ザント団の本拠地
俺たちは先日の戦いでザント団の拠点を攻略し、ザント団に関する重要な資料を多数手に入れた。
その後、充実感と達成感に浸りながらレイヴェルクに帰還した。
あれから数日。ギルドでは様々な噂が広まっていた。
「聞いたか? ザント団の本拠地の場所が分かったらしいぞ。街道の南側らしい」
「マジかよ! すぐに出撃するのかな?」
噂話の中には、一般には公表していないはずの内容も含まれている。
特に、本拠地の情報は、あの建物を調べた数人と一部の貴族しか知らないはずだ。
やはり、どこかから情報が漏れているのは間違いない。
ギルドの片隅でミレナと小声で話す。
「……グレインはどこから情報が漏れていると思う?」
「……分からない。可能性があるのは、あの場に居た俺、ミレナ、カティア様にグラシアさん、それから兵士が数人だね。あとはカティア様から報告を受けた貴族たちだ」
敵の本拠地の情報を知っていそうな人物をリストアップしてみる。
意図的かどうかはさておき、この中に情報を漏らした人間がいるのは間違いない。
「前にも漏れていたことがあったよね?」
「村長の時だね」
以前、カティア様たちとともにザント団に襲われた村を調査して回った。
その村の一つは、村長とザント団が裏で繋がっていて、俺たちはひと悶着の末に村長を捕らえたのだ。
あの時も村長が白状した情報が漏れたのだった。
「前回と今回、両方とも現場に居たのは私とグレイン、カティア様、グラシアさんの4人だけだね」
「嫌な状況だなぁ……」
はたから見ると、この4人の中に犯人がいるようにしか見えない。
どうしても疑いの目を向けられるだろうから、不用意な行動をしないように気を付けないと。
数日後、俺たちはザント団の本拠地の前に到着した。
目の前あるのはまさに要塞で、今まで攻略してきた拠点とは規模が全く異なる。
壁は石造りになっていて、3階建ての建物ぐらいの高さだ。
「本拠地というだけあって簡単には攻略できなさそうだね」
ミレナの言うとおり、これまでとは違って一日で攻略するのは不可能だろう。長期戦になる可能性すらある。
「でも、今回は魔法攻撃を解禁するらしいよ」
今までは本拠地に関する情報を得るため、敵拠点に向けて魔法を使用することを禁止されていた。
これは領主からの指示だったが、現場の判断で資料を守るための魔法使用は例外的に認められていた。建物火災の消火や、ミレナが放火を阻止したのはこれによるものだ。
「本拠地の場所さえ分かってしまえば、後は賊を倒すだけだもんね」
もちろん相手も魔法に備えてくるはずだが、それでもミレナたちが攻撃に参加できるのは大きい。
心なしか、ミレナはいつもに増して気合が入っているように見えた。
「今回の総大将はカティア様じゃないんだよね。大丈夫かなぁ?」
リリアが心配そうにつぶやく。
今回はレイヴェルクの領主が全体の指揮を執り、カティア様は冒険者部隊の指揮官を任されることになった。
ザント団の本拠地ということで領主が出てきたのだと思うが、采配の腕はどうなんだろうか。
正直、冒険者からの好感度はカティア様の方が高い。
それに、カティア様は前回の戦いで間道からの奇襲を見破ったり、ミレナを派遣して資料が燃やされるのを阻止したりと指揮官としての才能は申し分ない。
個人的にはカティア様が総大将で良かったと思うんだけどなあ……。
念のため身体を軽く動かしながら待っていると、領主たちとの軍議を終えたカティア様がやってきた。隣にはグラシアさんの姿もある。
冒険者たちが自然とカティア様の声が聞こえる範囲に集まってきた。
「わたくしたちは西門の正面に陣を構えることになりました。冒険者隊は西へ移動します!」
陣を分けるのは初めてのことなので、冒険者たちがざわめく。
正面から西門前に移動するだけでも時間と体力を使うので、戦闘の期間が長くなるほど陣を分ける意味が出てくる。逆に言うと、一日で終わる戦闘ならば陣を分ける効果は薄い。
領主たちもこの戦闘が長引く可能性が高いと考えているのだろう。
俺たちは西に移動し、開けた場所に防柵を築く。
初めのうちは馴染みがなく、防柵なんて無くても大丈夫じゃないかと思っていた。しかし、ザント団との戦いを通じて防柵のありがたさが身に染みて分かった。
特に、睡眠の質が上がったように感じる。
ザント団との戦いが落ち着いたら冒険に戻るわけだが、最初のうちは苦労しそうだ。
「横から見ても大きいなぁ……」
「西門にも大量の敵が配置されていそうだね」
「あの辺りから攻撃してくるのかなぁ。西門にたどり着くまでに結構被害が出そうだね」
リリアとゼフレンがザント団の拠点を眺めながらつぶやいている。
西門にも正門と同じように見張り台と櫓が備わっている。そこから矢や魔法で攻撃されるだけでも、それなりの被害が出そうだ。
これまでの拠点とは異なり、上から飛んでくる攻撃にも注意しないといけない。
しばらく敵の本拠地を観察して気付いた点を話し合った後、俺たちは翌日に備えて身体を休めるのだった。




