再出撃
ミレナ、フルザードと共に殿を務めた撤退戦からしばらく経った。
あの後、俺たちは本隊と合流し、一度レイヴェルクに戻った。
冒険者と兵士は移動中ずっと反目し合っていて、最悪の空気だったのは忘れられない。
街に戻った俺たちは数日間の休養を挟み、今日、再び拠点攻略に向けて出発する。
貴族たちは先日の一件を重く見たようで、指揮官は即座に更迭され、今度は兵士と冒険者の双方をまとめられる人物が指揮官となった。その人物というのが――
「みなさま、この度ザント団討伐の指揮を執ることとなりました、カティア・グラントールでございます。領民のため、どうかみなさんのお力をわたくしに貸してください」
出陣にあたり、カティア様が兵士と冒険者の前で一言挨拶すると、「うおおおぉ」という歓声が響き渡る。
男たちの野太い声だけでなく黄色い声も聞こえてきたので、カティア様は男女問わず人気があるようだ。
「なるほど。お嬢様が指揮官に抜擢されたときは何事かと思いましたが、これが狙いだったのですね」
グラシアさんが感心したような顔をしている。
兵士と冒険者、両方の手綱を握れるのはカティア様だけだろう。
彼女にはそう思わせるほどのカリスマ性がある。
「フェルドリッジ伯爵令嬢は冒険者としても活動しているので、冒険者からの人気が凄まじいですからね。俺としては、カティア様が危険なことをしないかどうか不安ですが……」
他のみんなもカティア様の性格を知っているので、苦笑している。
「フェルドリッジ伯爵家の参謀が副官としてお嬢様を補佐しますので、大丈夫だと思いたいです」
さすがフェルドリッジ伯爵だ。抜かりが無い。
「みなさん、出発いたしましょう!」
カティア様の号令で、俺たちはザント団の拠点に向かって出発した。
数日後。以前、攻略に失敗した拠点の前に布陣する。
道中、正規兵と冒険者は微妙な空気だったが、トラブルが起きることは無かった。
戦いに備えて身体を休めていると、軍議に呼び出された。
ミレナ、フィルザードも一緒なので、前回の戦闘の話を聴きたいのだろう。
「この間は部隊を二手に分けたのですね?」
「正面から兵士、間道を抜けて東門から冒険者が攻撃する手はずになっておりました。正面の部隊が、西側から現れたザント団の援軍による奇襲を受けて混乱。さらに拠点から部隊が打って出たことにより、挟撃を受けて敗走しました」
参謀が資料を見ながら先日の戦闘の経緯をカティア様に伝える。
「冒険者も単独での拠点攻略は不可能とみて撤退。フィルザードとグレイン、ミレナの3人が隘路にて敵を足止めし、被害を出さずに全軍退却に至った、と」
軍議参加者の数人が「おお~」と声をあげる。多分、先日の戦いに来ていなかった者たちだろう。
「3人は敵の強さについて、どう感じましたか?」
カティア様の問いに、まずフィルザードが答える。
「数の多さは厄介でしたが、一人一人はそれほど強くなかった印象です。ミレナの魔法にも対処できていませんでした」
フィルザードが俺たちに同意を求めてきたので頷く。
「俺も、賊たちは無策で突っ込んできていたように感じました。俺たちの消耗を狙っていたのだと思いますが、遠距離攻撃などを使ってミレナを倒そうという工夫はありませんでした」
俺の言葉にミレナが同意を示す。彼女も自分に向けられた殺気を感じなかったということだろう。
「奇襲を仕掛けるわりに追撃時は無策とは。良く分からない相手ですね……」
「奇襲部隊と追撃部隊の指揮官が違ったのでしょうか?」
「そうかもしれません。賊だからと油断せず、頭の切れる指揮官が居ると思っておいた方が賢明ですね」
カティア様の言葉に、この場の全員が頷いた。
翌朝。支度を終えた冒険者が一か所に集まっていた。
朝の状況を踏まえてカティア様たちが作戦を立案し、フィルザードが冒険者たちの指揮を執ることになっている。
「あそこ、炊事の煙が上がってるね」
ゼフレンが西の森を指差す。見ると、何本もの煙が上がっていた。
「もしかして、あそこに伏兵が居るのかな?」
「そう見えるが。……どうにもお粗末だな」
確かに。せっかく伏兵を仕込んだのに、わざわざ居場所をバラしてしまっては効果が無くなってしまう。逆に、罠だと考える方が自然なんじゃないか?
「戻ったよ。ボクたちは前と同じく間道を抜けて東門を攻めるよ」
「えっ? 西の伏兵に備えるんじゃないのか?」
伏兵に気付いた他の冒険者が、フィルザードに確認をとる。
「東だ。……何か考えがあるんだろう」
伏兵は正規兵だけで何とかする予定なのだろうか。
とにかく、今はカティア様の作戦を信じるしかない。
「冒険者のみんな! 出陣だ!」
俺たちは間道に向かうのだった。




