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好きな人がパーティを追放された  作者: myano


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中級魔法

 城門の外に出るが、見える範囲にミレナはいない。

俺は何かに導かれるように城壁に沿って北へ向かう。そして、城壁の角に立つと『前にもこんなことがあったな』と思いながらその先を覗き込んだ。

「はああっ」

「もう少し、水を手元に集める感覚を強く意識してください」

 俺の予想どおり、ミレナが魔法の練習をしていた。彼女の隣にはグラシアさんの姿もある。どうやらミレナに魔法を教えているようだ。

 ミレナの手元に目をやると、彼女がいつも扱っている初級魔法『ウォーターアロー』より多くの水が集まっているのが見える。距離があって分かり辛いが、小さな果物ぐらいの大きさだろうか。

「あれはもしかして中級魔法か?」

「そこで見ているのは誰ですか?」

「――っ!?」

 グラシアさんが俺に気付いて声を上げる。

もはや逃れられないと観念した俺は、両手を顔の高さまで上げて二人の前に姿を出す。

「グレイン!?」

 ミレナは俺の姿を見て一瞬目を丸くしたが、すぐに渋い表情に変わる。俺たちには内緒にしておきたかったのかもしれない。

「ええと……ち、調子はどうだ?」

「ま、まあまあかな」

 俺がためらいがちに問いかけると、ミレナが恥ずかしそうに答える。

そのままお互いに黙り込んでしまい、周囲をぎこちない空気が包む。

その空気に耐えかねたのか、グラシアさんが「あのー」と控えめに右手を上げる。

「グレインはどうしてこちらに?」

「何となく、ここにミレナがいる気がしたので」

 ミレナの顔が真っ赤に染まり、目が泳ぎだす。彼女の反応を見て言葉足らずだったと気付いた俺は慌てて弁明する。

「ち、違うんだ。ミレナに会いに来たんじゃなくて、ここで魔法の練習をしているんじゃないかと思って見に来たんだ」

 俺がそう言うと、ミレナががっかりしたような顔をする。なんで?

「せっかくですからグレインも見ていきますか?」

「えっ? でも何も――」

 『手伝えませんよ』と言おうとしたが、その言葉を飲み込む。ミレナの目が『行かないで』と言っているように見えたから。

「応援ぐらいしかできないけど、見させてもらっても良いかな?」

「うん!」

 こうして、ミレナの魔法練習に付き合う日々が始まった。



 ゼフレンとリリアにも簡単に事情を話し、しばらくの間は簡単な日帰りクエストを中心に受注することに決まった。一時的に稼ぎは落ちるが、ミレナが中級魔法を習得できれば活動の幅が広がるので、長い目で見ればそちらの方が良いという結論になったのだ。

 というわけで今日もミレナの魔法練習を手伝いにきた。手伝いと言っても俺にできることは応援ぐらいなのだが……。

「昨日は時間もありませんでしたし、今日はまず、グレインさんに現状を知ってもらうところから始めましょうか」

「はい。……グレイン、見ててね?」

 上目遣いでそう言われて不覚にもドキッとしてしまったが、すぐに気持ちを切り替えて彼女が魔法を使う様子を見ることに集中する。


 ミレナは右手を軽く前に差し出し、掌を上に向ける。そしてそのまま手を凝視する。

 すると、彼女の掌の上にどこからともなく一滴の水が出現し、ぷかぷかと宙に浮く。

彼女が右手に込める魔力量を徐々に増やすと、水の大きさも少しずつ大きくなっていく。

水球の膨張は、じゃがいもの大きさぐらいになったあたりで止まる。今のミレナにはこの大きさが限界なのかもしれない。

「分かりやすいように私の魔法と比較してみましょうか」

 そう言ってグラシアさんも右手を前に差し出す。すると、一瞬のうちにこぶし大の水球が現れた。二人が生み出した水球を比較するとミレナの現在地が一目瞭然だ。

 まず、大きさはグラシアさんが生成したものに比べて二回り以上小さい。また、グラシアさんの水球は同じ形を保っているが、ミレナのものは球体になったり楕円体になったりを繰り返している。

 また、水球の生成速度もグラシアさんは一瞬だった。このあたりが現時点における二人の差であり、ミレナの成長余地だろう。

「さて、魔力を解放しましょうか」

 グラシアさんがそう言うと、二人の手元で浮かんでいた水が「パシャッ」と落下する。

「あれ? 発射はしないんですか?」

「今はまだ形が(いびつ)なので、それを真っすぐ飛ばそうとすると変な癖がつくかもしれません」

 なるほど、そういうものなのか。ミレナも『うんうん』と頷いているので、彼女も納得しているようだ。

「まあ、ミレナはウォーターアローをあの精度で扱えるのですから、綺麗な球体さえ作れれば目標を狙うのは造作もないでしょう」

 前に話した時にも感じたが、グラシアさんはミレナの才能を高く買っているようだ。



ミレナが鬼気迫る表情で魔法を練習している。こうなった時の彼女の集中力は凄い。

今のうちにミレナが習得しようとしている魔法について知っておこう。

「グラシアさん、少しお尋ねしたいのですが……」

「はい、何でしょうか?」

「ミレナが習得しようとしている魔法ってどんな魔法なんですか?」

「ウォーターボールという中級攻撃魔法でして、このように――水の玉を生み出して、飛ばす――魔法です」

 グラシアさんが実演を交えて教えてくれる。イメージとしては、初級魔法であるウォーターアローの威力を上げた攻撃魔法という感じだろうか。

「ウォーターアローより威力は上がると思うんですが、射程も伸びるんですか?」

「はい。比べたことは無いので、あくまで体感ですが……」

 そう言ってグラシアさんは恥ずかしそうに頬をかく。まあ、彼女は魔法の研究者ではないので、わざわざ調べたりしないか。

 そんな話をしている横で、ミレナは何度も手元に水を集めては解放するということを繰り返している。彼女は、できあがった水の塊を見るたびに納得いかないという表情をしていた。

「ミレナ、頑張れ……!」

 思わず小さな声が漏れる。すると、ミレナが『ピクリ』と小さく反応した気がした。

「ふうっ!」

 小さな掛け声とともにミレナが魔力を込める。すると、グラシアさんのお手本とほぼ同じ大きさの水球ができあがった。

「ミレナ! その調子です!」

 グラシアさんが興奮気味にミレナを励ます。

 ミレナはその水球を何とか綺麗な球体に整えようとするが、大きくなった分だけ制御が難しいようだ。最終的に、「ああっ」という苦悶の声とともに手元の水は地面に降り注いだ。

「――っ! もう一回!」

 ミレナは悔しそうな顔でそう言うと、再び右手に魔力を込める。今度も先ほどと同じぐらいの大きさの水球が彼女の手元にできあがった。

「さすがミレナ。水を集める感覚は掴めたみたいですね。あとは形だけ、なのですが……」


 ミレナはその後も門限の時間まで挑戦し続けたが、習得には至らなかった。

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