中級魔法完成
数日後、俺たちはレイヴェルクに戻ってきた。
色々と危ないこともあったが、全員が無事に戻って来れて一安心だ。
あの後、村長たちの身柄は、通報を受けて駆けつけてきた貴族に引き渡された。
彼は村とその周辺を治める貴族で、村長も彼の部下だったらしい。
貴族は目をほの暗く輝かせて『拷問してでもアジトの場所を吐かせてやる』と言っていた。
村長たちからアジトの場所を聞き出せれば、貴族たちは部隊を編成して討伐作戦に移るだろう。
俺たちも駆り出される可能性が高そうなので、今のうちからしっかり準備しておこう。
村長とザント団の繋がりを教えてくれた少女とその家族は、あの村に居るとザント団に命を狙われる可能性があるということで、フェルドリッジ伯爵家の保護下に置かれることとなった。
なので、俺たちが護衛しながら伯爵家の本邸まで送り届けた。
その道中、少女は俺とカティア様にすっかり懐いてしまい、別れの際には『行かないで』と泣き出すほどだった。
グラシアさんは『お嬢様とあの子の双方が望めば、彼女をお嬢様の侍女として雇うこともできる』と言っていたので、また近いうちに逢えそうな気がしている。
少女は素直で聡明な子だったので、彼女がどんな選択をしてもきっとうまくいくはずだ。
そして現在、俺たちはミレナの魔法の練習を手伝うためにレイヴェルクの城門の外にいる。
今日は練習というより試験に近い。
的を用意して、魔法でその的を射抜けるかを確認するのだ。
この場にはグラシアさんはもちろん、リリアとゼフレンも来ている。
カティア様も見に来たそうにしていたが、ザント団に関する会議に出席しなければならないそうだ。
にもかかわらず、彼女の右腕であるグラシアさんを貸してくれるのだから、その懐の深さには感服する。
その際、ニヤニヤと笑いながら『グラシアはわたくしだけの味方じゃなくなったのよねー』と言って、グラシアさんをからかっていたが、あれはどういう意味だろうか。
「はあっ!」
そんなことを考えている間に、平原にミレナの声が響き渡った。彼女が繰り出したウォーターボールは、吸い込まれるように的に命中する。
以前とは異なり、水球の形も完全に制御できていた。
次にミレナが狙うのは、距離も方向も全く異なる3つの的だ。
グラシアさんによると、複数個の水球を続けざまに違う方向・強さで発射し、正確に的を射抜くのは相当難しいらしい。これを成功させられるのは、この国の魔法使いでも一握りだという。
「はっ、ふっ、はあっ!」
ミレナは3発の球を連射する。
彼女の手元を勢いよく飛び出した水球たちは、導かれるように的に向かっていく。
――パキッ、パキッ、パキッ
乾いた、小気味の良い音が周囲に響き渡る。
ミレナの魔法は、三つの的の中心を正確に射抜いていた。
気が付くと、俺は拍手をしていた。他のみんなも同じように拍手を送っている。
ミレナは俺たちの拍手に気が付くと、照れたように顔を赤く染める。
「お見事です。やはり私が見込んだ通り、あなたの水魔法の才能はこの国でも屈指のものですね」
「ありがとうございます」
ミレナは顔だけでなく、耳まで真っ赤になっている。それでも彼女への賛辞は止まない。
結局、俺たちが褒め尽くした頃には、ミレナはぐったりとしていた。
それからしばらくして、ミレナが復活したのを見計らって話しかける。
「ミレナ、おめでとう。もう完全にコツを掴んだみたいだね」
「ありがとう。グレインのおかげだよ」
どういうことだろうかと首を傾げていると、ミレナが神妙な面持ちになる。
「あの日、グレインが『撃て』って言った瞬間、頭が真っ白になった。無理に決まってる、グレインに当たるかもしれない、って悪い未来ばかりが浮かんできた」
と、まるで罪を自白するかのようにミレナはあの時の心境を語る。
そして一つ息を吐くと、「でも」と続けた。
「グレインを見たら、あなたが私をじっと見てくれているのに気付いた。あなたは私以上に私の魔法を信じてくれているって伝わってきた。そしたら不思議と勇気が湧いてきて、何も怖くなくなったの」
照れくさくなったので返事しようと口を開きかけたところ、『最後まで言わせて』とミレナが手で制してくる。……まいったな、頬が熱を帯びているのがわかる。
「世界で一番信頼している人が私の魔法を信じてくれたんだから大丈夫だって思ったんだ。そしたら逆に、失敗する未来を想像できなくなっちゃった」
ミレナは言いたいことを全て言い切ったらしく、満足げな表情を浮かべる。
どうしよう、すごく嬉しい。
というか、こんなに恥ずかしいことをよく照れもせずに言えるなあ。
少しだけ彼女に仕返しをしたくなってきた。
「ねえミレナ。きみは一つだけ勘違いをしてる」
「えっ? 勘違い?」
ミレナはきょとんとした顔になる。
「うん。俺はミレナの魔法だけを信じているわけじゃない。きみ自身を信じているんだ」
ミレナの顔が茹でたように真っ赤に染まっていく。彼女の頭から湯気が出ているように見えるほどだ。
一方、俺は暴れ狂う心を悟られないよう表情を固めるのに必死だった。




