ほぼ片付いた」
軽く周囲を見回すと、フィルザードとその仲間たちが数人を相手取っているが、他の敵はみな倒れ伏していた。
「アンタがコイツを先に倒そうなんて言うから――」
「し、仕方ねえだろ!? 一番弱そうな奴だし、あと一歩で倒せると思ったんだ!」
ザント団員たちが目の前で仲間割れを始める。さっきまでの余裕は完全に無くなっていた。
「よそ見をしている場合か!」
ゼフレンがすぐ近くにいる男に斬りかかる。
男は口論に気を取られて攻撃への対応が遅れ、あっという間に倒れた。
味方の増援がやってきたことで、形勢が逆転した。
俺はゼフレンやミレナたちと連携して敵を倒していく。
目の前にいた敵を倒し終わると、立っているのはザント団のボスだけになっていた。
「バ、バカな!」
「確かにあなたの親衛隊は強かったですよ。わたくしの仲間たちの次ぐらいには、ね」
「お、おのれ! こうなったらお前たちも道連れにしてやる!」
ボスはそう言うと、空洞の隅に向かって走り出した。
グラシアさんやミレナが慌てて魔法を放つが外れてしまう。
「ふはははは! これでお前らも生き埋めにしてやる!」
ボスはそう叫ぶと、部屋の隅に有った篝火を倒す。
すると、炎が一瞬で周囲に燃え広がった。
「火が!」
ボスの衣服に火が燃え移り、彼は一瞬のうちに炎に包まれる。そうなっても悲鳴すら上げずに笑い続けている姿に、恐怖すら感じてしまう。
「奴はもう駄目ね。急いで脱出するわよ! 幸い燃えているのは一部だけ。入り口側は無事よ!」
カティア様がそう言った瞬間、ボスの周辺で大きな破裂音が響き渡った。それに伴って周囲が大きく揺れる。
「何だ!? まさか爆薬か!?」
「すぐに外へ!」
俺たちは慌てて外に向かって走り出す。
その間も洞窟の奥から爆発と崩落の音が断続的に聞こえてきて、生きた心地がしなかった。
「見ろ! 光だ!」
前方を走る誰かが叫ぶ。俺たちは足をもつれさせながらも洞窟の外へ脱出した。
「みなさん無事ですか!?」
カティア様が息を切らしながら尋ねてくる。
周囲を見回すと、洞窟の奥に向かった冒険者は全員揃っていた。
俺たちが洞窟内にいるうちに制圧したのか、周囲に敵の姿は無い。
「はあぁ……。死ぬかと思った……」
へなへなとその場に座り込む。さすがに疲れた。
「グレイン、お疲れさま」
声の方に顔を向けると、ミレナが柔らかな笑顔でこちらをのぞき込んでいた。
彼女はそのまま俺の隣に腰を下ろす。
「ミレナもお疲れさま。今回は大変だったね。命が何個あっても足りないよ……」
「でも、今日のグレインもカッコ良かったよ。たまには軽い鎧も良いんじゃない?」
ミレナが口にした、『カッコ良かった』という言葉が脳内で何度もリピートされる。
他意が無いのは分かっていても、顔全体が熱くなる。
「……ち、違うの! 普段の鎧が悪いって意味じゃなくて、どっちもカッコ良くて――」
「ふふっ」
ミレナの慌てている姿が面白くて、つい笑ってしまう。
彼女は俺が笑ったのを見て一瞬だけ唇を尖らせたが、すぐにつられて笑い出した。
「あっ! 見て!」
「……日の出だ!」
気が付くと夜が明けてきた。
洞窟の外に出てきてからそんなに時間が経っていないので、中にいる時間が長かったということだろう。
「ねえ、ミレナ?」
少し声を抑えて名前を呼ぶと、ミレナは小さく首をかしげた。
――ミレナは俺にとって世界一の魔法使いだ。
そう言おうとして、やっぱり止める。ミレナが夢を叶えるまで隣に居るって決めたから。
贅沢にも、もっと彼女の物語を隣で見続けたいと思った。
「ごめん。呼んだだけ」
「何それ?」
ミレナはそう言ってクスクスと笑った。
その笑顔が輝いていたのは、朝日のせいではないだろう。
10日後、俺たちはレイヴェルクに凱旋した。
あの後、数日かけてザント団の本拠地を調べ、残党が潜んでいないか、他にも拠点が無いかを確認した。
洞窟は途中で天井が崩落してしまい、最奥部まで行くことはできなかった。
そのため、ザント団のボスの死亡を確認することは出来なかったが、状況から考えて死んでいるだろうと結論付けた。
レイヴェルクに入ってすぐ、城門の前で冒険者たちが整列する。
「冒険者のみなさん、今回はご苦労様でした。報酬については冒険者ギルドを通してお支払いしますので、しばらくお待ちください」
カティア様が俺たちにそう声を掛け、部隊は解散となった。
「じゃあ、二日間休みということで。また三日後」
俺たちは休養明けの再会を約束し、帰路に就く。
街ではいつもと変わらない日常が流れていた。




