仲間割れ
ザント団の拠点の場所が記された地図に基づき、拠点の攻略作戦が行われている。
冒険者たちもその作戦に参加し、正規兵とともにいくつかの拠点を攻略した。
今日も、俺たちは拠点の一つを攻略するため、兵団に加わっている。
今居るのは、レイヴェルクの東、街道の北側にある拠点付近だ。最初の頃と比べて随分と東まで来た。
「この辺りって狭い道が多いね。両側が山や崖になっていて、一人か二人分の道幅しかないところばっかり」
「僕ならここに来るまでの狭い場所に罠を仕掛けるけどなあ……。奴らが何を考えているか分からないよ」
確かに、狭い道に落とし穴や落石の罠を仕掛けられていたら厄介だったと思う。
「お兄ちゃん、考えすぎじゃない? 相手は所詮、賊だよ?」
「リリア、一つ間違えば命を落とすかもしれないんだ。慎重すぎるぐらいが丁度良いんだよ」
「わかった。気を付ける」
リリアが素直にうなずくと、ゼフレンが満足そうな顔をする。
「だけど、リリアがそう考えるのも仕方ないと思う。周りの雰囲気も緩んでるし……」
俺はそう言って周囲を見回す。
「ザント団って思ったほどじゃ無かったよな。所詮、賊は賊。訓練を積んだオレたちの敵じゃないってことか」
「歯応えが無さ過ぎて退屈だよな。これなら、未開拓地で収集クエストをする方がよっぽどスリルがあって良い」
「みんな緊張感が無さ過ぎる……」
「ここのところ、連戦連勝だからなぁ……」
ゼフレンが頭を抱え、俺たちも苦笑する。
最初はザント団も必死に抵抗していたが、最近では俺たちの姿を見るだけで大半が逃げ出してしまう。
そんな日々が続くうちに、兵士や冒険者たちの間に『ザント団は弱い』という認識が広がってきている。
ゼフレンの言うとおり、少し危険な状況かもしれない。
「それに最近、兵士と冒険者がギスギスしてる気がする」
「兵士と冒険者では価値観が違いすぎるからね……」
兵士たちは被害を小さくするために慎重に行動するが、冒険者たちは速さを優先する傾向がある。
正直、俺も兵士たちの行動に対して『そんなに慎重なの!?』と驚いたのは一度や二度ではない。
それでも、その道のプロが作戦を立てているので、命令には素直に従うことにしている。
「何だと!? もう一回言ってみろ!」
突然、怒声が響き渡る。
とっさに声の方を見ると、冒険者と兵士が言い争っているようだった。
「何度でも言ってやるよ! お前らが居ると統率が乱れるんだよ! いっつも突出しやがって。オレたちがどれだけフォローしてやってると思ってるんだ!」
「作戦が悪いんだよ! そもそも全軍で突撃するだけで勝てる相手だろ!」
「それだと味方の被害が大きくなるだろうが! そんなことも分からんのか!」
周囲の人たちが仲裁に入るが、二人はヒートアップしていて収まらない。
今にも相手に掴みかかっていきそうなほどだ。
「お前たち、何をしている!」
騒ぎを聞きつけた兵団の指揮官がやって来た。
彼は周囲に居る兵士から事情を聴くと、騒ぎを起こした冒険者に向き直る。
「冒険者風情が偉そうな口を叩くな。つべこべ言わずに俺の命令に従え!」
「何だと!?」
周囲の冒険者全員が険しい顔になる。
それまでケンカを止めようとしていた冒険者や成り行きを見守っていた冒険者たちが一斉に怒号を放つ。
前々から燻っていた、冒険者たちの不満が爆発した格好だ。
さらに悪いことに、兵士たちも冒険者に対する不満を抱いていたようで、彼らも冒険者たちに向けて一斉に罵声を浴びせ始めた。
「うわ、最悪だ」
「ひどい状況だね。前の指揮官は良い人だったのになぁ……」
リリアとミレナの二人は青ざめた表情で状況を見つめている。
ミレナの言うとおり、先日の拠点攻略戦とは指揮官が変わった。
彼は拠点の建物火災を防げず、中にあった重要資料を焼失させたとして更迭されてしまった。
あの建物に重要な書類が有ったかどうかは分からないし、火を放ったのは恐らくザント団員だ。しかも、あの指揮官はザント団の拠点が描かれた地図を持ち帰るという戦果を挙げている。
それなのに、あの指揮官が責任を取らされるのは、何とも理不尽だと思った。
考え事をしているうちに、騒ぎの中心では兵士たちと冒険者たちが一触即発の雰囲気となっていて、俺たちのところにも飛び火してきそうだった。
「ゼフレン、二人を頼めるか?」
怯える二人をこの場に置いておくのも良くない気がしたので、彼にそっと耳打ちする。
意図を理解したゼフレンが二人を静かな場所に連れて行った。
この場で乱闘が始まっても、巻き込まれることは無いはずだ。
「まったく、バカみたいな状況だね」
「フィルザード!?」
急に金ピカの鎧が視界に入ってきた。
よく考えると、彼もAランクパーティに所属する冒険者だから、この場にいるのは当然だ。
「久しぶりだね。最近、活躍しているみたいじゃないか」
「同じ戦場にいたはずなのに、不思議と出会わなかったな」
「ボクは指揮官殿と共に本陣に居たからね。冒険者側の総大将というところさ」
「……良いご身分なことで」
「ハッハッハ。もっと褒めてくれても良いんだよ」
しばらく会っていなかったが、フィルザードは相変わらずだった。
「それで、総大将サマはこの状況をどうするべきだとお考えですか?」
俺が投げやりに尋ねると、意外にもフィルザードは真剣な顔になった。
根は悪い奴ではないんだよな……。
「これはあくまでボクの勘だけど、近々ザント団は何かを仕掛けてくる気がする。だが、冒険者と兵士が一枚岩になれないこの状況では、対処し切れないかもしれない。そうなったとき、ボクたちに出来るのは、命を粗末にしないことさ」
「……意外だな。お前は命を捨ててでも功を立てたいタイプだと思ってたよ」
「ボクは確かに目立つのは好きだけど、それで死んでしまったら意味がない。目立つのも出世するのも、すべて命あってのことだ」
さすがにAランクパーティに所属しているだけあり、フィルザードの言葉には重みを感じる。
それと同時に、彼の人間臭い一面を見た気がして親近感を覚えた。
「キミはボクに勝った男だ。そう簡単に死ぬことは無いと思うが……ボクがリベンジするまで、死なないでくれよ?」
「お互いにな。待て、もうお前と決闘はしないぞ」
二人で笑い合い、グータッチを交わした。




