敗北
翌朝、俺たちはザント団の拠点が見える場所に布陣していた。
「あれが今回のターゲットか。……今までと違って敵が多いな」
「この拠点は今までのようにはいかないかもしれない。気を付けていこう」
ゼフレンの言葉に頷く。
昨日の騒動以降、冒険者と兵士の関係は険悪だ。以前は交流もあったが、今は会話が無いどころか、お互いに距離を置いている。
こんな状態で連携を取れるのだろうか。
「冒険者諸君、集合だ!」
そんなことを考えていると、フィルザードが冒険者たちに招集をかける。
戦闘前に冒険者だけで集まるのは初めてなので、俺たちは顔を見合わせた。
しばらくして、冒険者全員がフィルザードの前に集まる。
彼は俺たちを見回して全員揃っていることを確認すると、ゆっくりと話し始めた。
「ボクたちは別動隊として動くことになった。正規兵が拠点の正門から攻撃を仕掛け、ボクたちは間道を通って側面から攻撃する」
今までは敵が少なかったのもあり、正面から攻撃するだけで勝てた。
しかし、今日は敵兵が多いため、搦め手を使うということだろう。
冒険者は普段から森の中にある獣道を通ることも多いので、配置も理にかなっているように思えた。
「部隊を分けてしまえば影響は小さそうだね」
隣でゼフレンが小さく呟く。
冒険者の中には、兵士たちと離れられるとあって喜んでいる者さえいた。
「さあ、ボクたちは先に出立するよ」
フィルザードの号令を合図に、俺たちは進軍を開始した。
拠点の東門の近くに到着した。今は森の中に身を潜めている。
「よし、ここで本隊の攻撃開始を待つよ」
フィルザードによると、兵士たちが正面から攻撃を仕掛けて敵の注意を引き、頃合いを見て冒険者隊が東門を攻撃して敵を混乱させる作戦らしい。
指揮官の見立てでは、戦闘が始まると正門以外が手薄になるらしい。
「おかしいな。もう戦闘が始まっている時間だが……」
フィルザードが首を傾げる。
ザント団の拠点は静まり返っていて、とても攻撃を受けているようには見えない。
「正規兵の進軍が遅れているのか?」
「嫌な予感がする。みんな、注意を怠らないように」
フィルザードがそう言った途端、後方から一人の冒険者が走ってきた。彼はどうやら連絡役らしい。
「攻撃は中止だ! 引き揚げろ!」
「何があった!?」
「正規兵がザント団の奇襲を受けて混乱している! 至急、援軍に来てほしいそうだ!」
「ちっ! みんな、引き返すぞ!」
フィルザードは冒険者たちの動揺を鎮め、後退の指示を出す。
俺たちはそれに従い、来た道を引き返していった。
「おい! あれを見ろ!」
冒険者の誰かが声を上げる。
前方では、少数の兵士がザント団と戦っていた。指揮官や他の兵士たちの姿は見えず、周囲に倒れている兵士たちも少ないので、彼らが殿となって味方を逃がしたのだろう。
「急げ! 助太刀に行くぞ!」
フィルザードが号令を発し、俺たちは兵士たちのもとに向かった。
しばらく奮戦し、何とかザント団の追っ手を撃退する。
だが、彼らも態勢を立て直して追撃を再開してくるはずだ。
俺たちは後退しながら、生き残った兵士の一人に話を聴く。
「助かったよ。ありがとう」
「本隊はどうした?」
「指揮官を始め、みんな逃げてしまったよ」
彼の話によると、前後から奇襲を受けて兵士たちは恐慌状態に陥り、我先にと逃亡を開始したらしい。
少数の兵士たちが踏みとどまって戦ったそうだが、多勢に無勢だったそうだ。
「指揮官殿は陣に居るのか?」
「あの陣では、勢いに乗ったザント団を防ぎきれない。あの人の性格的に、近くの街まで後退しているはずだ」
「そうか……。後ろにボクたちが居るから安全に後退できると考えていそうだね」
生き残った兵士たちが俯く。おそらく、フィルザードの言葉が的を射ていたのだろう。
「つまりオレたちは捨て駒ってことか? ふざけやがって!」
話を聴いていた冒険者がいきり立つ。
フィルザードはその冒険者に鋭い視線を送って沈黙させると、全員に向けて号令を発した。
「残念だが、ボクたちだけであの拠点を落とすのは困難だ。味方に大きな被害が出るだろう。だからここは撤退する。何としても生きてレイヴェルクまで帰るんだ!」
その言葉に異を唱える者は居なかった。
「くっ! もう追い付いて来たか」
フィルザードが後ろを見て声を上げる。
つられて背後を見ると、ザント団の追っ手が迫っていた。土煙の量からして、数百人規模かもしれない。
冒険者は100人ほどと数で大きく劣る上、リリアのように戦闘向きではない冒険者も多く居るので、追い付かれるわけにはいかない。
「この先は道幅が狭くなっている。そこで敵を防ごう」
俺たちは足を早めた。
冒険者の最後尾が隘路の中ほどまで差し掛かった。
一番後ろに居た俺とフィルザードは、立ち止まって反転する。
「足止めに丁度良さそうな場所だね」
「そうだな。ここにするか」
俺たち二人はその場でザント団を待つ。
「不思議だね。まさかキミと共闘する日が来るなんてね」
「本当に。決闘前の俺に言っても信じないだろうな」
あの時は憎くてたまらない相手だったし、決闘中は強大な敵だった。
普段は変人だが、共闘するとなるとこれほど頼もしい男は居ない。
「二人で味方が逃げ切れるだけの時間を稼ごう」
「ハッハッハ。そうはいかないみたいだよ?」
「えっ? それは――」
どういう意味かと尋ねようとしたとき、後ろから「グレイン!」と名前を呼ばれた。




