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好きな人がパーティを追放された  作者: myano


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盗賊被害の調査④


「それは良いことを聞いたねぇ」


 男の声が響き渡る。

 とっさに路地の入口を確認したが、すでに男の仲間が立ち塞がっていた。

 俺は少女を身体の後ろに隠す。

 ――マズい。この子だけでも逃がさないと。

「あの人が村長、です」

 少女が俺の後ろから顔を出し、路地の奥から現れた男を指差した。


 村長たちは両側からジリジリと距離を詰めてくる。

 ――村長の方が弱そうだし、そっちに突っ込むか? いや、奥が行き止まりかもしれない。

 少し迷ったが大通りに向かうことを決断し、少女に耳打ちする。

「よく聞いてね。俺があの二人を足止めするから、キミはさっきのお姉ちゃんのところまで逃げるんだ」

 少女は『えっ』という顔をしたが、俺の目を見て覚悟を決めたようだ。引き締まった表情で『コクッ』と頷いた。


「行くよ!」

 合図を出しつつ走り出す。少女も後ろをついてきているようだった。

 後方で村長が「待て! 逃げる気か!?」と叫んでいるのが聞こえ、大通り側にいる男が俺たちを行かせまいと構える。

 俺は男に体当たりし、その勢いで壁に押しつけようと足に力を込める。

 だが、男も負けじと押し返してきた。俺たちはそのまま組み合い続ける。

「何をしている! 子供が逃げるぞ!」

 村長が叫ぶ間に、少女は俺たちの横をすり抜けて大通りに飛び出していった。

 安堵する間もなく、村長が俺たちのところまで辿り着く。彼は少女に追いつけないことを悟ったようで、切羽詰まった表情をしていた。

「くそっ! 何でもっと仲間を連れて来なかったんだ!」

「知るか! そもそもあんな子供に会話を見られたお前が悪い」

 二人は俺を殴りながら仲間割れを始める。……二人で殴り合ってくれませんかね?

 痛みを堪えながらそんなことを考えていると、村長が一歩下がって懐からナイフを取り出した。


「こうなったら、この冒険者を人質にして逃げるぞ」

「こいつが人質になるのか? 冒険者なんて、切り捨てられるだけだと思うが……」

 男が呆れたように指摘するが、村長は不敵に笑う。

「大丈夫だ。隠れて様子をうかがっていたが、あの貴族はこの男を気に入っているらしい。こいつは良い駒になるはずだ」

 そう言いながら村長は俺の首元にナイフを突き付ける。

「死にたくなければ大人しくしろ!」

 興奮気味に命じる彼の顔は狂気に染まっていて、目も血走っていた。



 二人に連れられて村の東門の前までやって来た。

 カティア様達も追いかけて来ているが、俺が人質になっているため近付けない。

「良いか! それ以上近付くとこいつの命はないぞ!」

 村長が俺にナイフを突き付けたまま叫ぶ。

 声を聞く限り、理性が残っているかどうかも疑わしい。逆にそれが、カティア様たちを止めるには効果的だった。

 俺たちとカティア様たちの距離はかなり離れており、グラシアさんの魔法でさえ、正確に狙撃するのは困難だ。

 ミレナならばと思ったが、彼女の初級魔法では届かないぐらい離れている。

 ――中級魔法なら届くかもしれないが……

 そんな考えが頭をよぎるが、すぐに打ち消した。


「お願い、その人を解放して! わたくしが代わりになるから!」

「お嬢様! いけません!」

 カティア様が今にも駆けだそうとするのを、グラシアさんや護衛隊長が押しとどめている。

 そんなカティア様の様子を見て、村長が邪悪な笑みを浮かべた。

「良いだろう。お前がここまで来れば、この男を解放してやろう!」

 彼らにその気がないのは明白だが、カティア様は救われたような表情を浮かべる。

「お前ら! その女を放せ! さもないとこの男を刺すぞ!」

 村長がそう叫ぶと、グラシアさんたちは反射的にカティア様を放してしまう。

「グラシアさん! 俺は良いから、早くカティア様を止めてください!」

 グラシアさんはハッとした表情を浮かべると、慌ててカティア様を追う。

 だが、決して追いつけないほどに二人の距離は開いてしまった。


「ひひっ。あの女をアジトに連れて帰れば良い土産になる……」

 村長が企みを漏らす。それは最悪の未来だった。

 ――くっ! 何か方法はないのか!

 そう考えながら周囲を見回すと、悔しそうな目でこちらを見つめるミレナの姿が目に入った。

 ふと、さっき否定した方法が思い浮かぶ。もはや、それ以外の手段は残されていなかった。

 ――ミレナなら大丈夫。きっとうまくやってくれる。

 俺は覚悟を決めると全力で叫ぶ。

「ミレナ! 撃て! 俺に当たってもいいから魔法を撃て!」

 ミレナが『信じられない』というような表情でこちらを見るが、俺は『信じているぞ』という気持ちを込めて一つ頷く。

 彼女は覚悟を決めるべく一度目を閉じ、すぐに開く。

 その瞳は『グレインには絶対に当てないから』と自信満々に語っていた。

 ――不思議だ。何でこんなに安心した気持ちになるんだろう。

 状況は最悪で、ミレナはまだ習得できていない魔法をこちらに向かって撃とうとしている。

 俺に当たる可能性もあるし、そもそも誰にも当たらない確率はずっと高い。

 村長たちが逆上して状況は悪化するかもしれない。なのに。

 ――ミレナなら大丈夫だ。


 ミレナが右手に魔力を込め、彼女の手元に水の塊ができる。

「あの女、本当に撃つつもりか? この距離で正確に撃ち抜けるわけがない」

 村長たちは勝利を確信しているのか、ミレナを止めるつもりはなさそうだ。

 それが命取りになるとも知らずに。

「あの速さなら、2発目が来る前にお嬢サマを人質に取れるな」

 ――馬鹿め。1発で十分だよ。

 心の中で悪態をつきながら、頭ではこの後の立ち回りを考える。

「はぁっ!」

 ミレナの声とともに、水の玉が発射され、俺は同時にしゃがみ込む。

 水球は俺が思い描いた通りの軌道で、村長の、ナイフを持つ右腕に直撃する。

「ぎゃあああ!」

 油断していた村長は衝撃でナイフを取り落とし、地面を這いつくばって悶絶する。

 俺は剣を抜き、何が起きたのか分からず呆然としていたもう一人の男を叩き伏せた。

 男が気絶したのを確認すると、俺は「ふうっ」と息をつき、振り返ってミレナを見る。

 彼女は俺と目が合うと、自慢げに笑った。

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