リベンジ
カティア様が立てた作戦に従い、俺たちは森の中にある間道を移動する。
誰も何も話さず、ただ冒険者たちの緊張した足音だけが響いていた。
「ん? みんな、止まってくれ」
突然、フィルザードが冒険者たちに足を止めるようにとの指示を出す。
俺は声が出そうになるのを堪え、隣の者と顔を見合わせた。その時。
「――っ!?」
大量の殺気を感じ、思わず身構える。
それと同時にフィルザードが冒険者たちに命令した。
「敵だ。みんな、構えろ!」
思いがけず敵と遭遇したことで動揺したが、それは相手も同じだったようだ。
冒険者たちの方が森の中での戦い方を熟知していることもあり、戦況は徐々に味方優位に傾いていった。
俺も周囲の冒険者たちと協力しながら敵を倒していく。
「ちくしょう! お前たち、アジトまで撤退するぞ!」
ザント団の指揮官が撤退の指示を出したことで、敵は逃走し始めた。
「フェルドリッジ伯爵令嬢はこの展開を読んでいたのか……?」
近くにいた誰かがポツリとこぼす。
確かに、カティア様ならあり得るかもしれない。
「逃がすな! 追撃だ!」
フィルザードが敵を斬り伏せながら、冒険者たちに号令をかける。
それを聞いた俺は頭を切り替え、拠点へ逃げていく敵を倒すことに集中する。
勢いに乗った冒険者隊は、逃げ惑うザント団を倒しながら東門に迫っていった。
俺たちが東門の前にたどり着くと、既に拠点は交戦状態になっていた。
どうやら、正規兵が正門を攻撃していて、敵はその対応に追われているようだ。
「味方の奮闘で東門は手薄だ。一気に突入するぞ!」
フィルザードの指示に「おお!」と応じると、東門に向かって駆けていく。
東門は森で遭遇した部隊の生き残りが固めていたが、準備が整っていないのか盗賊たちが右往左往していた。
東門での戦いはあっけなく終わった。
冒険者が数と勢いで盗賊たちを圧倒し、あっという間に門をこじ開けたのだ。
俺たちは雪崩を打って拠点に突入する。
冒険者たちが入ってきたことで、拠点内の敵は大混乱に陥っていた。
「はあっ!」
「ぎゃっ!」
逃げ惑う敵は追わずに向かってくる相手だけを斬り伏せながら、単身で拠点の中央を目指す。
俺の予想が正しければ、そこに重要な資料があるはずだ。
「はあっ、はあっ。着いた……」
俺は拠点中央にある建物の前にやって来た。近くには誰も居ないのか、遠くから喧騒が聞こえてくるだけだ。
目の前の建物は周囲のものよりも一回り大きく、この建物が拠点の中枢であるのは間違いなさそうだ。
そのとき、正門の方向から「わあっ!」と歓声があがる。どうやら、正規兵も門を突破したようだ。
歓声に驚いたせいで、建物に入って行こうとした足が一瞬止まる。
「ん?」
その時、視界の端で何かが動いた気がした。
とっさにそちらを向くと、そこには一人のザント団員が居た。彼はその手に松明を持っている。
「おい! 何をするつもりだ!」
俺に見つかったことで男は一瞬たじろいだが、すぐに強気な表情を見せる。
「この中の情報を漏らすわけにはいかないからな! 全部灰になってもらうぜ!」
「待て! やめろ!」
男は建物に火をつけようとしたが、途中で動きを止めた。そのまま不敵な笑みを浮かべる。
「良いことを思いついた。お前、建物の中に入れてやるよ」
サッと血の気が引いていく。こいつ、俺を焼き殺すつもりだ!
どうする、情報の入手は諦めるか?
そんなことを考えていると、男はさらに邪悪な笑みを浮かべた。
「言うことを聞いた方が良いと思うぜ。中には拠点が吹き飛ぶ量の爆薬を仕込んでいる」
「なっ――!」
「お前が中で頑張れば、爆発は避けられるかもしれないな」
男の言葉が本当かどうかは分からないが、ここは素直に従うしかなかった。
俺は命令されたとおり両手を上げて建物に入る。
中央にある机の上には書類が置かれていて、壁を見ると一面がぬらぬらと光っていた。臭いからして、壁に油を塗っているようだ。
さらに、壁に沿って壺がぐるりと並べられていた。男の言葉が正しければ、壺の中に爆薬が入っているのだろう。だが、壺が小さく見えるのは気のせいだろうか。
「……この拠点を吹き飛ばすには少なく見えるが?」
「さあな? ここで燃え尽きるお前には関係のない話だ」
それはそうだ。
だが、不謹慎にも本陣まで被害が及ばなくて良かったと思ってしまった。
「じゃあな。間抜けな冒険者さん」
男は勝ち誇った表情で、一歩一歩後ずさっていく。
背を向けた瞬間に斬りかかろうと構えるが、男は決して俺から目を離さない。素晴らしい警戒心だ。
――俺だけを警戒したのが、お前の敗因だ!
そう思ったとたん、遠くで水の玉が発射された。
それは吸い込まれるように男が持つ松明に命中し、松明の火が消える。
「なにっ!?」
男の気が逸れた瞬間、俺は男に向かって突進する。
そして、男が武器を構える前に、一撃で斬り捨てた。
「グレイン! 大丈夫!?」
「ありがとう、助かったよ。でも、ミレナがどうしてここに?」
ミレナは今日も本陣の守備を任されていたはずだ。
「カティア様の命令で来たの。前のように敵が拠点に火を放つかもしれないから、水魔法を使える人は全員拠点に向かえ、って」
なるほど。さすがはカティア様だ。
「それに、よく俺の場所が分かったね?」
「なんとなく、グレインがここに居る気がしたんだ。グレインはいつも危ない場所に飛び込んで行っちゃうから。……心配するこっちの身にもなってよね?」
心臓が早鐘を打ち、俺は何も言えなかった。
その後、建物を捜索したところ、数多くの資料を発見した。




