最奥部へ
領主を倒した俺たちは、西門を突破してきたフィルザードたちと合流して洞窟の奥へ進む。
「それにしても、キミたちが無事で良かったよ」
「フィルザードもな。思ったより早かったな?」
「内側から西門の守備兵を倒してくれる魔法使いが居たからね。ずいぶん助かったよ」
フィルザードはそう言うと、グラシアさんを見る。
彼女は攻撃の外しを装って西門に魔法を放っていた。
敵はグラシアさんの狙いに気付いていなかったようで、それを妨害してきたり、西門の守備兵を補充したりする様子もなかった。
おそらく、ボスが洞窟に入ったことで俯瞰的に戦況を見ることができる指揮官が居なくなったのだろう。
洞窟は基本的に一本道だったが、途中で二手に分岐していた。
「方角からして、右の道は北、左の道は西に向かっているな」
「よく分かるね。一本道だったとはいえ、ここに来るまで何度も曲がったというのに……」
フィルザードたちが驚きで目を丸くしている。
「グレインは昔からこういうのが得意だったから」
「ミレナ、嬉しそうだね?」
顔を赤くしたミレナが、リリアに痛くなさそうなパンチを繰り出している。
「じゃあ、右に向かいましょうか。ボスの部屋は最奥部にあると相場が決まっていますので」
俺たちはカティア様の言葉に従い、右側の道を選んだ。
しばらく進むと、目の前に木の扉が現れた。
扉を破ると、そこは大きな部屋――というより空洞になっていた。
「洞窟の奥にこんな空間があるなんて……」
「気をつけろ、敵がいるぞ。それも大量に」
俺たちを囲むようにザント団員が整列していて、鋭い視線と殺気を向けてきていた。
「よくぞここまでたどり着いた。歓迎するぞ」
ボスは奥に佇み、その前を多くのザント団員たちが固めている。
こちらもフィルザードたちが加わって10人ほどになっているが、数の上では不利だ。
「ずいぶん余裕ですね。先ほど包囲を突破されたことを忘れましたか?」
「ククク。こいつらは団員の中から選抜した精鋭たちだ。さっきまでの奴らと一緒にしてもらっては困る」
「こちらも頼りになる味方が増えているのですが……。まあ良いでしょう」
カティア様が右手をあげ、俺たちに攻撃の指示を出そうとする。だが、ボスがそれを制した。
「まあ待て。まずは儂の話を聴かないか? もしかすると、ザント団に入団したくなるかもしれんぞ?」
「……良いでしょう。口が無くなる前に喋ってください」
カティア様の言葉に、ザント団のボスは「ククク」と笑った。
「最初に問おう。ここにいるザント団員たちはどうやって集めたのだと思う?」
「……あなた方がどこかから攫ってきたのではありませんか?」
「残念、ハズレだ。彼らを含め、ザント団員は全員が自らの意思で入団を決めた者たちだ」
「そんな! ありえません!」
「この期に及んでも、一糸乱れずにこの場に立っていることが一番の証拠だと思うが?」
「くっ!」
カティア様が悔しそうに唇をかむ。
そんな彼女に代わり、今度はフィルザードが口を開いた。
「じゃあ、彼らはザント団のどこに惹かれて入団したと言うんだい?」
「入団の理由までは知らぬが、団員の共通点は一つ。彼らは全員、今の王国に不満を持っているのだ」
「王国に不満……か。それで、キミたちはどうやってその不満を解決するつもりだったのかな?」
「儂らはレイヴェルクを中心とした独立国家を興すことで、不満を持った民たちを王国から解放しようとしていたのだ」
「民たちが住む村を襲っていたのはどういう事だい?」
「ザント団は腐敗した体制の打倒という、崇高な思想の下活動しておる。儂らの思想を理解できない愚民など、知ったことではない」
カッと頭に血が上る。気が付くと、痛くなるほど強く手を握りしめていた。
今度はカティア様がボスに向かって言葉を放つ。
「お話になりませんね。王国の政治に不満を持つのは構いませんが、暴力に頼らず、正規の手順によって正されるべきです」
「フン、綺麗事だな。だいたい、正規の手順というのは何だ? この国は国王の気持ち一つで全てが決まる国だぞ?」
「王国というのはそういうものでしょう。国王が愚鈍であればどうしようもありませんが、今の国王陛下はそうではありません。貴族たちの悪行を知れば、すぐに手を打ってくれる御方です」
……カティア様は国王陛下と知り合いなのだろうか。
だが、二人の考えは相容れなかったようで、ボスが『やれやれ』というようにため息を吐いた。
「やはり、持つ者に持たざる者の気持ちは分からんか。……お前たち! 侵入者を一人残らず討ち取れ!」
その一言で、団員たちが一斉に殺気を放つ。俺たちも武器を構えた。
「くらえっ!」
敵の攻撃を間一髪のところで回避し、反撃を叩きこむ。
だが、敵は俺の一撃を剣で防ぐと、後ろに飛び退いて距離を取った。
「くっ……」
ボスの言葉通り、外や洞窟の入り口で戦った相手とは段違いの強さだ。
ゼフレンやフィルザードほどの強さではないが、それでも俺が仕留めきれない相手だった。
「おい! お前らもこっちを手伝え!」
俺と戦っていた男が仲間を呼ぶ。
「えっ? ですが、他が手薄になりますよ?」
「こいつを秒でやっつければ良いだけだ!」
結局、数人のザント団員が応援に駆け付けた。
「……マジかよ」
ただでさえ厄介な相手なのに、増援までやってくるとは……。
「へっへっへ。これでお前も終わりだな」
男が余裕の笑みを浮かべる。
こうなった以上は仕方ない。味方のために少しでも時間を稼ごう。




